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内定を出した後こそ、採用担当の腕の見せ所。最高の状態で入社日を迎えてもらおう。

内々定後の長い期間をどう使うか

23年卒の大学新卒の採用活動も佳境に入り、次々と内々定が出ている。4月も終わろうとし、進捗の早い学生や大企業では就職・採用活動を終わらせるところも出ている。例年通りに進捗が進めば、大企業や人気企業の採用は6月で落ち着き、夏からは中小企業や定員充足できなかった大企業が中心となって採用活動を行う。9月までにはおおよその企業にとって採用活動は落ち着く。

就職先を探す学生側にとっては、早めに就職活動が終わることは良いことだ。先が見えず、何度もお祈りされる高ストレス状況から抜け出せるだけではなく、卒業後の安定も保証される。あとは単位をとって無事に卒業するだけだ。

しかし、内々定を出した人事にとってはここからが大変だ。多大な労力とコストを支払って内々定を出したとしても、入社初日までの間に内定辞退やトラブルが起きて入社ができないこともある。特に、学生の内定辞退が採用担当に与えるストレスはかなりのものだ。(だからといって人事に慮って、内定辞退するなとは言わないが)

そのため、内々定を出した後のモチベーションの維持(リテンション)として、採用担当はあの手この手で対策を打つことになる。バブル期に東京ディズニーランドを貸切ったり、高級料亭を貸切って接待したりしていたのは、その1つだ。しかし、効果的な打ち手ができているかというと、その度合いは企業によって大きくバラツキがあるようだ。

余談だが、私が2006年に新卒で入った会社は「うちの会社が載っている新聞記事をスクラップブックにまとめて、入社時に提出しろ」と言われただけで内々定後には何もなかった。それを見た某大手メーカーで人事部長をしていた父は「自動車メーカーは内々定者を放置しても採用できるんだから凄いな。うちじゃ怖くて、そんなことはできない。」と言っていた。

リテンションで適切な対応ができているか?

学生の内定辞退を防ぐのに最も有効な手段は、内々定後から入社までの期間に学生の入社意欲を大いに高めることだ。入社初日に、期待で胸を膨らませて、最高のモチベーションで会社に来てもらうことが理想と言えるだろう。

しかし、データは残酷だ。リクルート『就職みらい研究所』による調査では、22年3月卒の大学生の約6割が、入社日直前の22年3月の時点で就職先に不安を抱えているという。さらに恐ろしいのは、「もう1度就職活動をするとしても、今の就職先と同じ企業(団体)に就職したい」と思うかという質問に対して、5割強が否定的な回答をしている。

想像してみて欲しい。今日初めて来る新入社員の半数以上が「もう1度就職活動ができるなら、別の会社に行きたい」と胸に秘めた状態でやってくるのだ。背筋がぞっとする話だ。

同社の調査では、この対策として、企業側が入社予定の学生に相談できる人を用意することだと提案している。就職先に相談できる人がいる学生は、入社に対する不安やネガティブな思いを格段に抑えることができる。

新入社員の活躍は入社直後の対応で決まる

入社後の適応研究では、「ハネムーン(蜜月)効果」という理論がある。これは、入社直後が最もモチベーションが高く、時間経過とともに低下するという減少傾向の曲線を描く。そして、この曲線の在り方が、新入社員の適応や早期離職、フリーライダー化の予測変数として大きな影響を与える。

新入社員が職場に適応し、活躍してもらうためにはモチベーションの落ち込みを鈍化させることが重要となる。そのためには、モチベーションが大きく低下する前の蜜月期間をできるだけ長く引き伸ばすこと低下するモチベーションの下限を引き上げることが有用だ。おおよそ、この期間は入社後6か月程度だと言われている。

リテンション

つまり、採用担当は採用活動と配属直後の期間を通して、「如何に新入社員(候補者)の入社意欲を掻き立て、高いモチベーションを維持するのか」という使命を負っていると言える。近年、採用業界では応募者が就職活動の期間でどのような体験をしているのかが注目を集め、「候補者体験(Candidate Experience)」に注目が集まっている。この候補者体験を設計するときの目的変数として、「入社意欲を掻き立て、高いモチベーションを維持すること」を忘れてはならない。

そうなると、内々定時の法的拘束力がない「内定誓約書」のような個人の自由を制限して管理するような手段が、如何に筋が悪い施策なのかがわかるだろう。たしかに、内々定辞退という目の前の問題は解決できるかもしれない。しかし、採用担当が果たすべき使命「入社意欲を掻き立て、高いモチベーションを維持すること」に寄与するとは思えない。それどころか、オワハラという言葉が流行語となるように学生の入社意欲を大きく削ぐ事態も起きている。

日本の大学新卒の一括採用というシステムは、世界中の他のどの採用方式と比べても、内々定から入社までの期間が長すぎると言ってよいほど長期だ。そのため、内々定後に辞退されないように工夫が必要である。しかし、その本質は「内定辞退」を防ぐことではない。最高の状態で新入社員が入社日を迎え、そして会社に適応して成果を上げることが、本質的な採用の目的だ。そのため、採用活動時からはじまって、内々定、入社日までの間の「候補者体験」を設計し、「入社意欲を掻き立て、高いモチベーションを維持すること」を志向することが肝要となる。


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