我々はどこからきて、どこにいくのか?

 今後の人類が追求する根本の問いは、「我々人類はどこから来たのか」「そして、我々はどこに行くのか」。例えば、最近では、ユヴァル・ハラリ氏が、『サピエンス全史』と『Homo Deus』でこの問いをテーマにした。

この問いの追求に科学の画期的な発展が大きな役割を果たすのは間違いない。ここで画期的な科学的発展は、既存の分野の垣根を壊し、分野を跨がる統一的な視点を与えるものになるはずである。これまでも、ニュートンの力学理論は、天文学と物体の運動論を統一した。ダーウィンの進化論は、分野に分かれていた生物学や考古学を統一した。

その意味で今後「生命科学」と「物理学」と「人工知能」という3つの科学が融合し、上記の問いに答えていくと予想する。その芽はいろいろなところに出始めている。例えば、MITのJeremy England教授は、生命の誕生や進化を物理学で説明する。生物や生命という存在も、進化も物理現象であり、物理法則で説明できるという考え方である。ともかく語り口や視点が大胆である。

https://www.youtube.com/watch?v=e91D5UAz-f4

物理法則の基本は単純である。私は、経済や社会現象も含めて、物理法則で説明できるという仮説を持っている。これを一言で表現すると「宇宙は、資源の制約の下で、多様な可能性を最大限追求するように発展する」という単純な原理である。これを物理学の用語では「エネルギー保存の下で、エントロピーを最大化する」と表現する。この原理は、幅広い社会現象から生命の起源までの説明する可能性がある(この初期の議論は、拙著『データの見えざる手』で展開した)。

これにさらに、人工知能理論が融合して、宇宙のあらゆる仕組みを俯瞰する理論に発展する。人工知能技術と物理学とは、同じ山を隣の登山道で登ってきて、今、五合目当たりで合流しようとしている状況だと思う。

従来のソフトウエアは、条件に対するアクションを場合毎に全てプログラムに記載していた。複雑な動作をさせるには、その分複雑なプログラムのロジックを書く必要があった。従って、現在のソフトウエアは1000万行を超えるという途方もない複雑なロジックをプログラマーが記載したものである。これに対し、人工知能とは、複雑な世界をシンプルな原理で表現し、大量のデータを用いることで、より柔軟で汎用性の高い動作を可能にするものである。現在でも典型的には1000行ぐらいしかない。複雑さはデータ側に持たせ、汎用性の高い一段高次元のロジックを人間が記載することにより、少ない記述で、複雑な世界を表現する。この意味で、AI技術は、実は物理学とピッタリ重なる。物理学とは、できるだけ少数の法則で、複雑な世界を理解する営みだからである。

今後の学問では、このように分野の垣根がガラガラと壊されていく可能性が高い。そして、そこに大きな可能性があると思う。先日、日経新聞で、既存の人工知能の学会で日本の論文が、どれだけ出ているかが取りあげられていた。しかし、このような大きな流れから見るとAIの学会という既存の枠組みの中での論文数などは小さなことである。むしろ、このような分野の垣根を壊すような研究がどれだけ行われているかを定量化することこそ、本質的に意味のあることである。また、そのような本質を捉えたメディア報道を期待したい。

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