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首都一極集中からの脱却:ジャカルタから移転するインドネシア、日本は・・・


東京への一極集中が止まらない。地方創生や地方自治が叫ばれて長年経つが、マクロな社会統計データはそれらがお題目に過ぎないと示している。人口流動や大企業本社の東京移転、東京優先の行政や企業の施策など、さまざまな面で東京に人・モノ・金の資源が集まっているのがわかる。

中央集権的な社会構造は日本の特徴である。デメリットもあるが、メリットもあり、これまでの日本の成長を後押ししてきた要因の1つだ。日本らしさ表していると言っても良いだろう。そして、中央集権的な社会構造を持つのは、日本だけではなく、様々な国でみられる。

例えば、同じ先進国ではフランスが比較的、中央集権的な社会構造を持っている。政治・経済・学問の中心はパリであり、パリ近郊の都市圏とその他地域との格差が大きい。隣国のドイツやスペインは歴史的にも都市国家的な性格が強く、地方分権的な社会構造を持っているのと大きく異なる。

新興国の中では、インドネシアが中央集権的な社会構造を持っている。日本は南北に約3,000㎞の細長い島国だが、インドネシアは東西に約5,000㎞と日本の1.5倍以上の長さを持つ島国である。国土に含まれる島嶼の数が莫大で正確な数を政府が把握できていないほどだ。しかも、日本とは異なり他民族国家であり、島や地域ごとの文化や風習、歴史、言語といった多様性に溢れている。そのため、国を発展させるために広大な国土全体に等しく投資をするのではなく、限られた資源を有効活用するために、まずはジャカルタを中心として中央集権的に発展を遂げる戦略をとってきた。

しかし、インドネシアの事例では、首都であるジャカルタ一極集中の戦略に限界が出てきている。例えば、世界で最もひどいと言われている交通渋滞、排気ガスや工場からの空気汚染、ゴミの廃棄や生活および工業用水による河川の汚染、人口過多による排水処理設備の不足による雨季の洪水など、都市の環境に限界が出ている。また、ジャカルタは地盤沈下による水没も危惧されている。

インドネシアの経済成長により、ジャカルタ以外の都市も人口の増加や経済成長を遂げ、教育水準が上がるにつれ、地方自治の問題も出てきた。特にジャカルタから遠く、文化的差異も大きなパプア州では独立運動も問題となっている。そのほかにも、カリマンタン島では商業用パーム農園を開拓するために熱帯雨林が違法に焼き払われ自然環境が破壊されるほか、煙害が国際問題にもなっている。つまり、インドネシアの発展に伴い、ジャカルタだけではなく、地方都市でも問題が発生しており、その解決が急務となっている。

これらの問題解決のためには、現在のジャカルタ一極集中の体制では柔軟に問題に対処することができない。そこで、ジャカルタから都市部へのエンパワーメント(権限移譲)の問題が表出化してきている。その対策として、インドネシア政府が進めるのは遷都である。経済の中心であるジャカルタと政治の中心を分けることで、地方都市にエンパワーメントをしても、各都市の問題に柔軟に対応できる体制構築を狙っている。

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は8月26日、首都をカリマンタン島の東部に移転する予定だと発表した。新首都の利用開始は2024年を見込んでおり、段階を踏んで首都移転のプロセスを進めていき、2040年代に完了する見込みだ。もちろん、首都移転に対して、インドネシア国民の反応は賛否両論であり、専門家からは実現性や期待通りの効果を得ることができるのかについて疑問視する声もあがっている。しかし、首都への一極集中への対策として首都移転を成功させた国はほとんどなく、前例のない大事業にインドネシアは挑んでいるところだ。そこからは、問題解決のために、本気で取り組んでいこうという真摯な姿勢を感じとることができる。


日本での取り組みに翻って考えてみた時、東京一極集中が問題だと言いながら、どこまで本気で考え、行動してきただろうか。結局は、東京を中心に進め、地方はそのおこぼれをもらうという体制に大きな変更を加えることはなかった。

組織の学習プロセスについて、ハーバード大学のクリス・アージリス教授はシングル・ループとダブル・ループの2つの学習パターンがあると述べている。シングル・ループ学習とは、過去の経験や成功体験を通じて獲得した「考え方」や「モノの見方」、「行動」にのっとって問題解決を図り、その過程で学習することだ。一方、ダブル・ループ学習とは、問題に対して、既存の目的や前提そのものを疑い、それらも含めて軌道修正を行うことを指す。東京一極集中という問題に対して、日本はダブル・ループの学習パターンで取り組んできただろうか。

本稿では「東京一極集中は悪だ。米国を真似ろ」と言いたいわけではない。地方創生という課題に対して、これまでの取り組みの姿勢を問い、これから我々がとるべきスタンスについて疑問を呈している。

また、東京一極集中と地方衰退は別問題だと言う議論もある。それは一部分では正しいと言える。東京一極集中と地方衰退は、直接対比する言葉でもなければ、直接的な関係性も薄い。しかし、資源は有限であり、意思決定の権限が中央に集中している現状で、地方都市が自分の力で盛り上げていくには限界がある。結局は、中央に集中している権限や資源を地方都市が自由に采配できる裁量権が大きくならなければ根本的な施策を講じることが難しい。「労働時間を削減し、残業をしてはいけませんが、パフォーマンスの低下は認められません。方法は気合と根性と創意工夫でなんとかしてください。」という上司と同じで、そんなこと言っても実現できる可能性は限りなくゼロだ。

近い将来、日本の地方都市の半数近くが破綻するという予測が出る中、東京一極集中のままではジリ貧となることは火を見るよりも明らかだ。インドネシアのように変化を恐れず、既存の目的や前提そのものを疑い、それらも含めて軌道修正を行うダブル・ループの取り組みが求められている。

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碇 邦生(大分大学)

大分大学経済学部の講師(人的資源管理論)をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。自動車メーカーやシンクタンクを経て、30代で大学教員とジョブホッパーです。 ※日経のキーオピニオンリーダーに選出されました。

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