「釣り方」から考え持続可能な開発を実践してきたアフリカのロールモデル達との10年
8月末開催予定の第8回TICAD(アフリカ開発会議)を目前に、出張先のガーナから、この10年携わってきたアフリカにおける支援やビジネス、共同代表を務めるガーナNGO MY DREAM. orgからの学びを振り返り記したいと思います。アフリカでの支援活動やビジネスに携わりたい、アフリカに寄付や投資をしてみたい、自分はひょっとしたらアフリカに対してバイアスを持っているかもしれない…ひとつでも思い当たる方に、是非読んでいただければ幸いです。
恩返しからはじまったガーナ北部の村人との10年の取り組み
2012年当時25歳の私は、初めて訪れたアフリカでとても素敵な出会いに恵まれました。外務省から派遣留学させてもらっていた米国コロンビア大学からのインターンとして訪れた、西アフリカのガーナ。首都アクラから飛行機で1時間半、車で45分の場所にあるボナイリ村。「何か力になれるはず。学んできたこと、仕事で積んできた経験を活かせるはず」そんな想いでいました。ですが、村の生活をし始めてすぐに、そんな自分のおこがましさにハッとしました。70超の言語があるガーナで、ボナイリ村のみんなが話すのはダグバニ語。英語が通じるのは一握り。コミュニケーションをとるにも、その一握りのみんなの助けが必要でした。さらに、水道が通っているとはいえ、約2000人の人口で数個の蛇口をシェアする暮らしの中、ほとんどの人々は大きな容器を頭の上に載せて井戸やため池から水を汲んでくる日々を営んでいます。私はといえば、10キロ以上の水が入った容器を頭に載せて運ぶことが出来ないばかりか、炭や薪で火を起こして青空の下のキッチンで食事の準備をすることすらままなりません。そんな私に、「今日は少し冷え込むから」と温かいお湯を準備し水浴びを促してくれたり、村の言葉や文化を一つ一つ丁寧に教え面倒を見てくれたのは、寧ろ村のみんなでした。力になるどころか世話になる一方の状況に対して、流石にお礼をしたいと申し出ると、「家族なんだからそんなの気にしなくていい」という返事。それでもどうにかして恩返しがしたい、そんな想いを村のリーダーたちに打ち明ける中で誕生したのが、MY DREAMプロジェクトです。
恩返しをしようにも、村の人たちにとって何が一番求められているのか見当がつきません。そこでリーダーたちと話し合い、50数名からアンケートを取りました。同率一位で出てきた答えは、「病院が欲しい」「幼稚舎を建てたい」でした。
村のリーダー達が計画し実践した幼稚園整備プロジェクト
当時すでに村には、有志がお金を出し合って村の意欲ある若者を先生として雇い、自前で運営する木の下の幼稚園がありました。毎朝子ども達が通ってきて学ぶシステムがすでに確立していました。「幼稚舎ができれば確実に意義のある使い方ができる」という想いで一致し、プロジェクトが立ち上がりました。どんな設計がいいのか、どれくらいの予算が必要なのか、工期はどれくらいなのか…幼稚舎整備のために必要なことは全て、村のリーダー達が調べて計画を練っていきました。一方唯一の外国人の私の役割は、資金調達。クラウドファンディングの概念もまだ普及していなかった当時、簡易ウェブサイトを立ち上げて、家族や友人に支援を呼びかけることを始めました。村のメンバーが最終的に合意した予算が凡そ30万円、幸いにもウェブサイト立ち上げから間も無くその調達が叶いました。子ども達のために望んだ幼稚舎を自分たちの手で整備することに、多くの村人が様々な形で力を出し合ってくれました。労働力を提供してくれる村人、セメントの準備に必要な水汲みを進んで行ってくれる人々、汗水垂らして働くみんなにご飯を提供してくれるお母さん達。整備のためにと貯金を切り崩して寄付を申し出てくれた村人もいました。みんなの力を結集して取り組んだ幼稚園整備プロジェクトは、なんと立ち上げから3ヶ月で完成。今日も大勢の子ども達の学び舎として、大事な役割を担っています。この一連の経験が、ガーナNGO MY DREAM. orgの礎となりました。
「自助努力」を促す、日本政府の国際協力の考え方
日本政府の国際協力の基本的な考え方は、「自助努力の促進」にあります。魚を贈るだけでは、食べてしまってお終い。それならば、自分たちで魚を捕まえていけるように釣竿を渡すべきというオーナーシップ尊重の考え方は誰もが聞いたことのある話だと思います。当時MY DREAM. orgの活動と並行して外務省に勤めていた私にも、その考え方が根付いていました。村人との取り組みの10年を振り返ると、村のみんなはさらに一歩踏み込んで、「どうやって釣るかを考え実践する」ことを積み重ねてきたように感じます。釣竿かもしれないし、網かもしれないし、ひょっとしたら手掴みかもしれない。試行錯誤をしながら、村の事情に合わせてしっくりくる方法で目的の達成を目指していく、失敗すれば軌道修正を重ねていく、そんなことを繰り返してきました。
諦めずに5年かけて実現したクリニックの整備
