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2020年の総括:「社会と人に優しい」が経済・資本市場で更に注目された契機に!?~行き過ぎた株主資本主義が進んだ理由を経済学の視点で考える〜

  2020年は、どんな年でしたか?と聞かれたら、コロナの影響について回顧しない人は少ないと思います。当然、私も仕事やプライベートに、コロナの影響を受けました。経済への影響を考えても、デジタル化加速など良いことばかりではありません。そして、経済成長への影響だけでなく、経済成長とは何か?生産性とは何か?生産性とは人を幸せにするための物なのに、人を解雇して生産性を上げる?経済と幸せの関係性は?…etcと、今までの経済的価値観も揺らいだ1年だったように思います。今回は、なぜ私がそのように考えたのかと、「社会や人に優しい」企業が増えることのが難しい理由を考察し、解決策へのチャレンジを紹介します。

*機関投資家も経済・資本市場への求める価値観が変化した?

 経済的価値観の揺らぎを如実に示していると思うのが、次のニュースです。これまで、主要先進国では株主に対してリターンを還元するためにもROEの向上が強く主張されてきました。特に、日本のISS議決権行使基準では、ROE5%未満の大企業の経営者選任に対する議決権行使で、「反対」推奨するほどでした。しかし、これでは前向きな投資をしたために赤字に転落したり、従業員雇用を優先して一時的に業績が低迷した企業は、資本市場が許容しない環境を助長しかねないことは問題視されていました。

 しかし、このニュースにあるように、コロナの影響で、短期的なROE至上主義から、株主価値の源泉である従業員や社会性を求める株主が増えているようです。コロナ対応で従業員を大幅にカットして、財務体質を安定させるために保有資産を切り売りして、それを配当に回したり、配当を優先して雇用をカットするという企業戦略は、好まれにくくなっているようです。こうした現象が続くと、長期的に株主還元を得るには雇用や社会に優しい企業に投資をしよう!と考えることが、機関投資家間で当然になる可能性があります。社会や人へ優しい、環境・社会・ガバナンスに取り組む企業に投資をしようとする「ESG」という投資テーマは、一過性でなく、当然になってくるのかもしれません


*なぜ、短期的な株主価値至上主義になりやすいのか?

 しかし、ここまで読んで、そんな美談な話があるの?やはり、利益ありきだよ!行き過ぎた株主資本主義は是正されない!と考える方も少なくないと思います。まず、なぜ株主資本主義が浸透してきたのかの理由を、先行研究を軸に考えてみます。

 Tirole(2006)の第一章では、ある思考実験を紹介しています。そこでは、経営者に企業価値を毀損させるような経営(粉飾決算、経営者の私的利益の追求、過剰な役員報酬…)をさせないためには、株主は当該企業に対して株主利益に重きを置いてモノを言う方がよいと指摘しています。社会全体や従業員の利益じゃなくて、株主利益と言っているのは、なぜでしょうか?

Jean Tirole (2006), "The Theory of Corporate Finance" ,


 ノーベル経済学受賞者でもあるTirole氏は、経営者に真面目に経営をさせるための監視方法には、「社員や社会全体の利益を軸にするありきで経営者をジャッジする方法(ステークホルダー論)」「株主利益ありきで経営者をジャッジする方法(シェアホルダー論)」があるとしています。

 そこでは、セカンドべストとして後者が経営者の監視に有効なことを指摘しています。というのも、社会や社員の利益を毀損させたり増やしてもそれを定量的に測定することは、何に立脚すべきかが曖昧になるからなのです。例えば、米国A社は社員の多様性促進や寄付などに積極的で有名です。でも、租税回避という脱税を行いました。この場合、米国A社の社会全体にもたらした利益は、どう計測すべきでしょうか?また、株主よりも、社会全体の利益を優先すると言及する会社に出資する人は多くないかもしれません。

 一方で。株主利益の毀損や増加は、純利益やROE・株価等で計測しやすいです。もちろん、株主利益ばかりを追求しては、巡り巡って社会にも株主にも不利益をもたらす可能性が高いです。それがコロナで明るみに出たように感じます。なので、経営者に真面目な経営に取り組んでもらうためには、セカンドベストとして株主利益を重視することが効率的であり、それが行き過ぎた株主資本主義に繋がったのかもしれません。

 しかし、それが今少しだけ変わりつつあります!ソーシャルインパクトボンドのように、計測が非常に難しかった「社会のあらゆるステークホルダーにどう貢献したか」を測るメソッドや、テクノロジーの力も借りて開発され始めているのです。更には、そうした流れなのか、上場企業ですら公益重視を掲げる企業まで登場してきました。


2020年は、これまで当然とされてきた「株主利益」の考え方が大きく変わり始めた契機になったように感じます。ESGなんて胡散臭いと思わず、投資家も経営者もビジネスパーソンも、前向きに受け入れても悪くないかもです。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

2020年も本当にお世話になりました。

応援いつもありがとうございます!

本当にありがとうございます!!


崔真淑(さいますみ)



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