価格を上げる話 〜「グローバルな価値付け」と「コミュニティ・プライシング」の可能性
お疲れさまです。uni'que若宮です。
今日は「価格を上げる」ということについて書きたいと思います。
一個1万円!?羽田文化研究所のはちみつ
先日、Innovation Garden 2023というイベントに参加してきました。
Ars electronicaの皆さんの話やアートとビジネスの関係、パノラマティクス齋藤さんの企業と地域(と文化)についてのトークなど色々と示唆深い話が聞けたのですが、個人的にとても印象に残ったのが「価格」についての話でした。
一つは羽田未来総合研究所の大西洋さんのお話。
羽田未来総研は、海外との玄関でありかつ国内のハブでもある羽田空港という場を生かして、日本各地にある知られざる逸品をリブランディングしたりプロモートして、地域活性化につなげる取り組みをされています。
その中のひとつに、「鹿児島県南大隅町佐多辺塚の原生林で育まれた日本ミツバチの蜂蜜」というのがあるのですが、
http://www.haneda-the-future.com/wp-content/uploads/2022/06/nihonmitsubachi220322.pdf
これ、希少な「日本ミツバチ」のはちみつで、製法的にもこだわってつくられているのですが、元々は鹿児島県内や九州だけで流通されていて価格も1,000円くらいの感じだったそうです。
それを羽田未来総研で発掘し、新たな商品としてプロデュース、ブランディングしたのが、日本ミツバチ蜂蜜「凛」。…なのですが、驚いたのはその価格!!なんと120gの小瓶で1万円(!!!!)します。
強気すぎるほどの価格設定です。企画段階で食のプロたちに意見をきいたときにも、高くても3,000円を超えたら売れないよ…、と言われたらしいのですが、結果としては1万円でも人気商品となったとのこと。
大西さんは
というようなことをおっしゃっていたのですが、全く共感しました。
購入者がどういう方だったかデータをもっていないのでわからないのですが、1万円という高価格であることや羽田という立地で売れていることを考えると、インバウンドを含む富裕層に購入されているのだろうと想像します。
ニセコの国際高級リゾート化
大西さんに続き、小橋賢児さんからスノー・リゾートの話がありました。
日本の雪山は非常に雪質がよくインバウンド観光でも非常に人気ですが、海外からの訪日客によって経済に大きな変化が起こったニセコの奇跡的な事例について耳にしたことがある方も多いと思います。
宿代だけでなく飲食店の相場も海外の高級リゾート並みの水準。
日本の物価、特に食の安さは国際的にみても異常値ですが、国内の多くの飲食店が原価高騰の中でも価格をなかなか上げることができずにいるのとは対照的です。
もちろん、短期に人気が加熱しすぎるとバブルになるので注意が必要ですし、地価高騰を受けての投機目的の外資参入などは地元にとってうれしいことばかりではありません。
しかしニセコのようにインバウンド需要が起爆剤になり、内需のみでは考えられない次元の経済的成長をもたらす可能性はまだまだ日本の各地に眠っているでしょう。
「グローバルな価値付け」を意識する
はちみつ『凛』もニセコも、国内の一般的な感覚からすると信じられないような価格帯で経済が回っています。
ブランディングの問題もありますが、なにより重要なことに「顧客」を変えた、というポイントがあるでしょう。
富裕層、それも海外の富裕層をターゲットとして考えれば、価格戦略は大きく変わってきます。
日本にはもっともっと高く価値評価しうる文化資源や観光資源がまだまだたくさんあります。内需のみでは経済はよくて横ばい、ゆるく下降していってしまいますが、「グローバルな価値付け」ができればものすごい可能性を秘めていると思うのです。
「ガラパゴス」と揶揄されることが多いように日本は内需経済で回ってきてしまったところがあり、かつ単一言語でコミュニケーションが成り立ってしまうために、国内の資源を海外に向かってアピールする取り組みはまだまだ不十分です。これはとてももったいないことだとおもいます。
価値というものは相対的なものです。届ける相手によって同じものでも価値は変わります。さきほど大西さんのコメントでもご紹介したように、日本人はその生真面目さで「コストの積み上げ」から価格を考えがちですが、価格は一つではなく、価値に応じて変動します。海外顧客にとってであれば日本の10倍の価格でも見合う価値を感じてもらえるかもしれないのです。
アートでも、国内だけを対象にしていると価格があがりづらいところがあります。海外から価値を認められれば桁がひとつちがう価格で売れるかもしれません。そして一度高い価格がつけば、それがベンチマークになって作家の作品全体の価値もあがるのです。これから日本のプロダクトやサービスは、海外顧客を含めて国際的な基準で価格戦略を考えることが必須になってくるでしょう。
「コミュニティ・プライシング」の可能性
海外顧客や富裕層をターゲットにして価格を上げると弊害もあります。価格の高騰により地元の人が購買できなくなってしまい、流通から疎外されていくことです。
外に目を向けることも大事ですが、外ばかりをみていて足元が崩れていくことになれば本末転倒です。
商品やサービスをつくり届け続けることができるのも「地元があってこそ」です。地元の人が排除されるようなことになれば源泉が干上がりやがてプロダクトが先細っていくか、外資に食い尽くされることになってしまうでしょう。
ですから、海外基準で価格をあげる時は、地元のひとたちにとってもアクセスしやすい環境を担保しておくことも重要だと思います。
といっても具体的なやり方はごく簡単なことで、その地域住民向けの割引のようなことでもよいかもしれません。よく温泉などで「町民割」みたいなのがありますが、そんな感じで外の人むけに価格があがっても、地元の人はこれまでと同じような価格でサービスが受けられるようにすることはできるでしょう。
こうした値付けの仕方をたとえば「コミュニティ・プライシング」と名付けてみます。コミュニティの近さ、関与度、貢献度によって価格が変わる仕組みです。
こうしたコミュニティ基点での仕組みがあれば、国際基準で価格をあげていきながらも当該サービスやプロダクトを地元の人でも楽しむことができ、またコミュニティ単位の施策によって「コミュニティ内の連携や関係」も深まるのではないでしょうか。
日本の消費や飲食店で値上げができないのは、内需だけを考えていることが一つの原因です。スタグフレーションとも言われるように賃金があがらない状況が続いているため、価格があがると日本人が買うことができないのです。しかしかといって、原価が上がるのに耐えて価格を据え置くのにも限界がありますし、そうした倹約はじわじわと体力を奪っていきます。
内需だけに限らず、グローバルな視点から改めて価値を考え、高い価格でも買っていただける顧客には高価値として提示する。しかし同時に地元のコミュニティにとってもアクセスしやすいプライシングの仕組みを取り入れる。そうすれば総合的に価格をあげることができ、その潤いによって賃金をあげたり地元にその恩恵を還元できます。顧客の見方を変え、「外」からのてこによって日本の「中」もますます元気にしていくことが出来るのではないでしょうか。
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