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「キャリア自律」において個人と企業がすべき3つのこと

皆さん、こんにちは。今回は「キャリア自律」について書かせていただきます。

終身雇用や年功序列制度の崩壊に加え、社会の構造も不確実・不透明になり、さらにはコロナショックにより、リモートワークや副業など大きな働き方の変化が起こったことで雇用の流動化も進み、「個人のキャリアは会社が用意してくれるものでも守ってくれるものでもない。自分で作っていくものだ。」ということに気づき出す人が増えました。

働く人の価値観も、「ワークライフバランス」から「ワークライフインテグレーション」へと変化し、仕事を通じた自己成長だけを追求するのではなく、家族との時間や、趣味、ボランティアなど自己実現の追求の仕方が多様化しています。

企業を取り巻く環境の変化に伴って、企業にとっては、個人のキャリアに責任を負うことが難しくなり、また、個人にとっても自分のキャリアを会社に委ねることが健全な状態ではなくなり、双方にとって「キャリア自律」の必要性が今まで以上に増してきているのです。

つまり、会社に就職した後のキャリア形成を、完全に会社に委ねる時代は終わりを迎えつつあります。これからは、個人も企業も、「キャリア自律」に対してもっと向き合っていかなければなりません

「キャリア自律」「キャリアオーナーシップ」自分のキャリア形成は会社にゆだねず、自ら進めていくという意味だ。「キャリア権」という言葉もある。個人の意識は確実に変わってきた。一方で会社側には人事権があり、人事異動ですべての社員の希望をかなえられるわけではない。個人と会社の双方にメリットをもたらす道の模索が始まった。
※中略※
社員がキャリア自律の意識を持つことは企業にも利点がある。パーソル総合研究所の調査によると、「自分の能力を発揮できる得意分野がみつかっている」「自分はどんな仕事がやりたいのかが明確である」など、「キャリア自律度」が高い層は低い層に比べ、学習意欲が1.28倍、仕事の充実感が1.26倍あることがわかった。キャリア自律は社員のモチベーションや生産性の向上につながる優秀な人材の獲得や離職防止にも役立つ
もっとも現実には、すべての社員に希望通りの経験を積ませることはできない。「A君が活躍できるのは希望とは違うがこのポジションだろう」といった、会社としての判断もある。
今年4月、キリンホールディングス、富士通、コクヨなど8社は「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」を設立した。個人の意思によるキャリア形成と、企業組織の成長を両立させる方策を考えるのが目的だ。キャリア自律をめぐっては政府の有識者研究会などもその重要性を指摘してきたが、「個人の立場に立ちすぎていた傾向がある。個人のキャリア意識の高まりを企業経営にどういかすかという視点が要る」と事務局を務めるパーソルキャリアの担当者は言う。
※中略※
重要なのは社員の納得感だ。望んだ通りのキャリアが積めなくても、機会が均等で努力する環境が整っているなら、働きがいを持ち続けられるのではないか。キャリア自律を広げる社内制度としては、各ポジションに公募で適任者を起用するジョブ型人事制度への関心が高まっている。だが、そうした欧米流の仕組み以外にも、キャリア形成をめぐる個人と会社双方の利益を両立させる道はある。
※中略※
「キャリア権」も、決して会社の人事権と対立する概念ではない。職業生活を通じて幸福や豊かさを追求する権利を指すキャリア権は裏返せば、「個人が自立して充実した職業生活をつくりあげなければ自分自身にもマイナスだし、社会のためにもならない、ということを言っている」(宇佐川氏)。個人が権利を意識することが仕事へのモチベーション向上につながり、企業にもプラスになるわけだ。

コロナ禍においては特に、「自立・自律した人材を採用しよう」とか、「主体性や能動性を高める人材育成プログラムを構築しよう」、「自走できる組織開発に注力しよう」などという言葉が企業の人事内では飛び交っていると思います。

そもそも「自律型人材」とはどんな人材で、なぜそんな人材が必要とされているのでしょうか。

■なぜ自律型人材が求められるのか

自律型人材を一言で表すと、「自ら考え、自ら判断し、自ら行動に移せる人」だと思います。
上司や先輩からの指示を一から十まで受けなくても、自分の求められている役割を理解し、やるべきことを見つけて遂行できる人のことを指します。

