テクノロジーは機械化や自動化を超えなければならない
変化は激しくなっています。業界の再編や破壊がどこの業界にも起きていますし、これからますます起きます。この時代に、技術開発の考え方を変える必要があると思います。
それを最も重要な「変化の中での経営方針の実行」という観点から説明します。
変化を乗り越え、むしろチャンスにするために、企業や組織には「経営方針」があります。当然ながら、方針は、現場によって実行されて意味を持ちます。従来、トップは管理階層を介した間接的コミュニケーションに加え、トップメッセージの発信、さらに人事や組織改編によって方針を伝えます。
しかし、従業員は経営方針に沿った行動が日々できているでしょうか。実際には、方針を思い出すこともできない人が多数というのが実情です。
これでは経営方針の実行はうまくいきません。経営方針の良し悪しは実行できるかで決まります。そして急速な変化の時代に、それは企業の存続に直結します。
変化を伴う経営方針を、普通の人である従業員の集団が現実に実行できるかどうかが一際重要になっているのです。ここにこそ今後のテクノロジーは力を発揮すべきなのです。
それではどうすれば経営方針がきちんと実行されるでしょうか。これには、ポイントがあります。最も重要なポイントを3つにまとめました。
(1) 繰り返す
方針は繰り返し伝え、リマインドすることが重要です。人は変化を嫌い、ともすれば新しい方針を避けようとします。この制約を超えるには、一度聞くだけでは不十分です。繰り返しリマインドし、考え行動することを習慣化することが必要です
(2) 社員が自ら考え動く
しかし、上から指示されたことをやるだけでは、方針実行に魂がこもりません。それぞれの多様な状況や制約の中で、社員が自らが考え、方針にそった行動を起こすことが重要です。それぞれの強みを活かして置かれた場所で、考え行動することが大事です。
(3) 全員で前向きに
2:6:2の法則のように、多くの社員は周りをみて行動します。だから対象者が全員で前向きに進める機運をつくることが重要です。個々の行動は小さくとも、そのような行動が集まり、クリティカルマスを超えることで大きな力になるのです。時に痛みを伴うこともある変革を、全員で前向きに進めていく雰囲気が大きな動きを可能にします。
テクノロジーの役割
従来の企業向けのITは、ルーチンになった既存業務プロセスをコンピュータに載せることを目指してきました。上記の要件は、従来のITとは大きく発想が違います。しかし今、テクノロジーは、このようなことも強力に支援できる可能性があります。これをそれぞれ見ていきましょう。
(1) 繰り返す
個人に繰り返しリマインドするのに、スマホは極めて適したデバイスです。常に持ち運んでいて通知も可能です。上司もできない形でさりげなく本人にあった頻度や形態で気づきを与えることができます。
(2) 社員が自ら考え動く
スマホは方針やテーマをリマインドすることに加え、多様な可能性のメニューを示したり、本人が発信したり、宣言ボタンを押させて意思決定を促すことや、レベルやポイントなどのインセンティブを与えることで、上司もできない形で、参加者全員に自発的な行動を促すことができます。
(3) 全員で前向きに
スマホアプリで前向きなメッセージとともに他の参加者の活動が見える化されることで、参加者は背中を押されます。地域や部門を超えて一緒に進む機運を参加者が感じることができます。従来のマネジメント階層ではできない大きな繋がりを作ることができます。
このように見ると、変化の時代に、デジタル技術に求められるのは、単に既存業務をコンピュータで置き換えたり自動化することではなく、むしろ、より人間を中心とし、その結果、個人や組織的な心を大事にする発想です。
21世紀にも組織にマネジメントが必要なことは変わりません。しかし、人のマネジメントについても、20世紀型の規格大量生産の時代とは大きく異なる発想が必要です。人を標準化された機械部品のように扱う発想をやめる必要があります。そして、デジタル技術の開発も、このように人の心理や新しい組織マネジメントに沿ったものに進化するときがやってきたのです。