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世界5都市を回って感じた東京の強み:開かれた移動

たまたま仕事が重なり、7月に3週間で5都市――ローマ、パリ、ニース、ニューヨーク、サンフランシスコを、駆け足でめぐることになった。パンデミック(世界的大流行)が始まった2020年以来、長期の海外出張とはご無沙汰だったため、かなりの「リベンジ出張」だ。

日本と比べると格段にゆるい欧米のコロナ対策に驚き、すぐに慣れ、移動を重ねながら、徐々に旅の勘を取り戻せたと思う。リモート勤務に慣れると、日常の風景が自宅から半径2キロ圏内にとどまり、単調この上ないものとなってしまう。その点、2年半ぶりに、国や都市を転々としながら数日ごとにがらりと景色を変える機会は、ありがたいものだった。

非日常を求めることは、人間の根源的な欲求のようだ。欧米ではすでに始まっているポスト・コロナのリベンジ旅行の気運が、今後、日本でも勢いづくことは間違いないだろう。

さて、5都市を次々に回ると、否応なしに簡易比較をしたくなる。それぞれの都市にそれぞれの魅力があるものの、「動き回りやすさ」という点で評価してみたい。結論からいうと、ホームタウンである東京の優位性を感じる結果となった。

まず、動き回りやすさの構成要素を分解しよう。先進国の大都市であれば、すべてのひとに等しく開かれていることが望ましい。つまり、障害者、妊婦、高齢者などの社会的弱者にとっての使い勝手が必要条件だ。バリアフリーと安全性の2項目が求められる。

さらに加点するためには、旅行者にもフレンドリーな公共交通機関の使いやすさと信頼性が欲しいところだ。この2項目を加えた4項目で、今回回った都市(プラス、勝手知ったる東京)の「動き回りやすさ」を勝手に査定してみる。

バリアフリーと安全性
欧州都市の中心地は、基本的に石畳・・・。風情はたっぷりだが、歩きにくい。ハイヒールで歩けば、途端に社会的弱者となってしまう。車いすには不利に違いなく、段差も多い。パリはその上、オリンピックを控えてどこも工事だらけ。ニューヨークは老朽化したインフラのせいで、常に何かしら改修している。元気なら簡単に障害物をよけながら歩けるが、少しでも足に不安があれば心配だ。

加えて、パリやニューヨークの地下鉄には、エレベーターやエスカレーターが無いことが多い。東京であればあって当たり前のものが期待できず、例えば港から旅慣れた感で、公共交通機関を使うと、スーツケースを運ぶだけで苦労する。トイレの面でも、日本のバリアフリートイレは世界一ということだ。総合的に、東京のバリアフリー充実度は、世界に誇れるレベルだと思う。

さて、東京の安全性は伝説的だ。今回訪れた都市はどこも、常識的な用心さえしていれば危険を感じることはなかったが、ニューヨークでだけ意外な思いをした。

平日20時ごろに地元の友達とアッパーウエストで食事を終え、ミッドタウンのホテルまで地下鉄で帰ろうとすると、「絶対に車で帰った方がいい」と言う。2000年代前半にマンハッタンに暮らした感覚からすると決してまだ危険な時間ではないのだが、彼によると、警察官による黒人に対する暴力から発したBlack Lives Matter運動のあと、警察の人員が減らされた結果、公共交通機関の犯罪が増えているとのこと。遅くてもひとり、電車に乗れる東京のありがたさは希少になっているようだ。

公共交通機関の使いやすさと信頼性
同じ大都市でも、地下鉄や電車の充実度には差がある;例えば、東京、ニューヨーク、パリの中心部であれば、地下鉄の使いやすさは抜群だ。一方で、ローマの地下鉄は少なく、その代わりバスが活躍している。どこも日本ではおなじみの、鉄道などで利用できるICカードがあれば、摩擦なく移動することができるし、都市に慣れた旅人であれば乗り換えも難しくはない。

東京を知る外国人に聞くと、東京の駅は格段に分かりやすくなったという。昔は日本語のみの表記だったものが、路線ごとに色付けされ、番号がふられ、さらに必ずローマ字表記が付されている。これで、使いやすさが増したのだろう。

公共交通機関の信頼性はどうか?今回の経験から、いまでも日本に軍配が上がると思う。パリ市内から空港に行くために乗った電車は、急に途中で長く止まってしまい、さらに目的地よりも手前で降ろされる羽目になった。このような事故が例えば都内の鉄道で起こらないとは限らないが、あまり頻繁に出くわすものではない。

結論的に、バリアフリーほどの差はないものの、東京をベンチマークにすると、訪れたどの都市も、公共交通機関の使い勝手、信頼性でやや劣って見えてしまう。

これから水際制限がなくなり、訪日観光に門戸が開くだろう。東京の魅力は多彩な一方、快適な旅を支える根底には、動き回りやすさがある。地味だが重要なこの強みを、東京がもっていることを再認識する3週間となった。

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