「女性管理職候補者」を増やすには、まずは一歩手前の育成から。ポイントは上司の“先入観”を取り除くこと?
皆さん、こんにちは。今回は「女性管理職の育成」について書かせていただきます。
日本企業の女性の登用が、世界的に遅れていることは周知の事実ですが、つい最近EUが上場企業を対象に「全取締役の3分の1以上など一定比率の女性を登用するよう求める」法案を大筋で合意したと報道されました。
日本は21年改定のコーポレートガバナンス・コードで性別や国際性など多様性の確保が盛り込まれたものの、数値目標の導入は見送られており、女性登用の遅れに対し、投資家の目は厳しさを増す一方です。
■女性の管理職登用が進まない理由
女性の管理職登用が進まない理由は複数ありますが、こちらの記事にある通り、
そもそも女性社員数が少ない
育休復帰後の女性社員に対する育成が十分でない
この仕事は女性向きではないという意識や先入観がある
管理職のダイバーシティに関するマネジメント力が十分でない
業務アサインに男女差がある
女性に管理職になろうというマインドが欠如している
女性管理職のロールモデルが不在
「男性は仕事、女性は家事・育児」という根強い性別役割分担意識
などが挙げられます。
管理職になると役割が増え、労働時間が長くなり、責任も増していきます。「管理職になるといろいろと大変そう」という状態が社内にまん延していると、女性がそうした職を避けがちです。
また、人事評価において意識・無意識を問わずバイアスがあることで、上司が昇進を決める際に「女性には無理だろう」と決めつけてしまっている可能性もあります。
■なぜ女性は管理職“候補”にもならないのか
記事には、リクルートさんのように従業員に占める女性の割合が5割の企業であっても、管理職の候補者選びの段階で「女性が対象になりにくいのでは」という仮説のもと、『新基準を策定した』とあります。
管理職の基準を明文化している企業は多いですが、「管理職候補」となる人材の基準をしっかり定義している企業はあまりないように思います。管理職に推薦する上司のバイアスによって、潜在的に能力のある人材が候補の対象から外れてしまうことは非常にもったいないことです。
よく「そもそも女性は昇進に対する意欲がない」という話を多くの企業の人事の方から聞きますが、極端に言うと、その時点では“意欲”はなくても、“能力”があるのであれば、まずは管理職候補として育成していくことが大事なのだと思います。その過程で、必要な能力やスキルを身につけ、管理職候補の一人であるという自覚をもってもらうことによって、後から本人の意欲向上につなげていくことができれば良いのではないでしょうか。
では、具体的に「管理職候補」になり得る人材の基準にはどのようなものがあるか考えてみます。
仕事において、高いパフォーマンスを出しているか
目標達成のためにアクションプランを立てられるか
論理的に筋道を立てて物事を捉え、説得力のある説明ができるか
戦略上期待されていることを実行できているか
会社の戦略を理解して、部下に説明できるか
社内外の人と良好な関係を築くためのコミュニケーションがとれるか
課題を解決するために、正しい情報を素早く収集し、総合的な視点から判断できるか
業務遂行のために人を巻き込んでいるか
プレイヤーとして影響力を発揮しているか
成果だけではなく自社らしさ(会社の価値観や強みなど)を体現しているか
まずは、上司や人事、経営幹部からの推薦がなければ「管理職候補」にすらなれない、という状況を打破し、純粋に「能力」を正当に評価していくような、企業ごとの“基準”を作ることが大事なのだと思います。
能力を持っている管理職候補者を増やしたならば、あとは、「選定後のサポート体制」を作り、「個別の育成計画」を立て、「経験を積む機会」を適切に提供していくだけです。
■管理職になる前のプレマネジメント経験機会がカギ
「管理職の育成」の必要性はどの時代においても重要な課題として認識されており、管理職に昇格すると「新任管理職研修」のような研修制度が整っているという企業は多いと思います。
新任管理職がよくぶつかる壁としては、
部下に仕事を任せきれない
プレイング業務が多く、マネジメント業務に割ける時間が少ない
部下の意欲を高められない、うまく育てられない
上司と部下に挟まれて適切な判断ができない
などがありますが、後輩の面倒を見るプレマネジメント経験がないままいきなり管理職になるケースは少なくなく、突然管理職になって戸惑う、という声は多く聞かれます。
