日本でEVが普及するためには「高速充電網の整備」が何よりも必要
さて、本日の内容は、実はもう散々いろんな人が言われていることを、敢えて書きますね。というのも、実際に自分で仕事やプライベートに使った、「足で獲得した経験知」は、やはりある程度の信頼性があると思うからです。
というわけで、本日のお題なんですが、EVは日本で普及するのか?という話です。そして端的に結論をまず書きますね。こうなります。
EVが普及するために必要な条件は、高速充電網の整備
以上です。これだけだと思います。というか、これを達成した会社(or 国家)が、目下進行中のEV戦争の覇権を握ると思います。アメリカにおいてテスラがそのような位置に登りつつあるように。他の要素は、実はほとんど「EVの普及」と言う側面においては大きなウェートを占めないのではないかとさえ最近思うようになってきました。
例えばEVというとCO2排出の低減が期待されることからSDGsなどの環境保護の側面が強調されたり、あるいは自動運転のような最先端のAI&ネットワーク技術の側面が強調されたりします。また、複雑な機構を必要とする内燃機関が車内に無いことから設計の自由度が増え、各社の最先端の発明や発想がダイレクトに車体に搭載される機能やデザインの先進性も魅力でしょう。確かに、百花繚乱の如くの「目新しさ」にEVは包まれています。実際それらはとても魅力的な側面です。
でもEVを実際に購入して、自分の仕事やプライベートに使いはじめて約二ヶ月。痛感するのは「現段階では物好きにしか進められないよね」と言う、新しいものに特有の運用環境の不備です。中でも痛いのが、上に書いたように「高速充電網」の問題、とにかく現状では、公共充電網が圧倒的に不足してるんですね。ガソリンスタンドのようには簡単に見つけられません。見つけられないだけではなく、主に日本のEVの充電スポットの問題点は三つあるように思えます。
1.地域によって充電スポットの数の差がありすぎる
2.置かれている充電スポットの性能差がありすぎる
3.充電スポットの決済方法や、充電方式に違いがありすぎる
この三つです。実際に僕がこの一週間で体験した二つの移動で、この三つの問題点がEVの使い勝手を大きく阻害していることを実感しました。
(0)実体験に基づくEV充電の日本における大変さ
では、その二つのルートを実際に比較してみます。こんなルートです。
a.滋賀から鳥取へ、往復560キロ。行って仕事して帰る14時間の行程。
b.滋賀から宮津へ、その後城崎へ、往復340キロ。2泊3日のプライベート旅行
さて、この二つのルート。どうみてもハードなのは上のaの行程です。走行距離も長いですし、休憩もほとんどなしでの14時間です。12時頃に家を出て、帰ってきたのは深夜の2時を超えてしました。
一方bは、いかにも快適そうなルートです。距離自体も三日間の行程と考えると楽ですし、間で2回、ちゃんとした宿で睡眠もとっています。
にもかかわらず、今回この二つの移動で圧倒的に大変だったのは、距離の短い、休憩もたっぷりとったbの方でした。その理由が、上の三つの問題点に集約されるわけです。まず1の点、「スタンドの数の差」です。
(1)充電スポットの数の差
実は目的地の鳥取と宮津、あるいは鳥取と城崎で比べてみると、充電スポットの数は言うほど差はないんです。ただ問題は、高速道路から離れると、途端に移動のルート上に宮津を含めた京都北部から兵庫北東部で充電スタンドがほとんどなくなってしまう点でした。
滋賀からルートを考えるとき、鳥取の場合はほとんどがNEXCOの高速道路を通ることになります。すると数十キロ単位でSAに高速チャデモが準備してあるので、いわゆる「電気のつまみ食い」をしながら移動できるわけです。実際僕は、上のルートの時には行きに「勝央SA」でコーヒー休憩を兼ねて30分充電、帰りにもう一度勝央で15分充電、さらに「加西SA」でも15分充電、その後豊中のテスラサービスセンターの「テスラスーパーチャージャー」で10分充電。この状態で家に帰って残り10%の電気を残して帰りつきました。理想的な充電の繋ぎ方です。
