プロダクトアウトからソサエティインへ ~ システム開発会社は社会課題解決のプラットフォーマーになれるか
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日本ユニシスが「BIPROGY(ビプロジー)」に
4月1日に社名変更して、日本ユニシスが「BIPROGY(ビプロジー)」になる。はじめてこの名前を聞いた時は、どんな意味かとハテナマークが飛んだが、この記事を読んで初めて、BIPROGYが光が反射すると現れる7色の頭文字であることを知った。なるほど、「イノベーションに必要な多様性を表している」ということだったんですね。
平岡社長はたいへん気さくな方である。社員からは「アッキー」と呼ばれたりもしていた。とても穏やかで柔軟な印象でありつつ、平岡社長は「社会課題解決を中心に据えた企業への変容」を成し遂げることについては、ぜったいにぶれない人でもある。
この記事のなかでも、「従来のように要求されたシステムを開発するエンジニアを増やすことが今後も意味があるのかは疑問だ」であったり、「売り上げを重視し過ぎると、顧客の要望に応じてシステムを個別に開発する従来のシステム企業に戻ってしまう」という発言は、システム開発会社のトップとしては「振り切って」いて爽快だ。
「企業規模よりもESG(環境・社会・企業統治)の観点での企業価値を追求したい。技術で社会に役立ちたいという人に来てもらいたい。ESGやSDGs(持続可能な開発目標)のど真ん中で仕事をする会社だということをアピールしたい」という発言からも、戦略ポジショニングは明快である。この戦略ポジションと中長期的な経済的成果がつながってくることが証明できれば、ほんとうに面白い会社になるだろう。
そのために重要になるのが、平岡社長の言うところの「サービスのプラットフォームとなるシステムをリカーリング型で提供することを目指す。短期の売上高より未来のビジネスモデルを追求する姿を評価してもらいたい」というビジネスモデルの転換だ。受注型でシステムを組むのではなく、儲けの構造をシステムに組み込んでおいて、それを異なる業種やサービスに提案していくのだ。
たとえば次の記事では、日本ユニシスがMaas(マース:Mobility as a Service)の基盤として、地域活性のプラットフォームを広げようとしていることが紹介されている。ビジネス価値の証明はこれからだ。
社会課題解決プラットフォーマーに必要な「ソサエティイン」
いま、私たちのスマートフォンは、グローバル標準のソフトであふれている。地図情報は日本の会社の方が詳しいはずだが、Googleマップを使う。Apple製のiPhoneが未対応のため、日本版GPSの準天頂衛星「みちびき」は宝の持ち腐れだ。
前述した日本ユニシスのMaaSや地域通過などの、いわゆる「地域システム」が成功するかどうかの分かれ道は、どれだけ地域のユニークなコンテンツが載っているか、そしてどれだけ多くの地域の人が使っているかどうかだ。
システム開発会社は、これまでは地方自治体が地域システムを作りたいと言ってきたら、そのためだけに新しいシステムを開発して、使いにくくて高価なシステムを作ってきた。そのため、グローバル標準のソフトにくらべて地域システムは使いにくいという印象がついて回っていたのだと思う。これが、基盤は一緒で地域に応じてローカライズするシステム開発が可能になると、グローバル標準から「トランスローカル」、つまり地域で生まれた新しいシステムが他の地域へと広がっていく、地域間の相互学習のスパイラルが回っていくことになる。
つまり、システム開発がプロダクトアウトから、マーケットインの発想へ、さらには市場ではなく社会課題発想で開発する「ソサエティイン」のプロセスに変わっていくことになる。
じっくりと市民協働イノベーションエコシステムを育てる
大企業がソサエティインで、地域発の社会課題解決プラットフォームを構築しようとしたとき、その主役は「損得を超えて地域の未来を共創する地域プレイヤーたち」である。地域プレイヤーたちの主体的な取り組みがなければ、プラットフォームビジネスは成立しない。大企業にしてみれば、地域の深いところまで入って価値創出することは、コストに見合わない。
地域でイノベーションを起こすためには、地域のステークホルダーである自治体、市民・NPO、地域企業がふだんから対話し、地域の未来をともに創造する関係性を構築しておくことが重要である。この概念を私は「市民協働イノベーションエコシステム」と呼んでいる。次のサイトにあるように、弊社Slow Innovation株式会社は京都市と連携協定を結び、京都市内のステークホルダーが共創的な関係を構築していくための仕組みづくりを調査研究している。
システム開発会社がイノベーションを起こそうとすると、どうしても技術の先進性に注目しがちである。しかし、社会課題解決のプラットフォーマーとなるためには、地域の鍵となるステークホルダーとつながり、市民協働イノベーションエコシステムを育てていかなければならない。それは遠回りにも見えるが、地域プレイヤーが社会課題解決プラットフォーム上で協力・協働する状況をつくるための最短の近道になるのだ。
BIPROGYが、今後どのように地域の市民協働イノベーションエコシステムを育てていくか、注目していきたい。