差別する人間、支援する人間というふたつのタイプの人間がいるのではない。100年前の歴史から学べる事
続々と人口減少化が進む他の先進国と違い、いまだに人口増加の米国、しかし、その内訳は、ヒスパニック人口が23%増加し、アジア系は35.5%、黒人は5.6%増加、2つ以上の人種を自認する人の数も10年前に比べ約3.8倍と白人以外がすべて増加している。
こうした人口動態は感情のこじれに直結する。ちょっと前、アジア系の人に対するヘイトクライムが話題になっていたけど、対中国との関係性の問題もあり、こじれた感情はさらなるアジア系に対する差別意識を増幅させる危険がある。
感情がもつれる原因は、白人系とアジア系の所得がほぼ同等に並んできたということもある。トランプ時代、同じ白人でも所得の違いで対立したように高所得のアジア系に反感を持つ人もいるだろう。また高所得白人でも自分の地位を脅かされるのではと疑心暗鬼になる人もいる。出典
最悪、アメリカだって移民排除する方向にいく場合だって今後ないとはいえない。歴史的な話をすると、1924年ジョンソン=リード法(日本では排日移民法と言われるが、別に日本人だけを対象としてものではない)によって実質上白人以外の移民を禁止する措置がとられた。
これも増えすぎた日本人移民の数の問題だけではなく、移民一世は英語をしゃべろうともせず、また地元経済に金を落とさない閉鎖的な消費行動が「あいつらはアメリカ国民じゃない」という感情を喚起し、日系移民排斥運動が盛り上がってしまうことになる。それには、日本移民が賃金で文句も言わず(英語がしゃべれないからだが)ひたすら真面目に働く勤勉さと旺盛な生活力を発揮したことへの恐怖もあったろう。アメリカは日系移民に乗っ取られてしまうんじゃないかという。
そういった悪感情があふれた結果の排斥法なのである。
しかし、その前年に起きた関東大震災の時、真っ先に支援の手を差し伸べたのもアメリカだった。
震災発生を知った9月1日の夜、当時の大統領 カルビン・クーリッジはただちに大統領令を発し、フィリッピン・マニラなどに寄港中のアジア艦隊に救援物資を満載して日本に向かわせた。日本ではまだ大混乱の中、対策本部すらできていなかった。
さらに大統領自らラジオを通じ全米に「困難に直面している日本を助けよう」と義捐金募集を呼掛け、結果約800万ドルを集め日本へ送った。支援国の中で最大規模の対日支援となった。アメリカ以外にも多くの国々から援助が届けられたが、アメリカの支援が最大かつ迅速だった。
これはアメリカのご婦人方が着物をきて、募金を集める活動をしていた写真である。
移民排斥をするほんの1年前の話で、アメリカと日本が戦争をはじめる18年前の話である。
なぜ、アメリカは支援してくれたのか。
それは、ひとつには、1906年4月に発生したサンフランシスコ地震の際に、日本がただちに救援したことに対する恩返しだという説もある。当時、日本は日清・日露戦争が続き、厳しい財政状況だったが、見舞い・援助金としてサンフランシスコ市に日本の国家予算の1/1000にあたる50万円を贈ったと伝えられている。それは世界各国の中で最大の支援だった。日本からの多額の支援については米国新聞で大々的に報道された。
もちろん、この支援の裏には日米政府の思惑もある。サンフランシスコ地震への日本の援助は、当時すでにくすぶり始めた日本人排斥運動や反日感情を抑えたいという魂胆もあったろう。日米関係改善の好機とする考えもあった。アメリカのクーリッジ大統領にしても、前大統領の急死による副大統領から大統領に就任してまだ1か月ばかりの時、大統領就任後初の外交案件であり日本や列強との外交を有利に進めるためのしたたかな計算もあったかもしれない。
しかし、どんな思惑があったにせよ、形として行動に起こしたことは事実である。
人種差別や排斥運動は政治というより、まず人間の感情が作り出す。どんなに道徳的なことを言っている人間でも心の中に差別感情がない人間などいない。感情を捨てることはできないし、捨てる必要もないが、あるきっかけが起きればその感情は暴力や殺戮という形で表面化してしまう。それは歴史上何度も繰り返されてきた。
しかし、一方で、災害に見舞われた人や国に対する「助けたい」という感情も誰の心の中にもある。
ぶっちゃけ、人種差別で誰かを殴った同じ人間が、地震災害に見舞われた人に手を差しのべたりする。誰かを殴るだけの人間や、誰かを助けるだけの人間がいるわけではない。どちらの感情ももちあわせているし、どちらの行動をする可能性がある。
我々はこうしたどうしようもない人間の性(さが)と一生付き合いながら、他者ともつながりながら生きていくのである。そして、いつでも瞬間的に助け合えるとともに、たった一晩で殺し合いをすることにもなるということも肝に銘じておくべきだろう。