1on1ポッドキャスト「かるちゃべーす」が職場の「湿度」を調整する ーピア・マネジメント実践例
お風呂によくでてくる通称「ピンクカビ」は、正式にはロドルトラというらしく、空気中に酵母が存在し、高温で湿った場所で、皮脂や石鹸カスを好んでたべて成長するらしいです。ピンクカビがあると黒カビも発生しやすくなるそう。このピンクカビが発生しないようにするためには、空気を入れ替えて、湿度と温度を下げて、からっと乾いた環境をつくっていけるといいといいます。
職場においても、お互いの感情や思いを特定の場所だけで共有し、クローズドなコミュニケーションが増えるほどに「職場の湿度」があがり、関係性や認識が固着化して職場のムードが悪くなることがあります。関係性や認識の固定化とは、いわば、職場のピンクカビとも言えるかもしれません。この職場のピンクカビを防ぐには、遊び心があふれ、風通しのよい職場風土をつくることです。
今日は経営コンサルファームMIMIGURIにおける、あるチームが行っている職場風土づくりの事例が非常におもしろかったので、その話を書きたいと思います。
ケア役割をみんなで担う「ピア・マネジメント」
私は、「創造性の土壌を耕す」をミッションとしている経営コンサルファームMIMIGURIで、ファシリテーターとして組織づくりを実践しています。そのなかで、昨今賑わせているマネジャーの無理ゲー状態をどう捉え、解消するとよいのかを必要にせまられて探究しています。
マネジャーはメンバーの業務の進捗をサポートし、チームや事業のビジョンを考え、社内の情報連携をとり、人員のリソースに気を遣いながら目標達成を目指し、かつチームのムードを明るく前向きにしなければなりません。
とくに重要になっているのは、マネジャーの「ケア役割」です。日々の業務の進捗をなめらかにする短期的なケアから、メンバーのキャリアやワークライフバランス(WLB)、メンタルヘルスといった長期的なケアまで、感情と思慮を用いたケアをする必要があります。しかし、複雑な業務を多岐にわたって行うマネジャー自身が疲弊し、バーンアウトしている実態もあります。
そのために、私は、みんなでケアを担い合う業務構造と職場風土の醸成が必要だと感じています。これを「ピア・マネジメント」と呼んでいます。
湿度が上がる1on1問題
複雑な役割を担うマネジャーの頼みの綱のひとつが「1on1」です。メンバーと定期的に1対1で話すことで、業務支援、キャリア支援、私生活との両立やメンタルヘルスのケアなど、様々なケアを一手に行うことができるように見えます。
しかし、この1on1でマネジャーがメンバーをケアしなければと躍起になるあまり、「密室で行うカウンセリング」のようになり、負担が増していくケースもしばしば目にします。
密室の湿度が徐々に上がり、ジメジメとした空気が醸成されてしまう。マネジャーとメンバー2人の間だけに共有されたトピックがたまり、通気性が悪くなると、「職場のピンクカビ」が発生してしまうかもしれません。そうならないために、1on1の窓を開け、湿度を軽やかにする必要があると感じています。
私が所属しているチームでは、1on1のログを誰もが読めるようにオープンなところにおいています。議事録に書かないでほしいことは事前に申告してもらうようにしています。そうすると、議事録を誰もが読むことができるので、情報の透明性も高くなります。くだらない話をしている1on1のログをエッセイのように楽しんでいるというメンバーもいます。
ピア・マネジメントの実践例:1on1ラジオ「かるちゃべーす」
MIMIGURIのあるチームでは、そんな風通しのいい職場を実現するためのユニークな取り組みを行っています。その名も、「かるちゃべーす」。この取り組みの中核にあるのが、「1on1をラジオ番組にする」というアイデアです。
「かるちゃべーす」は、メンバーの一人ひとりがラジオパーソナリティになって、番組にはテーマやキャラクター設定をつくり、1on1のなかで15分ほどの対話を収録し、社内のslackで公開する活動です。
たとえば、「藤井のシャニカマラジオ」では、「軍事的世界観で育ってきた藤井が」といった番組紹介から対話がはじまります。ちょっとしたテーマで軽妙なトークをしながら、お喋りが展開していきます。
また、「よしだなおきのはやく人間になりたい」は、「まだ人間じゃない」というキャラ設定で進行され、「どうすれば人間になれるのか」という問いがベースにあるところがおかしくてたまりません。
番組タイトルや紹介文、番組ロゴをCanvaなどで作成、ガレージバンドでBGMをつくるなど、チームでアイデアを出し合いながらDIYでつくっているといいます。
このアイデアの発起人で、ミュージシャンでコピーライターの大久保潤也さんは、週に一度のオンラインでの朝礼型エンターテイメント「おはようMIMIGURI」のプロデュースとDJをつとめていて、そのエンタメクオリティは入社されたみんながびっくりしています。彼のディレクションと、ヘッダーにも使わせてもらったデザイナー吉田直記さんのかわいいロゴが、活動の手触りを生み出しています。
相互理解と相互支援
この「かるちゃべーす」の取り組みの面白さは、いくつかの観点から語ることができます。
まず、「演劇」をそれとなく取り入れているということ。軽快なBGM、そして軽妙なオープニングの番組紹介からのテーマ設定。「ラジオ」のていでちょっとだけ演じるモードに自然に入っていきます。
さらに、15分というちょうどいい時間が聞きやすさを生み出します。1.5倍速で聞けば10分で終わってしまうのに、なんだかこの人たちのことをちょっと知った気持ちになってしまう。声や話し方は、文字情報にはないその人の身体性がこもっていくので、近さが感じられます。
そして、キャラクターの認知が生まれていくこと。「シャニカマ/斜に構えてしまう」というキャラクター設定が、藤井さんの面白さや視点の鋭さ、そして実は不安になりながら斜に構えているという可愛らしさを引き立てていきます。「はやく人間になりたい」は、「どうすれば人間になれるのか」をみんなが応援したくなるような推したくなる気持ちをつくってくれます。
ラジオの中で会話することでもちろん、相互理解も深まっていくでしょうし、聞き手にとっても「この人今こんなこと考えているんだ」と会話のなかで発見があります。
遊び心を支える組織文化とは?
こうした自由な取り組みの源泉には、MIMIGURIの組織文化にあります。この会社では、クリエイティビティやクラフトマンシップ、そして何より「遊び心」が大切にされています。
普通の組織で「ラジオ番組を作りましょう!」なんて提案したら、「何ふざけてるの?」と怒られるかもしれません。しかし、MIMIGURIではむしろ奨励される。それは、真面目な探究だけではなく、遊びながら探究する価値を理解しているからです。
遊び心は、深刻になりがちな場を軽やかにし、新しい発見を促します。「愉快」や「愉しみ」の「愉」という文字は、「心の膿を抜き取る」という意味をもっています。遊び心をもって愉しみながら風通しのよい職場風土をつくることが、膿を抜き取る、すなわちケアを生み出していくのです。
近年、組織文化・職場風土をよりよいものにつくりかえていくことが働きがいや創造性を高める点を、重視する組織も増えてきています。
ピア・マネジメントとは、マネジャー一人がすべてを背負うのではなく、みんなでケアし合う構造と、愉しみ合う風通しのよい風土を作ることです。「かるちゃべーす」のような取り組みは、ピア・マネジメントにおける職場風土づくりの実践であると言えるでしょう。
これを読んで、一緒に働いてみたいなぁと感じた方は、採用のご応募をお待ちしております。