少子化対策も大事だが、まず今の青少年の未来を確保することを考えよう
ここ1~2年で、日本の人口減少がもたらす具体的なインパクトが身近に感じられるようになり、政府や行政機関も少子化対策に本腰を入れ始めているようである。これらは主に出生率向上を目指す対策や、幼少期の子どもたちの子育てにフォーカスした教育無償化などが中心となっている。
一方で、ここしばらく目につくのは、そうした幼少期を過ぎ、成人した後、あるいは未成年でも一定年齢以上の若者が犯罪の被害者や加害者になるケースが増えていることだ。加害者になっても被害者になっても、若い人たちの将来にマイナスの影響が及ぶことは想像に難くない。この問題を解決することが、出産育児と並んで、社会全体で取り組むべき課題ではないか。
典型的な例は、昨今大きな話題となっている、「闇バイト」によって主に若い世代が犯罪の実行役に仕立て上げられるという問題であろう。
なぜこのような問題が起きるのかについて、友人たちとも議論し、様々に考えたが、大きく言うと3つの要素があると思う。1つは「情報取得」の問題、2つ目は「判断力」の問題、そして3つ目が「友人関係の有無」の問題である。
まず1つ目の「情報取得」の問題は、自分が取る行動がどのような結果に結びつくのかという基本的な情報が欠けているのではないか、ということだ。例えば、他人のものを自分のものにする犯罪にもさまざまな形態があるが、詐欺や窃盗などのように相手が気づかない間に行う犯罪に比べ、強盗は罪が格段に重い。まして、相手に傷害を負わせたり死亡させたりすれば、本当に一生を棒に振ることになる。こうしたことを、犯罪に関わって強盗の罪を犯してしまった若者たちは知っていたのだろうか。
また、2つ目の「判断力」の問題になるが、単に知識として知っているだけでは不十分で、それに基づいて自分がどのような行動をとるべきか判断する必要がある。その判断力を養う経験が十分にあったのだろうか。過去に比べて、現代ではいじめや各種ハラスメントなどが問題視されるようになり、若い人たちの環境は格段に改善されているが、一方でその改善が自己判断の機会を奪い、自分が危機的状況に陥ることを避ける能力を弱めている可能性もあるかもしれない。そうだとしたら、それをどのようにして補うのか。
そして最後は「友人関係」である。コロナ禍以降、リアルな友人関係が減少したり疎遠になる一方で、SNSの人気も相まってオンラインでのつながりが強くなっている。どうしても当たり障りのない、表面的な関係に終始しがちなオンラインの特質から、悩みや困りごとを打ち明けて相談できる友人関係が育ちにくい社会環境になっているのではないか。
闇バイトの問題に限らず、友人を追い詰めて自殺に追いやったり、痛めつけて結果的に死に至らせたりするなど、若い人同士の事件も報道されている。
被害者になるにせよ加害者になるにせよ、それでなくても数の少ない若者がこうした犯罪の当事者となり、命を失ってしまったり、その将来を棒に振ってしまうことは大きな社会的損失である。こうした事態に対してどのように対処すべきかは非常に難しく、私自身もすぐに対策を思いつかない。それだけに、出産や幼少期の子育て支援に限らず、成人する前後の若者が犯罪の当事者とならないよう過ごしていける環境作りにも、注目していく必要があるのではないか。
犯罪の捜査では、どうしても直接的な被害・加害の原因や結果に焦点が当たりがちだが、その背景にある「なぜ犯罪の当事者になってしまったのか」という事情を、捜査の観点とは別に、若者の生活環境の整備という視点から情報収集・分析し、その結果を学校や地域社会にフィードバックすることで、少しでも若い人が犯罪の当事者にならないような仕組み作りが求められていると思う。