一方宮津にいる間に使ったのは、宮津の道の駅にある無料チャージャーがメインでした。ここで数回、無料の充電をしています。無料がありがたすぎるので、その浮いた分を全部お土産やカフェに回すことができましたが、充電という観点からは、宮津体育館の裏にある高速のチャデモを使うべきでした。ただ、そちらの高速チャージャーは17時までしか使えず、結局23時まで空いてる道の駅のチャージャーを使うことになりました。プライベートの旅行だったということもあって、昼間は観光の時間で、充電に使える時間はほぼ夜しかなかったんですよね。aの鳥取のルートとは違って、移動がメインではなかったことも、充電のしづらさに拍車をかける感じでした。
結局総合的な意味での「EV充電スポットの数」はおそらくそれほど変わらないんですが、鳥取行きの時は、たまたま僕の通ったルート上(つまり大半を高速道路で移動するような状況)にうまい具合に充電スポットが点在してくれてたので、理想的な充電ルートを組めました。これは本当にたまたまです。そしてこの「たまたま点在している」スポットの差が全体の充電パフォーマンスに巨大な落差をつけてしまうほどに、地域によって充電スタンドの数に大きな差があります。これは長距離の移動をする際の大きな不安要素になります。
(2)置かれているスタンドの性能差
次の問題点は2の「置かれているスタンドの性能差」の問題ですね。これはaの鳥取行きでは、高速SAのチャデモが40kWh以上の高速チャデモであったことと、ラストにドーピングしたテスラのスーパーチャージャーが120kWhのバケモンチャージャーなので、えげつないスピードで充電ができます。
一方bの宮津の方の行程で使っていたメインの充電スタンドは、道の駅に設置されていた中速のチャデモで、実測7kWh以下の充電でした。無料ですし、23時までやってくれてたので、文句なんて全くなくて感謝しかないんですが、それでも、充電時間30分で4-5%程度しか回復しないので、走れる距離はせいぜい15-20キロ分。充電にかける時間よりも走れる時間のほうが短い状態なので、相当しんどいです。50%のところで満充電までの時間が大体5時間ほど表示されていました。家で充電するのとほぼ変わらない感じです。
それでも、計算通りに電力が維持できればなんとかなったはずなんですが、夏場のEV、特にテスラ モデル3の電力消費は結構きつかった。観光拠点ごとの小さな移動を繰り返すたびにクーラーの強烈な起動でかなりの電力が持っていかれます。あるいはただ待っている間にも自然と電力が消費される、いわゆる「ファントムドレイン」が発生します。たとえばホテルの駐車場に停めている間、一晩で5%程度の電力が減っていることがありました。背後で起動している「セントリーモード」と言われる、車両周辺の監視アプリだったり、あるいはキャビン温度の過熱を防ぐオーバーヒート・プロテクションの起動で、夏場は停めてるだけでゴリゴリと勝手に電気が減っていきます。もちろんセントリーを切って、オーバーヒート・プロテクションの機能を弱めれば対策できるんですが、保護機能なので切るのは本末転倒。電力とトレードオフとはいえ、そのこと自体を考慮に入れなくてはいけないのが、一種のストレスになります。
結果として、bのルートの2泊3日の間、プライベートの旅行だったというのに、僕の頭の中には「帰りの電気をどうやって維持しよう」という一抹の不安が、頭の片隅にずっとありました。結局最終日、ちょっと空いた時間に宮津体育館の後ろにあった高速チャデモと、城崎マリンワールドに併設されていた、これも高速のチャデモを使って100%にできたので、一気に電力の不安は無くなったのですが、「いつでも自由に思いつくままに充電できない」というのは、思った以上にストレスな経験でした。
この経験から、現状日本においてEVは、充電そのものよりも、「EVで移動しながら過ごす時間」が長ければ長いほど、加速度的に電力供給の不安が露呈する構造になっているということに気がつきました。平たくいえば「今は諸手を挙げてEVを勧めることはできない」と感じた次第です。
たとえば旅の前に綿密に電力充電ルートを考慮してから旅立つのが好きな人だったり、未踏の地をギリギリの電力で走るのが好きな人だったり、リスク大好き新しいもの大好き、それに付随する不便さとトレードオフのドキドキワクワクが大好き!といった若干マゾ体質の人には勧められるんですが、それ以外の人には「2年待ったほうがいいかも」と今は僕は周囲には言っています。ただ、その2年というのも、先行きはそれほど明確には見通せないなと思っています。というのは、この2年間でEVを乗るのに快適な状況が整うためには、ひとつ重要なファクターがあるからです。それが今日冒頭に挙げた結論なんですが、
