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出生率向上に住宅ローン緩和が重要!? ~ファイナンス視点で考える少子化対策~

 出生数の急減が止まらないことが話題で、対策について様々な意見が出ています。一部の研究者からは、人口減少を食い止めるラストチャンスは既に過ぎたという声も聞きます。むしろ、人口減少時代に合わせた国作り、企業経営が求められているとの意見も出ています。今回は、時すでに遅しという声はあるものの、何が出生数の上昇に有効かをファイナンスの視点で考察していきます。


日本の出生率、実は低くない?

 日本の少子化問題は欧米と比較され低い値やダメなことばかり話題になり、日本の政策は駄目だ!と一刀両断されることがあります。しかし、アジアの中で比較をして見ると、違う姿がみえます。
 下記は「The Economist」が紹介しているアジア諸国の出生率チャートです。実は、日本の1990年から2020年にかけて出生率の減少幅は相対的に小さく、2020年においてはアジア諸国でも出生率は非常に高いです。日本の出生率は、既に中国を超えている水準です。「The Economist」は、この背景をこう分析しています。日本以外のアジア諸国は、高すぎる住宅価格が出生率を明確に抑えているだろうと・・。一方で、日本は想定的に住宅ローン金利も、住宅価格も低いことが指摘されています。
 

出所 The Economist: Asia’s advanced economies now have lower birth rates than Japan

住宅取得と出生率の関係に関する議論

 本当に「住宅取得の容易さ」と「出生率」に因果関係はあるのでしょうか?実は、マクロ経済学研究では因果関係が有るor無いと、長く議論されてきました。例えば、住宅価格や住宅取得の規制緩和は、子どもを持つタイミングに影響するだけで出生率に影響しないという意見もあれば、、影響するという意見もあります。この因果関係を更に深く検証するには、マクロデータだけでなく、ミクロデータを使う必要があります。プライバシーの問題もあり、住宅取得と家族構成に関する詳細なミクロデータを取得するのは非常にハードルは高いです。実は、昨年に発表されたアメリカのファイナンス研究が、このハードルを超えて「住宅取得の容易さ」と「出生率」に因果関係について深く切り込んで検証してくれています。

住宅取得の規制緩和は、出生率向上に影響!?

 ファイナンスの世界TOP3に入る学術雑誌に掲載された、下記の論文が米国データを用いて、非常に明快な検証をしています。ここでは、このような分析を行なっています。現在、米国も少子化に苦しんでいます。過去30年間、米国の出生率が明確な上昇傾向を示したのは、2000年から2006年の間だけででした。実は、この期間は、住宅ローン規制の大幅な緩和を行なった時であり、出生率の急上昇が重なっています。でも、それだけでは因果関係が有るとは断言できません。そこで、この研究では、あるイベントショックに注目しています。住宅ローンの規制緩和が全米で行われたものの、その法律によって規制緩和が引き起こされやすかったのは国立銀行のみでした。そこで、国立銀行が多い州と、そうでない州とで、住んでいる人の属性が近い州同士で、計量経済学で用いられるDDD分析という因果推定を行いました。その結果、住宅ローン規制緩和は、出生率つまり子どもを持つインセンティブに影響することを報告しています。

今後の日本に活かせることは?

 この研究から得られる示唆は、日本がアジアの中でも相対的に出生率が高いのは、やはり住宅ローンを借りやすい環境(低金利、価格が低いなど)が影響していたからではないかということです。これから金融緩和縮小が行われるようですが、出生率にまで影響が出るのか?注目したいところです。

おかげさまで、子どもが1歳半を迎えて日々慌ただしいものの、皆様の励みのおかげで精進できています。
いつもありがとうございます!
少子化問題に注目する契機は、子どもとの生活を通してです。新しい気づきを与えてくる、家族、子どもに感謝したいです。
崔真淑(さいますみ)

*冒頭の画像は、崔真淑著「投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本」(大和書房)より抜粋。無断転載はおやめくださいね♪

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