そのような人材が求められる主な理由は以下の通りです。

① グローバル化・デジタル化など世の中の変化に合わせて、組織も個人も柔軟に対応する必要があるから。
② 働き方の多様化によってマネジメントコストが増加し、従来の管理型マネジメントスタイルでは限界がきているから。
③ ジョブ型への雇用スタイルの変化とともに、個人の能力をより専門的に磨き続けていく必要があるから。
④ 従業員が能動的に動けると、生産性の向上や新しいアイディアの創出にもつながるから。
⑤ 自律的なキャリアを描く人が増えれば、あらゆる世代が活躍できるようになるから。

あらゆるものを取り巻く環境が目まぐるしく変化し、予測困難な社会情勢が続く中では、これまでの成功体験や積み重ねてきた経験値だけでは解決できないことも増えていくため、社員自ら考え自律的に動ける組織にしていく必要があるのです。

■ポイントは社員のキャリアオーナーシップを促進すること

改めてですが、「キャリア自律」とは、個人が自分のキャリアに興味を持ち、自律的にキャリア開発を行っていくことです。

これまでは、自分のキャリア形成を会社に任せていくことが当たり前でした。なぜなら、企業側には経営戦略に基づく「入社後どんな社員になっていってほしいか」という方針があり、その実現に向けた育成プログラムが構築されていることが主流だったからです。
そのため、社員はある意味、企業側が用意してくれた業務や役割を着々とこなしていけば、一定のキャリアが保証される、という状態でした。

しかし今は、冒頭で述べた通り、社員一人ひとりが自分のキャリアについて自律的に考える必要が出てきました。企業側も社員のキャリア自律を促しながら、そのバックアップをする必要性が出てきているのです。

前提として、「自律した人材を採用すること」は一つの解決策になります。
もともとトップダウンで指示型のマネジメントスタイルで教育されてきた人材にいきなり「自分で考えて動け」と言っても難しいため、入口の段階から、自立した考えを持ち自分でキャリアを描き実行できる人材を採用してしまえば良いのです。
ただ、いくら自主性の高い人材を採用しても、また、数々の育成施策によって個人のスキルやマインドを向上させられたとしても、それだけで自律型人材が勝手に育つわけではありません。本人を取り巻く環境や、自分で考え能動的に動くこと、目標を持ってチャレンジすることが称賛される文化や評価制度の仕組みが土台として備わっていないと、せっかくの個人の能力が活かされることがありません。

企業がすべきは、社員一人ひとりのキャリアオーナーシップを促進できる体制を構築することです。
短期的な目標達成のためのKPIを追うだけではなく、中長期的な視点に立ち、ライフも含めた社員それぞれの人生のキャリアプランを考え、共有し合う仕組みを作るだけでも、社員が目標を持ちイキイキと働ける環境へと変化していくはずです。

企業が社員に求めるキャリアパスと、社員が希望するキャリアパスは、必ずしも一致するわけではありません。
ですが、個人のやりたいことや実現したいことが会社の目標とリンクした時、それまで以上のシナジーが生まれ、組織の活性化や生産性の向上につながるのです。

社員一人ひとりが仕事を通じて情熱を持って取り組めることを見出し、育み、組織の目標と結び付けていくことにこそ、企業側ができる打ち手のヒントが隠されているのではないでしょうか。

■サイバーエージェントが行っている「キャリア自律支援」

具体的に、当社が行っている「キャリア自律支援」に関する取り組みの一部をご紹介します。

① キャリアについて考え、プレゼンする機会の提供
→何か機会がないと、日々の業務に追われキャリアについてじっくりと考える機会が少なくなりがちです。社内研修や上司との面談を通じて、将来のキャリアをイメージする機会を意図的に作ったり、自分のキャリアビジョンを役員や上司に直接プレゼンする機会を設けるなど工夫をしています。当社で実際にやっている一例としては、「ピカログ」という取り組みで、もともとは若手社員の才能発掘プロジェクトとして誕生しました。(ピカっと光る人材のログを残そう、という由来だったはずです。)
社員の推薦によって選ばれた活躍社員が、役員に対して「MyIR(マイアイアール)」という、自分の過去・現在・未来についてプレゼンテーションするという内容になっています。
こういった場を利用して「将来こういうことがやりたい」と、社員自らが考えるキャリアプランを直接役員に宣言する社員も多く、自分の過去や現在の仕事とを照らし合わせながら未来を考え、自分のキャリアと向き合う機会として機能しています。
会社の規模が大きくなるにつれて、役員と社員の距離が離れていってしまいがちですが、経営層にとってもこのような機会を通じて社員を深く知り、適材適所や抜擢を進めやすくすることにもつながっています。
② 副業など、社員のキャリアアップ支援
→副業を認めている企業が急激に増えていますが、これも「キャリア自律」を促す制度の一つです。
当社でも2019年より技術者向けの副業制度「Cycle(サイクル)」を導入していますが、導入から2年経った今も、発注案件数と納品数ともに増加傾向です。
「Cycle」は通常の副業制度とは異なり、グループ内における会社間をまたいだ副業を促進するという制度です。「副収入を得る」ことだけを目的とせず、「社内リソースの効率化」や「技術力の向上」、さらには「社員自身のキャリアアップ」にもつながる制度設計となっている点が大きな特徴です。
③ 社内で別のキャリアの選択肢を提示
→以前こちらにキャリアの公募制度について書きましたが、「キャリアチャレンジ(通称キャリチャレ)」など、キャリア相談窓口となっているのが、「キャリアエージェント」という、いわゆる“社内ヘッドハンター”の役割を持つ専門部署になります。
自ら社内の別の部署に応募する形もあれば、会社側から別の部署を提示するジョブローテーションという形もあります。

