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私たちはなぜ漢字を使うのかー日本はどこに行く(下)

世界を旅していると、寿司店とラーメン店や日本料理店をよく見かける。毎日のように各国各地の料理を食べていると、無性に日本の料理を食べたくなる。海外の日本の店に入ると、昔と違って、日本で食べるのと同じくらい、いや日本よりも美味しい店があったりする。世界中で、日本の料理が研究され、進歩している

世界からの観光客は、日本の料理に感動する。観光客が自国に帰ったら、日本の料理は美味しかったと周りにいうだけでなく、日本で食べた料理の味を再現しようとしたりして、世界での日本の料理のレベルが上がっていく

1.  日本の着物で古い街を歩きたい外国人

それは、日本の料理だけではない。日本の華道も茶道も書道も、そう。中国から持ち帰り、日本風にカスタマイズさせてきた華道、茶道、書道などを、中国人が日本で学び、中国に戻って日式華道・日式茶道・日式茶道の教室を開き、中国国内でムーブメントがおきている

中国の教室で学ぶ中国人の数が日本より多く増え、かつ素晴らしい作品がつくられ、日本よりもレベルが上だという分野もでてきている。かつて世界に広がった柔道のように、すでになりつつある

奈良や京都で艶やかな着物を来て、古い街を歩いて、写真を撮りたい。そういう経験をしたいという世界からの観光客のなかで、中国からの観光客の目的がちょっと違う

そもそも日本の着物は、奈良時代に唐時代の漢服に影響を受けている。その漢民族の民族衣装である漢服を日本風にアレンジした着物を、日本で着て奈良や京都の古い街を歩くことは、自らのルーツをさぐる旅となっているのではないだろうか

752年に催された東大寺盧舎那仏像の開眼供養会は、今以上に国際色があふれていた。1万人もの僧侶が読経するなか、インド僧である菩提僊那が仏像に開眼する。日本古来の神楽歌、大和歌、久米歌や舞に加え、当時流行していた唐、高麗、渤海、林邑(ベトナム)の音楽が奏でられ、世界のダンサー数百人が舞う「ページェント」に参列した日本人は圧倒されるのではないだろうか。これら楽舞が融合されて「雅楽」が生まれ、1200年間も育て、現代につながっている。一方、日本で奏でられた唐楽は、現在、中国にない。

note日経COMEMO(池永)「安室奈美恵ライブDVDはなぜ爆発的に売れているのか」

世界最先端の国際都市であった唐の長安のモノ・コトに触れ、日本に持ち帰り、1200年以上、人から人へと次々とそのワザを伝え、日本の風土にカスタマイズして、磨きつづけ、現在に残して、さらに次の世代につなげようとしている。それは、もともとのモノ・コトそのままではないが、それに触れる中国人にとって、面影を感じるだけかもしれないが、それが

もともと自分の国から来たものと共感する

日本での中国人の着物経験は、現代中国では着る人が少なくなった漢・隋・唐時代の服である漢服を再生しようという動きにもつながる。テレビや映画の女優や、アニメやゲームのキャラクターが漢服を着はじめている

何がおこっているのか—日本に息づく中華文明を発見して、自らのルーツに触れ、自らのルーツを再起動しようとしている

かつて中国人は人民服を着ていた。人民服は日本の学生服がベースだったが、中国の経済が世界展開するに伴い、日本風のビジネススーツを着るようになった。中国の正装スタイルも日本から逆輸入している。このように

中華文明から来たモノ・コトから花開かせた日本文化を中国は逆輸入して、中国文化を発展させている

中国から来たモノ・コトに、日本人の美的センスを活かして、日本スタイルをつくりあげたのが日本文化。その日本スタイルに現代中国人が触れる。それら日本文化にもとづく日本スタイルを知れば知るほど、かつての自らのルーツである漢・隋・唐時代の中華文明のすごさを現代中国人は再認識する

世界から多くの観光客が日本に来られるということは、中華文明にもとづき洗練された日本文化が評価されるということ、そしてその起源である中華文明・東アジア文明が世界から評価されるということ

観光とは、中国の易経の「国の光を観る」からとられた漢字。つまり自らの国が佳い国になれるように、他国で経験して心に刻んで自国で取り込むかが本質である。たんに、綺麗な光景を見た、美味しいモノを食べて、良かっただけではない

2.ラテン語が物語ること

英国のチャールズ国王の戴冠式がロンドン中心部のウェストミンスター寺院で開かれた。英国国教会の最高位聖職者カンタベリー大主教が国王に王冠を授けた。キリスト教文化の空気のなかで行われた

