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Whyから始めよう。

年末、菅義偉前首相のインタビューが掲載されたが、これは興味深かった。すごく意思が伝わってきた。

この記事が面白かったので、ベースとなった3日間にわたるインタビュー詳報を食い入るように読んだが、これも素晴らしい。上編の冒頭、解散総選挙の流れあたりは全くどうでもいいのだが、そこから先は「政策の人」としての頭の中が立体的に、強いストーリー性をもって私のハートにノックした。

上(12/21) 

中(12/22)

下(12/23)

どうだろう。全ての質問に対し、主張は明確で、はぐらかすようなところは一才なく、かつ説得力がある。右だの左だの、というような鼻につく「政治思想」「あるべき論」を微塵も感じさせず、国民にとって政府はどうあるべきか、政治は何をすべきか、ということで全ての政策を行なっていったことがうかがえる。

そしてさらに素敵なところは、うまくいかなったところ、進みが遅かったところも原因をごまかすことなく、こう思った、という私見を素直に述べられている。例えばコロナの記者会見で菅さんと尾身さんと並んでやっていたことに対し、「それで始めてしまったから」と、虚勢は全く感じられず思った通りそのまま伝えている。維新など他政党に関する考えも受け止めやすい。加えて現在進行中の件は、はっきりと「今進んでいる話なので」としている。

菅さんの頭の中が極めて明快で、あるべき論に囚われず、国民の信頼を得られるストーリーをもった政治家であることはこのインタビューから実によく伝わった。いや本当に、この記事は素晴らしかった。

では課題は何かと言えば、なぜ在任期間中に、この記事にあるようなところが伝わらなかったのだろうか、ということだ。菅さんのことを直接知っていたり、話をしたことがある友人たちは皆、菅さんのことを絶賛していた。それを聞いて、素晴らしい能力を持った方なんだろうな、と思っていた。

しかしながら、首相時代の記者会見などを思い出してみると、国民に向き合う姿勢としては、とてもトップリーダーとして信頼に足るような印象は受けなかった。コミュニケーションとしては、全くなっていなかった、と言っていい。そこは私自身の評価は、現在も変わりない。官房長官時代はあれでよかったが、首相は違うなと。

トップリーダーは、意思決定力とコミュニケーション力(プレゼン力)が、両輪のように大事なのだなぁ、と思う。

意思決定力、というのは、
1)情報収集し、
2)状況分析し事象を構造化し、
3)骨太なストーリーの中で意思決定していく
ということだと思うが、これはまさに菅さんが行なってきたこと。ただ必要とされたのは、これだけではなかったということ。

ワクチンを重視する、脱炭素宣言を行う、オリンピックを行う、デジタル庁をつくる、携帯電話料金を引き下げさせる、などなど、意思決定されたことは色々あり、それはこの短期間にすごいよな、と改めて思うけれど、

それをしっかり国民にメッセージングする、ということが大事なのだと改めて強く感じた。「いわゆる」プレゼン力が大事なのではない。「Why」を語る力(=真のプレゼン力)が必要なのだ。

結論は伝わっていた。しかしWhyが伝わっていなかった。結果として、国民に伝わっていなかった。ここが課題だったと感じる。

滑舌や軽妙さなどは全く不要。プロンプターを見ながらとかそうでないとかどうでもいいのだ。それができていることがプレゼン力なのではない。Whyを語るのだ。菅さんの滑舌であったとしても、自分の想いに従い、Whyをしっかりと語る。菅さんのプレゼンには、これがなかった。少なくとも、それが重要だ、という意識がなかったように感じた。結論だけ伝えて、あとは絶対に話さないぞ、とでも思っているかのようだった。

Simon Sinekの有名なTED動画”ゴールデンサークル”にもあるように、Whyこそが大事だし、Whyから語る、ということが人を動かすのだ。それこそが「真のプレゼン力」だ。Steve Jobs、キング牧師にあったものだ。

Whyをしっかりと考えていた菅さんだからこそ、それをご自身の言葉で語れば、新型コロナウィルスの感染拡大期という難しい局面だったにせよ、政権運営はおそらく、違ったものになったのではないか、と考える。

そして。

Whyを伝えるプレゼン力が大事だということは、一方で、受け止める国民側も当然、Whyをしっかりと考えておくことが大事だということだ。

私たちは政治を見る時につい、菅さんと二階さんがどうだとか、安倍さんと岸田さんがどうだとかいう、誰と誰がうまくやっているだのやっていないだのという話をしがちだし、10万円の給付方式や大学入試における方針の変化など、「結論の決め方」だけピックアップして、その決め方が優柔不断だといった、「人の噂話的に面白いこと」にフォーカスしがちである。

が、そんなものはどうでもいいのだ。
(細かく言えば前者は政権の安定度に影響は与えるし、後者は官公庁に対するグリップ力を示唆しているので、どうでもいい話と言い切れはしないが。少なくとももっと大事なことがある)

トップリーダーが何を決めたのか(What)、そしてそれはなぜなのか(Why)、ということを私たちはひとつひとつ見ていくべきだし、そのWhyは、菅さんもインタビューの中で述べておられる脱炭素、デジタル、少子化、地方活性化に貢献することなのかどうか、という観点で評価されるべきだし、

この4本の成長戦略の柱はなぜこれなのか、という「そもそものWhy」については、我々一人ひとりが「そもそも国はどうあるべきか、それはなぜか」、たくさん考え、議論し、コンセンサスを得ていくことこそが、我が国の未来、政治の未来にとても大事なことだろう、と改めて思った。

つまり、菅さんガー、岸田さんガー、ではない。この国の政治は、私たち一人ひとりにかかっているのだ。当たり前の話だが。

トップリーダーはWhyを語る。私たちは、Whyを考える。
Whyから始めよう。それが日本を強くする。

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