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MaaSのゴールを「地方創生」に

8月末に出ていたリリースに関する記事が日経MJに。第一歩としては評価するものの、MaaSとしての普及やビジネス化には、まだまだ遠い道のりが待ち構えているだろうと思いながら読んだ。

(戦略ネットBiz) ANA、JR東とMaaSで連携 訪日客の足、ネットで手軽に

陸・空の連携で「異業種」連携といえるかもしれないが、同じ運輸業であるという意味では同業の連携ということになる。いわば「足」が連携したわけだけれど、それを利用する人、例えば訪日客は、飛行機や鉄道に乗りに日本に来ているわけではない(少なくても一般的には)。何らかの「目的」があって旅行客は訪れるのであって、「足」は重要だし不可欠だが「手段」であることは否定できない。

また、鉄道と航空だけで「足」が完結するわけではなく、バスやタクシーをはじめ、そのほかの交通機関・移動手段との連携があってはじめて、旅行客の移動が完結する。この点で、「足」の連携としても、まだまだ多くのプレーヤーとの連携が必要になるだろう。その中には、Uberをはじめとするライドシェアサービスをどうするか、という課題もある。訪日客の多くは、自国や旅先でそういったライドシェアサービスを使っているだろうし、不慣れな外国で、使い慣れたライドシェアサービスを活用して言葉の問題や料金の問題(現金の不足や、換算の問題、チップなどまで含めて)を回避できるメリットは非常に大きい。

いわば「白タク」の配車であるライドシェアは、安全性などに関する懸念もあり、それが日本の規制の一つの理由になっている。欧州の一部ではFreeNowという正規タクシー版の配車サービスがあるが、日本のタクシー業界の取り組みは遅れており、まだその地域のタクシーのほとんどをカバーするようなサービスがなく、いまでも会社ごと系列ごとの囲い込みツールの域を脱しておらず、提供者目線に終始していて利用者側に立ったサービス設計とはいいがたい。

目的手段の議論を別としても、よく言われる「あご」「足」「まくら」が旅行に欠かせない3要素であり、「あご」=飲食と「まくら」=宿泊は、MaaSの実効的な活用を考えると、不可欠の要素になるだろう。とくに「あご」=飲食は、和食が世界的に評価されている背景も踏まえると、旅の「目的」ともなりうる重要な要素だ。「まくら」=宿泊施設も、日本文化を体験できる旅館や温泉などは旅の「目的」のひとつとなりうる。また、LCCを利用するなど低予算での旅行者にも対応するなら、「民泊」も無視できないであろうことは、先に書いたライドシェアと同様だ。

こうした取り組みのあり方を考えると、全国ないし広域をカバーするJR+ANAのような取り組みに加えて、特定の地域ごとの連携によるローカルな交通(2次交通)の事業者や、その土地の飲食店・宿泊施設をカバーしたエリアごとのMaaSサービスがうまれ、それを相互に連携させていくことで、はじめて地方への送客、インバウンドによる地方創生が実現するのではないだろうか。いわば、航空業界のハブ&スポークシステムに類似した形でMaaS同士が連携していくイメージだ。

この地域ごとのMaaSは、当然ながら地元の人の日常生活にも使えるものにする。むしろそれを前提に作り、インバウンドにも使ってもらえるようにすることで、利用の頻度を高め、少しでも収益化を図り、持続的な運営を可能にすることを目指すことになるだろう。

また、こうした地域ごとのMaaSを提供することで、全国展開しているのではない「あご」「あし」「まくら」の各事業者の利用を促進することが出来るのではないだろうか。トリップアドバイザーのような評価サービスも生まれているとはいえ、インバウンドにとっては、ローカルな事業者のサービスよりも全国規模の事業者のサービスの方が知名度もあり安心で選びやすいだろう。そうなると、結局はインバウンドの落としてくれたお金があまり地元に残らない、ということになる。これは、世界規模で展開されているライドシェアや民泊のサービスについても同じことが言える。

開発リソースなどの問題で、地域ごとにこうしたサービスを全国的あるいは世界的な規模のサービスと同等に作りこむことは難しいかもしれないが、一方で全国・世界規模のサービスではカバーできないローカルな部分の作りこみを行うことで、大規模のサービスに少しでも対抗し、地元にお金が留まるようにすることは、地方創生の目的を持続的な地域経済圏の維持ととらえるなら重要な検討ポイントであると思う。

そうであるなら、地域ごとのMaaSは、地方自治体も一体となって開発に取り組み、さらにはそういう意思を持った地域・自治体がサービスやアプリ等の開発を共通化して費用負担の軽減と品質の担保を行い、「コンテンツ」の部分は地域ごとのものをいれていくことで、全国あるいは世界規模のサービスと共存する関係になることを目指すべきではないだろうか。

MaaSというと、どうしても交通機関だけに目が行っている印象があるが、特にこれからの日本においては、地域の足をどう確保するかはもちろん、地域の経済をどう維持していくかという、いわゆる「地方創生」の統合的な取り組みとして位置付けていくことで、その実効性を高めることが出来るように思う。


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