今回引用させていただいた記事の通り、まずはその一歩手前の「管理職候補となる人材をいかに増やすか」「管理職になる前の段階で、どんな経験を積むべきか」という観点も合わせて考えなければいけません。
管理職になってから管理職らしく振る舞ってもらうのではなく、その前から「プレマネジメント経験」を積んでもらうことが、管理職になってからスムーズに役割意識を変えてもらうことにもつながります。目先の業務だけに追われず、「経営に関する情報への関心」や「人を育てることへの関心」を明確に持ってもらう必要もあります。
プレマネジメント経験とは、一つは、「影響力を発揮して人や組織を動かす経験」、もう一つは、「後輩や新人育成担当など、人を育てる経験」だと思います。管理職になる前に、人を育てる経験を積み、人材育成の苦労や醍醐味を実感した上で管理職になれるような機会を意識的に作れると良いと思います。
女性管理職候補者を増やしていくためにも、管理職一歩手前のリーダー経験や、大きなプロジェクトを任せる機会を増やしていくことで、上司も、場合によっては自分自身さえも気づかなかった、管理職としての適性を発見することになるかもしれません。
上司が行っている業務や役割をあえて切り出し、意図的に候補者となり得る人材に渡していくことが管理職の先行経験となり、そこに面白さや管理職としての仕事の重要性を認識してもらうような仕掛けをいかに作っていけるかがポイントではないでしょうか。
■女性の「将来性」が過小評価されないために
こちらの記事には、
とあります。
管理職候補となる人材の「将来性」の評価とは何でしょうか。
シンプルに言うと、「今と変わらず昇進後も活躍し続けてくれるかどうか」です。性別関係なく、管理職に求められる能力は、一般社員に求められる能力とは違います。昇進後、プレイヤーとしては優秀だったのに、管理職になった途端、思うようなパフォーマンスを発揮しきれない人はたくさんいます。昇進後の将来は、誰にとっても不確実性が伴うのです。
公正に将来性を評価していくためには、「評価軸」や「評価基準」を事前に明確に決めるほかありません。事前に設定した目標に対して、客観的にその到達度を評価していれば、バイアスを取り除いた上で、評価者にとっても被評価者にとっても納得度の高い評価をすることができます。また、一人の上司だけではなく、複数の立場の異なる人の評価を織り込む必要もあります。
大事なポイントは、「恣意性」を極力排除・軽減していくことです。誰もが無意識のバイアスを持っていることを忘れてはなりません。
最後に、日本が女性活躍を政策の中核に据えてから約10年経とうとしていますが、各企業であらゆる取り組みを推進し、女性管理職比率は伸びてきているものの、実際に目標達成できるイメージを明確に持てている企業の方が少ないという状況があります。せっかく目標を掲げても全く届かずに、目標を下方修正したり、取り下げてしまう企業も少なくありません。
私自身、「女性活躍」や「ダイバーシティ」というテーマで、対外的に意見を発信する場が多々ありますが、SNSでの反応として「まだ“女性活躍”って言っている企業があるのか(その考えが古い)」というような意見や、「女性活躍=“女性優遇”をよく平気で言えるな」という意見を目にすることが多いです。
男性が圧倒的に多い経済界において、多様性を実現するための突破口の一つが「女性活躍」なのですが、この第一歩ですら達成できていないのです。また、女性活躍をなぜ推進しなければいけないのかを本質的に理解できている人もまだまだ少ないです。
「女性活躍」といっても、それは単に女性管理職比率を上げることではありません。性別に囚われたバイアスや考え方をなくし、能力のある多様な人材が活躍できる企業風土を構築していくこと、そしてその先の、多様な意見を取り入れ、新しい価値を生み出していくことこそが、本当のゴールではないかと思います。
性別や年齢、国籍などの違いは、「事業の成功」「企業の発展」「ビジョンの達成」など同じ目標を共有していれば、乗り越えられるものです。
女性管理職を増やすこと、管理職候補となる人材を増やすこと。そのためにできることは全て実行できるなら実行するに越したことはありませんが、まずは経営層や管理職が持っているバイアスを極力排除して、管理職候補となり得る人材を公正に評価することで増やしていき、同じ目標を共有し仲間として認め合い、信頼関係を築くことからではないでしょうか。