クーポンや割引ではない継続的な(サスティナブル)なコミュニケーションへのトライを #そのお金どう使いますか
いつか書きたいな、と思っていたテーマが募集されました。「消費」です。
個人的な見解ですが、僕は、昨今の国策であるクーポンや還元策には反対です。それは、継続的な(サスティナブルな)施策でもなく、その場しのぎの一時期的なカンフル剤でしかないと思っているからです。(カンフル剤を注入しないと破綻する、という現況も当然理解している上での見解です。)
COMEMO的お題だと、「生活者視点」かもしれませんが、本noteは「事業者視点」で書かせていただきます。
情緒価値創造による顧客コミュニケーション
2004年から始まった20年近い僕のサラリーマン人生は、ほとんどを「商業施設運営」という仕事に費やしてきました。
訪れる人々を楽しませ、テナントを成功に導く、先見的、独創的、かつホスピタリティあふれる商業空間の創造。
パルコの経営理念です。いまでも大好きな理念です。施設の運営の端々には、この理念が具現化されていました。EDLP(Everyday Low Price)のような価格訴求(機能価値)が理念ではなく、情緒価値創造による顧客コミュニケーションをコアにしていました。(EDLPを否定しているのではく、企業理念の話です。)
一例を上げると、僕が働いていた当時から、VMD(Visual MerchanDising)には、かなりの重点が置かれていて、出店いただいているテナント様の店頭「セールPOP」の掲出コントロールをしていました。
このようなOFF率の書かれた赤文字POPは、掲出期間・区画内の場所・お客様のファーストビューで視界に入る店頭イメージまで、陳列装飾担当を中心にテナント指導を行っていました。
店舗運営の自主権は、当然、出店いただいているテナント様にあるのですが、パルコの場合は、「イコールパートナー主義」であり、対等な関係性を作り出していました。テナントごとの店頭演出も一緒に考えていました。
テナントとパルコは、“互いの価値観を共有しながら、ともに成長・発展していくパートナー”であり、「イコールパートナー主義」(パルコwebより)
ショッピングセンター(SC=ディベロッパー=ビル)によっては、SCが圧倒的に強烈な牽引力をもって運営していく施設もありますが、パルコは「対等」でした。
一例で出だした「赤文字POP」は、単に「店頭美化」という意味合いもありますが、裏には、価格訴求に依存しない顧客コミュニケーションを形成するための布石だったとも捉えられます。
クーポンや割引
みなさんは、消費者・生活者だったら、確かにクーポンや割引は「嬉しいもの」かもしれません。しかし、店舗経営者(運営者)から見た時の「(安易な)クーポンや割引」は、営業利益を圧迫する要因でしかありません。
「安易な」と書いたのは、緩急のついた、計画性のある施策であれば、販管費をかけつつ、トップライン(売上高)を上げる施策となります。僕が現職だった頃は、夏と冬の大型セール、ハウスカードホルダー(館ブランドのクレジットカード)向けの顧客優待セールなどがその事例でした。
信じられない話かもしれませんが、僕が入社した当時は、年に数日「ハウスカードホルダー保有者」だけしか店舗に入れない「顧客招待セール」がありました。
常態化したセール
ところが、現在は、いつ店舗に行っても「セール」状態です。冷静に考えると「値札についている商品の価格は、何なんだろう?」と思ってしまいます。メーカーに勤務する方なら、マーケティングの4P要素構成を思い浮かべるはずです。バリューチェーン・サプライチェーンで綿密に計画されたはずの「定価」がなし崩し的になっているのです。
少し話が脱線しますが、よく郊外に出店している「アウトレットモール」は、本来、プロパー(定価)価格で売れなかった商品や、製造段階の品質管理でBランクなどになった商材を現金化する(さばく)ための販売チャネルだったのですが、昨今はなぜか「はじめからアウトレット用の在庫」として製造する商品もあるようです。
経済的需給バランスの崩れた市場は、文字通り「不均衡な歪み(ひずみ)」を生み出します。昨今は「供給過剰」の常態化となっています。
不自然な均衡を維持継続できるか?
既存の民間企業のバリューチェーン・サプライチェーンとは関与しなかった外部(国)から「カンフル剤」を注入することのメリット・デメリットは、僕が語るものでもないので、専門家に譲ります。
今回のような強烈な外部環境の変化にも耐えうるブランドと生活者(消費者)の関係性は、どのようなものがあるでしょうか。
そのうちの1つが、今回COMEMOお題にあったような「応援消費」だったりします。みなさんが「応援」をする対象は、どのようなモノ・サービスでしょうか。エンタテイメントに例えると「(その対象の)ファン」であることだったりします。
大手メーカーや商業施設にとって「ファン」とのコミュニケーションは、旧来まで、社内のごくわずかな理解者しかいなかったはずです。ところが、この環境下で、社内の風向きが180°変わった企業もあるはずです。
私が大きく思考回路に影響を受けているさとなおさん。上述の書籍が最近刊行されましたが、こちらの記事もぜひご参考にされてみてください。
企業の販促担当者であれば、気がついているはずです。クーポンには原資が必要であり、湯水の如く永久に湧き出るものではありません。たまたま外野から降って落ちてきた一時的なカンフル処方で、継続的な効能があるはずがありません。
ヘッダー画像にしている米国発「ブラックフライデー」は、「小売業者が儲かり黒字になる」という解釈も。黒字がでる、ということは、単なるセールに終わらず、小売事業者への還元性、継続性になるような関係が成り立っている。安易に企画タイトルに飛びつき、看板を変えただけのセールだけを行うのではなく、年末〜年始、そしてさらに、その先の、継続的な顧客コミュニケーションができるようなプランを事業者サイドが企画、つまり「生活者のファン化」を計画されてみてはいかがでしょうか。
昨今話題のD2CやECの話題からそのヒントがみつかるかもしれません。
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