EVが普及するために必要な条件は、高速充電網の整備
となるんです。しかも都市部だけじゃなくて、地方も含めて、平たく平均的に、疎密が偏りすぎずに、「あ、電気足りないな」と思ったら、どこでもさっと充電しに行けるような状況ができること、それがEV普及のたった一つの条件です。そしてこの条件が整わない限り、いくら車体自体が魅力的で先進的でも、結局「使い勝手が悪い」となって、EVはいつまでも普及しません。そうしている間に、再び日本はこの大きな転換の時期に後手を踏んでしまう危険性があります。
(3)充電スポットの決済方法や充電方式を統一に近づけるべき
そのために考えなくてはならないのは、最初に挙げた「3.充電スタンドの決済方法や、充電方式に違いがありすぎる」が、問題の所在を示唆してくれます。今、日本のメインの充電方式はチャデモと呼ばれる日本独自の形式です。世界最大手のテスラは、独自の充電方式を使っています。また、中国のGB/Tと欧州のCCSという形式もあるんですね。
また、充電方式だけではなく、決済方式も分裂しています。テスラは全てアプリで決済ですが、高速だとジャパンチャージネットワークの決済、宮津ではENEGATEのエコQ電の決済でした。それだけじゃなく、たとえばトヨタだったり日産だったりも独自の決済を持っています。これ、頭痛いんです、ほんとに。
僕はテスラなんで、スーパーチャージャーは普通に使えますが、それ以外の決済方式は事前登録が必要だったり、カードが必要だったり。もちろんゲストチャージができる場合が多いんですが、それでも全部の決済方式が本当に行けるのかどうか、僕もまだ全容を把握しておりません。てか、モデル3でトヨタや日産のスタンドに乗り付ける勇気は、今のところ僕にはありません。これがガソリン車だったら、どんな車だろうが、燃料切れになる前にガソリンスタンドに飛び込んでしまえば一安心。そしてガソリンスタンドは、少なくとも日本全国津々浦々どこにでもあります。使い方も決済方法も難しいことなんて何もない。おじいちゃんでも、免許取り立ての若者でも、「ガソリンの入れ方がわからない」とはなりませんが、EVだと「充電の仕方がわからない」は、現時点では割と深刻な問題です。
これらが統一規格になるか、それともかつてのビデオカメラのVHSとベータ、あるいはDVDの形式の乱立、あるいは最近だったらUSB規格のバラけ具合などのような、業界の利益保護のためにユーザーそっちのけで対立をしているままだと、EVマジで普及しないと思うんですね。AppleのLightning規格とか、一体誰得なの?ってみんな思ってますよね。EVの充電方式や決済はそれ以上に面倒な状況です。なぜクレカ一枚で充電できないのか、それが不思議で仕方ないんです。
いや、業界の保護も大事なのはわかってるんですけどね、でもそれやってる間にテスラかBYDに全部持っていかれたらやばいっすよ。スマホ以上にやばい気がしてます、アメリカと中国にEV総取りされたら、日本の経済滅びかねない。それは絶対に阻止してほしいわけです、日本に生きる身としては。それなのに、今のところ、高速充電網を自社で準備しようという気概でやってる会社は、テスラとBYDだけのように思います。他は遅々として進んでない。オールジャパンでなんとかしてくれって心から思ってるんですが...
というわけで、今回の話は、僕の実体験に基づいた「EVが普及するために必要な条件」を書いてみました。全く目新しい見解ではなく、すでにもう、識者の方が以前からずっと指摘されていることですが、それを今回、身をもって痛感することになりました。今回これをあえて記事にしたのは、こういう文章が増えれば増えるほど、ちゃんと充電のことを業界の皆さんが考えてくださる流れが少しずつでもできていくんじゃないかと思ったからです。定期的にこの問題は提言していきたいところですね。
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ここまで記事終えようと思ったけど、EVディスだけだとあれなので、ちょっとだけ余談。
EV自体はすごく楽しいっすよ。運転のフィーリングが内燃機関の車とはまた違って、異なった移動体験してる感じになります。ぜひ試乗してほしい。僕はとりあえず今度サクラ乗りにいきます。気持ち的にはアリアが欲しいんですけどね、ちとお財布が。日産がんばって、マジ応援してるから。てかトヨタもスズキもホンダもマツダもソニーもがんばって、いいの出たら買うから。