古代にローマ帝国が繁栄した。ローマ人はローマ帝国を作ったが、文化はギリシア文明を基盤にしたローマ文化であり、それがヨーロッパに広がった。中世のルネサンス文化も、古代ギリシア・古代ローマ文化の復興をめざすものであり、現代ヨーロッパにつながる。近代オリンピックの起源が、古代ギリシアのオリンピアであることは、誰もが知ること。このように

自分たちのオリジンはギリシア文明と考える

欧州は、そのギリシア文明をルーツに、キリスト教的価値観で、それぞれの国が影響しあい豊かな文化を育んだ


イタリア・シチリア島

このようにヨーロッパは絶対的にギリシア文明の影響下にある。たとえばシチリア島にギリシア神殿が現在も燦然と残っている。ギリシア文明の基盤の上に、ローマ文化がのっかる。さらにイスラム、スペイン文化が多層的に重なっている

文化とは習慣で、文明とは結果・成果
人々がある文化的な活動を行い、その人々の活動を社会全体が価値として認めたものが「文明」になる。まだ分かりにくい
文化・文明ともに「文」がつく。この文とは、知識という意味。
社会には、いろいろな人がいる。清廉潔白な人ばかりだと良いが、社会には野蛮な人もいる。落し物を奪ったり、人を殴ったりすると、社会が混乱する。その野蛮な人に、野蛮な方法をとらせないようにする方法が文化である
文化とは感性をふくめた知識にもとづく習慣

note日経COMEMO(池永)「世界が日本に来る意味ー日本はどこに行く(上)」

ヨーロッパの国々の言葉にも、今も、ギリシア文明が息づいている。古代ローマ人が使った言葉はラテン語で、このラテン語はローマ・カトリック教会の公用語として現在も使われている

ヨーロッパの言語の多くは、古代ローマのラテン語を起源としており、現代ヨーロッパ人が学ぶ古典語はラテン語である。ヨーロッパ人はラテン語に、自分たちのオリジンを見ている。それは、日本人が漢字、漢籍、漢詩、漢文に、自分たちのオリジンを見ているが如く

3. 漢字の名前が物語ること

漢字とは、漢の字と書く。中国人は日本人が使う「漢字」という言葉に驚き、親しみを覚えられる。現代の日本の学生が、漢文、漢詩を勉強していることに、驚かれる。さらに簡体字になった中国人が書かなくなった「古い時代の」漢字を日本の子どもが書いていることに驚く。日本の書道で、漢字を書くことで、古(いにしえ)に想いを馳せる中国人もおられる

日本文化が中華文明のもとにはあるのは、日本の住宅の屋根をみても分かる。三角屋根は世界各地にあるが、そこに瓦を乗せる三角屋根は中華文明の証拠。唐の長安を模した奈良や京都の町並みだけでなく、岐阜県の世界遺産の白川郷・五箇山の合掌造り集落に行っても、中国人は中華文明を感じる。日本の住建築の風水や鬼瓦、暦、節句など生活習慣などありとあらゆるものが、中国から来ている

いやいや日本文化は、日本固有のものだという人がいる。平安時代に遣唐使を廃止以来は国風文化になったとか、鎌倉・室町時代の武家が日本文化を洗練させたものだという人がいるが、ご飯を食べるときに手を合わせ「いただきます」と言い、人が亡くなったら仏教で弔うという生活スタイルには、中華文明の影響はぬぐえない。なによりも、今、私が書き、読んでいただいている、この「漢字」が、最大の証拠である。表意文字である漢字に、中華文明の思想・哲学が込められている

だから日本文化は、こうと言えるのではないか

日本文化は本家の中華文明を上回るようなアプリケーションを生みだしたが、大元(おおもと)は中華文明である、と

中華文明が今も息づいているのは、東アジアの人々の名前もある。日本人が漢字の名前を持つように、韓国人も漢字の名前をもっている。現在、漢字廃止政策をとっている韓国でも、子どもが生まれると漢字の名前をつける。ベトナム人にも、漢字の名前がある。タイ人も漢字の名前を持つ。ラオス人も漢字の名前を持っている。東はウラジオストック以西まで、西はビルマあたりまでの東アジアに、中華文明が現在も息づいている

古来より東アジアは中華文明のもとで、文化的、歴史的多様性を育て、現在もインバウンドでの交流、文化の交流にて承継しており、これからもそうであるのではないだろうか

ちなみにラーメンも、江戸時代に中国の拉麺が日本に伝えられ、350年間も、日本でより美味しいラーメンをつくれないかと切磋琢磨して、進化をつづけ、世界の人を魅了している。日本のこれからのヒントがある


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