ユーロ圏のインフレの方向性とECBのアクション
ユーロ圏のディスインフレの勢いは依然として弱い。6月のユーロ圏総合インフレ率は、前年同月比+2.6%から同+2.5%に小幅減速。全体的な物価のトレンドが依然としてディスインフレ方向であるものの、ユーロ圏の物価圧力が依然として解消されていない。
ECBにとって懸念されるのは、総合インフレ率改善の原動力になったのがエネルギー価格と食品価格の穏やかな低下であったことであり、いずれも国内の需給環境との結び付きは弱い。基調的物価圧力は依然として強く、コアインフレ率は前年同月比+2.9%で5月から横ばいであった。しかも、ユーロ圏内の物価圧力の優れたバロメーターであるサービス部門のインフレ率は2023年11月以降、全く減速していないこともある。現時点で発表されている6月の品目別データは限定的であるが、このサービスインフレ率の下方硬直性は物価圧力が予想以上に根強いことを示す短期的リスクと言える。
とはいえ、こうした上振れリスクにかかわらず、7月にサービスインフレ率がわずかに減速し、賃金圧力の価格転嫁が沈静化するに伴い、サービスインフレが年末までゆるやかに鈍化するのではないかと予想する。サービス業PMI産出価格などの先行指標からも、サービスインフレが鈍化することがうかがえることもある。コア財価格上昇率も現在の伸び率前後にとどまるとすると、年末にかけてのユーロ圏のコアインフレ率の減速は緩やかなペースにとどまると予想できる。
もっともECBのラガルド総裁は、シントラでのフォーラムにて、賃金、生産性、企業利益という三つのインフレドライバーについて、研究することの重要性を強調、今年末までに一進一退があるにせよ、インフレは適切な方向に進んでいると語ったところである。ディスインフレの傾向は弱いと言いながらも、今回のインフレデータが全体としてECBの政策見通しの見直しにつながるものではないとすれば、想定されるECBのアクションは次のようなものではないか。7月の理事会で政策金利を据え置くが、9月時点では2度目の25bpの利下げ、という見通しがそれ。政治的な動きが多くなっている欧州だが、賃金やインフレに影響が出て来るのか、それがECBのアクションに影響を与えかねないので注意はしておきたい。