日本の対外純資産と猛追するドイツ
改めて「円が安全資産」と呼ばれるゆえんに関し、寄稿させて頂きました。主たるデータは5月下旬に公表された財務省「対内・対外資産負債残高」の2017年通年分です。ポイントは以下の通りです:
●2017年末の対外純資産残高は328兆4470億円と3年連続で減少したが、27年連続で「世界最大の対外債権国」という座を維持。政府債務が先進国中最悪の状況にあっても「安全資産としての円」の地位が揺らいでいないのはこうした盤石の対外ポジションが評価されているからにほかならない。
●対外純資産が沢山あることが全面的に良いことだと言うわけではない(もちろん、対外純債務まみれよりは良いが)。対外純資産が沢山あるという事実は、見方を変えれば「日本国内に投資機会がない結果、外に出るしかなかった」ことの裏返しでもあるため、日本を語る上で憂うべき論点も多く含んでいる。
● 残高に占めるシェアを計算してみると、直接投資の44.5%に対して証券投資は26.1%に止まっており、これで3年連続、直接投資が最大の対外純資産項目。直接投資とは日本企業による海外企業買収、いわゆるクロスボーダーM&Aの動きなどを含む項目。
●2000年代前半まで遡ると、日本の対外純資産と言えば半分以上が証券投資だった。そう考えると「世界最大の対外債権国」というステータスこそ27年間不変だが、その中身はかなり変わってきており、具体的には「証券投資から企業買収へ」という構造変化が起きていることが分かる。
● 巨大な対外純資産の存在は為替の観点から見ると「いざとなれば売る外貨をたくさん持っている」ということになり、それゆえに「通貨価値が大暴落するようなことはない」という理解に繋がる。日本(円)はその評価軸に照らせば他の追随を許さない地位を守り続けているため、市場では脊髄反射的に「危ないことが起きる→円に逃げる」というアクションが取られやすい現状がある、
●近年、27年連続で「世界最大」という日本の地位に肉薄している国がある。それがドイツである。
●遅かれ早かれドイツは「世界最大の対外純資産国でありながら、通貨は常に割安」という状況に至ることが予想される。それが持続可能な状況なのか?今後、興味深い研究テーマである。