このように、社員のキャリア自律の支援をすると、既存部署での業務が滞ったり、社員の離職につながってしまうのではないかという懸念もあると思いますが、実際には、フラットに自分のキャリアについて相談できる先があるかどうかで社員のコンディションの把握やオンボーディング、適材適所の実現による業績向上にまで影響が及ぶことになると思います。

「自分のキャリアは自分で築くものである」という理想の状態を実現するためにも、第三者的な立場でフラットにキャリア相談ができる、そして選択肢を提示してくれる先を確保することは、会社にとっても個人にとっても最良の選択につなげられる可能性が高まります。

■「キャリア自律」において個人がすべき3つのこと

自律したキャリアを構築するためには、企業だけでなく、個人の努力も必要だと思います。
陥りやすいワナとしては、「キャリア自律」を「自分のやりたいことだけ主張する」と捉える人がいる点です。
自分でキャリアを描き実行することと、自分のやりたいことだけを選んでキャリア権を主張することは、似て非なるものです。

個人が意識した方が良いポイントは以下の通りです。

① 正解を求めすぎないこと(ロールモデルを真似するのではなく自分らしくキャリアを築く)
② “好奇心”を持ち、学び続けること
③ “変化に適応”し自分で自分の環境を作っていくこと

個人の努力を全くせずに自分の希望するキャリアを構築していくには限界があります。
自らのキャリアに対して主体的であるためには、自分のキャリアビジョンに対して変化に適応しながら学び続けようとする“姿勢”や“向き合い方”が何より大事だと思います。

キャリアデザインの仕方はもちろん一つではありません。
転職などを通して新しいスキルや経験を複数積んでいくパターンもあれば、得意領域を見つけて専門性を高めていくパターン、一つの企業に身を置きながら副業やパラレルワークなどでキャリアを掛け算していくパターンもあれば、それまでの資本(経験・ネットワークなど)をもとに独立するパターンもあります。

大事な点は、キャリアの主導権は自分自身にあると認識をしながら、実現したいキャリアプランに向けて、会社の中で自分自身のバリューをいかんなく発揮することです。その価値が高まれば高まるほど、それまでの経験で得た資源をその後のキャリアに有効に活用していくことができるのではないかと思います。

■「キャリア自律」において企業がすべき3つのこと

個人の自律的なキャリア意識の高まりを受けて、これからの企業経営に求められるのは、

① 社員の自律的な成長や活躍を支援すること
② 社員のやりたいことや実現したいことを会社の目標と結びつける工夫をすること
③ 企業と社員がともに成長し合える関係性を構築すること

だと思います。

社員のキャリア自律度が高まると、「業務のパフォーマンスが上がる」「社員の仕事に対する充実感やモチベーションが高まる」など、企業にとってもプラスになります。

先ほど述べた「組織と個人の目標をリンクさせる」という点以外にも、当社の事例としてご紹介したように「キャリアについて考える機会や宣言する機会を提供する」、「社員の強みを活かせるポジションや部署の選択肢を提示する」など、個人の意思に寄り添った業務割り当てや配置転換など、人材マネジメント全体で“キャリア自律”を推進していく必要性があるように思います。

単発の「キャリア研修を一度やって終わり」とするのではなく、会社全体の人材戦略や組織環境作りを見つめ直し、アップデートし続けていくことが求められています。


#日経COMEMO #NIKKEI

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