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気候変動やテクノロジーがもたらす未来予測を映像化した新作ドラマ『エクストラポレーションズ〜すぐそこにある未来』

気候変動問題に関し、重要で将来に渡って危機が訪れる可能性があると言われているものの、なかなか自分ごととして感じにくい、考える機会が少ないとよく言われます。

先日3月20日には『国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)』による第6次統合報告書が公表されましたが、野球のWBSが開催中で日本代表チームが優勝に向けて大活躍していた頃でもあり、気候変動の危機や必要な対策に関する関連報道を目にする機会も少なかったかもしれません。

ちょうど同じ頃、3月17日に動画配信サービスの「Apple TV+」において、気候変動問題を取り上げた新作ドラマ、『エクストラポレーションズ〜すぐそこにある未来(Extrapolations)』の配信がスタートしたことをご存知でしょうか?

欧米圏では既に主要メディアで数多くレビュー記事が掲載され、注目を集めているようです。全8編からなるオムニバス形式のドラマですが、現時点で4話まで配信され、先日視聴してみました。今後は毎週金曜日に1話ずつ公開されるとのことですが、とても「面白い」と感じる内容だったのでぜひ今回ご紹介してみたいと思います。
*第1話は無料で、日本語字幕や吹替版での視聴が可能です。

以下は予告映像です(Apple TVのサイトでは日本語字幕・吹替版で視聴可能)

「エクストラポレーションズ」は、気候変動が深刻な影響をもたらす2037年から2070年までの33年間に起こりうる物語を綴る形で構成されています。場所は海面上昇が深刻になるマイアミ、熱波の影響が深刻なムンバイ、2037年に第42回のCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)が開催される設定となっているテルアビブ、その他ロンドン等が舞台となってます。

気候変動対策を呼びかける活動家、アマゾンとグーグルを足したような巨大テクノロジー企業のCEOでイーロン・マスク氏を彷彿とさせる経営者、シナゴーグのラビ、絶滅動物の保護に取り組む研究者、気候を人工的に操作するジオエンジニアリングに取り組む科学者等、SFのような、それでいて現実的に将来登場しそうなキャラクターたちがオムニバス形式で登場します。ドラマの中では、起こりうるかもしれない未来の姿が洗練された映像を通じて描かれています。

最初はとっつきにくいこうした難解で複雑な話題ではありますが、ハリウッドの豪華俳優が数多く登場することで、エンターテインメントとしてとても楽しめる内容になってます。メリル・ストリープ、エドワード・ノートン、トビー・マグワイア、キット・ハリントンらが登場しています。2021年末にNetflixで公開され、同じく著名俳優を多く起用した気候変動関連映画として欧米で話題になった『ドント・ルック・アップ』を思い出す方もいるかも知れません。今回は映画ではなく8つの独立しつつも時代が徐々に変遷し連動しているドラマシリーズということもあり、様々な切り口や世代から物語が語られている点が特徴的、と感じます。以下はIPCCの第6次統合報告書の中で紹介されている図になりますが、世代ごとに気候変動の影響をどのように受けるか、2020年に生まれた世代がどれだけ深刻な危機にさらされているかを描いたものになります。

SPM.1 IPCC第6次統合報告書

気候変動問題はそれほど興味はないけれど…という人にとっても、このドラマを通じ、将来テクノロジーが日常生活の中でどのように導入されているかを覗き見たり、イメージすることができる点がお勧めです。今話題の対話型AIは既に普通に取り入れられていて、音声で質問を投げかければ壁やホログラム上で音声・映像で答えてくれる世界が当たり前になってます。配送デリバリードローン、空飛ぶクルマ、メガネ型のVR通話デバイスがどのように生活の中で利用されているかの様子がとても分かりやすく描かれています。

一点、気になるのは、海外のいくつかのレビューでも指摘されている、気候変動対策を正論として上から目線で訴える「意識高い系」なスタンスかもしれません。たしかに第4話まで見てみて、「野菜をもっと食べよう」、「環境問題に取り組もう」的なメッセージ性の強いドキュメンタリー番組、或いは啓蒙キャンペーン動画と感じる人もいるかもしれません。

とはいえ、驚くのは気候変動問題の深刻さを感じてここまでの予算をかけ多くの著名俳優が参画していること、アップルTVが配信していることです。また、この作品の監督はかつてプロデューサーとしてアル・ゴア氏の『不都合な真実』の制作に関わり、また2011年に公開され、後にパンデミックの予見的映画として注目を浴びた『コンテイジョン』の監督を努めたスコット・バーンズ氏であることも注目です。

実際、アメリカでも大々的なヒットになるかまだ分かりませんし、国内でも大手メディア等でもほとんど取り上げられてないこの作品が、どのようなインパクトをもたらすかは未知数です。とはいえ、まだ経験したこともない将来の気候危機の理解を深め、感覚的に未来のシナリオを描く際のヒントが得られる機会として、本作品のもたらす意義はとても高いと感じています。少なくともこうした作品を通じて会話や議論が生まれ、より深い理解、そして小さな一歩であったとしても行動につながるきっかけを提供してくれるのではないかと思います。

同じように気候変動問題を扱ったSF作品の一つとして『The Ministry for the Future』(キム・スタンリー・ロビンソン)という書籍が海外では有名です。この作品の影響を受けた、と語る人も数多くいますが、「エクストラポレーションズ」も今後長期的に話題にあがる作品になるのでは、と期待しています。まずは残り4話を観て、また追って感想をレポートしたいと思います。


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市川裕康 (メディアコンサルタント)
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