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四半期開示は、本当に企業経営を短期目線にしているのか?〜先行研究を振り返る〜

  公益資本主義という言葉を聞く機会が増えました。その一環として、経営者の短期利益ありきな経営姿勢を是正して、賃金UPに繋げようとする動きがあります。そして、短期利益目線の是正のために、上場企業への四半期開示の義務化をやめようという議論が出ています。しかし、下記の記事にもあるように、圧倒的に反対の声が多く、四半期開示が短期目線の経営者を生み出しているという考え自体おかしいという声も出ています。実は、コーポレート・ファイナンス分野の研究では、日本、そして世界で多くの研究報告がされています。今回は、本当に四半期開示が、経営者を短期目線にしているのかを考察していきます。

制度は企業の財務戦略に影響を及ぼす

 たしかに、会計制度の変更や、上場企業の情報開示制度が、企業財務戦略に影響していることは多くの研究が報告しています。例えば、情報開示制度の変更により、裁量会計が促されるリスクもその一つです。そして、四半期開示について、経営者が短期目線になり投資行動を減らしうるという研究報告もあれば、むしろ逆に、四半期で情報開示を行うことで、経営者が効率の良い投資行う傾向にあるという報告もあるのです。

四半期開示で短期目線になるとはどういうことか?

 下記の研究では、四半期開示が企業の投資行動が抑制される可能性を報告しています。四半期開示により、投資家による経営者へのモニタリング(監視)の精度が増します。結果、投資家が経営者が効率性の悪い投資を行うことを抑制することが可能になる一方で、経営者による必要な投資まで抑制するリスクも出てきます。つまり、四半期開示によるメリットとデメリットのトレードオフの存在を指摘しているのです。これが実際に当てはまる実証研究も多数報告されています。

Gigler, F., Kanodia, C., Sapra, H., Venugopalan, R., 2014. How frequent financial reporting can cause managerial short-termism: an
analysis of the costs and benefits of increasing reporting frequency. Journal of Accounting Research 52, 357-387

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/1475-679X.12043

四半期開示で、むしろ経営者の投資が効率的になる場合とは?

しかし、冒頭でお伝えした通り、逆のケースもあるのです。下記の研究では、四半期開示という高頻度の情報開示により情報の非対称性が緩和され、投資家のモニタリング機能が効率的になると報告しています。つまり、投資家のモニタリングによって、経営者は非効率な投資活動よりも、長期につながる効率的な投資をするようになると報告しています。言い換えると、経営者が、無駄な巨額買収や投資を抑制する効果もあるということです。あまりににも荒唐無稽な買収をする企業からは、株主も情報を入手次第、株を手放してしまいますよね、、

Downar, B., Ernstberger, J, Link, B., 2018. The monitoring effect of more frequent disclosure. Contemporary Accounting Research
35, 2058-2081.

四半期開示の研究から見えること

以上の研究から言えるのは、

「四半期開示のよる短期目線というのは世界中で一貫して報告されている現象ではないこと」

「四半期開示は、投資家と経営者の情報の非対称性の緩和に寄与し、経営者の投資効率性を改善させる可能性」

があるということです。更には、コロナの影響で経営環境が刻一刻と変化しているだけに四半期開示を廃止するのは、個人投資家にも、機関投資にも良いことは無さそうです。

こうした先行研究なども活かされながら、より実のある議論が進めば良いなと思います!

ここまで読んでくださりありがとうございます!

応援いつもありがとうございます!

崔真淑(さいますみ)

*画像は、崔真淑著『投資1年目のための経済・政治ニュースが面白いほどわかる』より引用。無断転載はおやめくださいね♪





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