幼稚舎の整備から5年後の2017年11月、私たちはクリニックの開所式に集っていました。2012年当初、「建物ができても、中で働くお医者さんや看護師さん、機材や薬がなければクリニックとしては機能し得ない…」と一度は見送った病院整備の夢を、村のメンバーは諦めませんでした。どうすればいいのか皆目検討もつかない中、村のメンバーは行政機関であるGhana Health Serviceの事務所に足繁く通って相談に相談を重ね、「建物の整備さえできれば、行政として人材・機材・薬を供給する」という約束を取り付けました。念願のクリニックが出来てから、ほぼ5年。コミュニティとの連携による理想的な運営が実現できている例として高く評価されるまでになったクリニックには、10名を超える看護師・助産師が配置され、今ではボナイリ村の人々のみならず周辺の村にもアウトリーチし、4000名超の人々の命と健康を守る大事な役割を果たしています。モデルケースとして推薦され、国内外からも多くの方々が視察に訪れています。このプロジェクトを最初から引っ張ってきた村のリーダーYakubu Inusahは、「いつかはこのクリニックをさらに高次の医療機関に育てていって、ゆくゆくは他からの搬送も受け入れられるような病院にしていくことが僕の夢だ」と語ります。彼のような存在に憧れる子ども達からは、将来はマネジメントを専門とする医療従事者になりたいと語る声も聞こえてきています。
寄付から卒業し、自ら稼ぎ自ら発展をかなえていくエコシステム
子ども達を取り巻く教育・保健衛生環境を向上させるために、一丸となって取り組んできた村のみんな。当初は寄付に頼っていた財源も、「寄付が途絶えたらどうなる?」という自らの問題提起から、ビジネスを通じて稼いだお金を充てていくスタイルに移行していきました。ガーナ国内の起業家と連携してシアバター商品開発を行ったり、アフリカンプリントを用いたものづくりに取り組んだり、農業専門家の助言を受けながら収穫量を少しでも上げる稲作を実践したり。自らの働きでお金を生み出し、そのお金を子ども達のために使っていくー10年かけてそんなサイクルが定着しました。
先述のシアバター商品開発に取り組むパートナーであるコスメブランド”SKIN GOURMET(スキングルメ)”創業者で30代のガーナ人起業家Violet Amoabengは、ジャックマー氏などが選出するアフリカの注目すべき起業家を表彰するアワード”Africa’s Business Heroes 2021”にて上位10名に選出され、ロールモデルとして後進に指針を示しています。頻繁にボナイリ村に赴き、村人達と議論を重ね商品を世に送り出し続ける彼女の姿に、鼓舞される若者や子ども達がたくさんいます。
「釣り方を考え実践する」生き方を示すロールモデル達
10周年を目前に控えた昨年、村のみんなとの久しぶりの再会にあたって、私はMY DREAM. orgを組織としてどういう風に次の段階に移行させていくべきなのかを相談したいと考えていました。新型コロナの影響で2年以上訪れることのなかった村に戻り、まずはのんびり村を散歩しながらみんなに挨拶して回りました。不在の間にも、新しい取り組みが始まっていたり、次の構想をすでに温め始めていたり。周辺の村のリーダー達に自分たちが積み重ねてきた10年のノウハウを伝えている、という話も聞こえてきました。「釣り方を考え実践する」、そのメンタリティが人々の日常の生活に染みついていることを実感しました。そんな様子を見ていると、組織をどうしていくかということは重要ではないような気がして、その想いのままに共同代表のSayibu Zakariaに話したところ、「生き方だからね」という返事。じんわりと胸に広がるあたたかいものを感じながら、誇らしく思ったのでした。この10年、私はそんな彼らの存在から多くのことを学ばせてもらってきました。
第8回TICAD(アフリカ開発会議)
8月27~28日、チュニジアでTICAD(アフリカ開発会議)が開催されます。1993年以降日本が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行及びアフリカ連合委員会(AUC)と共同で開催してきたアフリカの持続可能な開発のための国際会議です。私自身も2016年のTICAD6(ケニア)、2019年のTICAD7(横浜)に参加し、思い入れのある国際会議です。援助先としてだけではなくビジネスパートナーとして認識され、世界中からの投資を呼び込んでいるアフリカ。2022年第一四半期のスタートアップによる資金調達実績を比較すると、他の地域が軒並みマイナス成長を記録する中、アフリカだけは前年比+150%と大幅な結果を残しています(Quartz Africa)。世界中の投資家からの期待を呼び込むアフリカの起業家達。そこにはまさに自らのコミュニティ、国家、大陸の発展を牽引するロールモデル達の存在があります。
国際協力・ビジネス問わず、「釣り方を考え実践する」ことを積み重ねてきている担い手達に、私たちはどんな風に伴走することができるのか。アフリカの持続可能な開発はそこにかかっているのではないか、そんなことを思います。
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