今を援ける「エシカル消費」と未来に備える「行動様式の事前変化」【日経COMEMOテーマ企画_遅刻組】
クラウドファンディングで今を援ける「エシカル消費」
2020年の年の瀬になっても、コロナによって振り回されている現状に変化はない。12月の初旬は、いよいよ待ちに待ったワクチンが各国で承認手続きのプロセスに入った。14日からは米国を皮切りとして接種も始まり、ブルームバーグによると12月28日の時点で世界9か国で400万人余が接種済みだという。
しかし、コロナの感染者数は依然として伸び続け、世界各国で飲食店や観光業に対して営業自粛や時間短縮などの要請が政府から行われている。そのため、経済的に壊滅的な打撃を受けている事業者は数えきれないほどある。
一方で、苦境に立たされた業界を助け合おうとクラウドファンディングが活躍した1年でもある。飲食店や宿泊施設、観光業、農水産業を助けようと、コロナ以前はクラウドファンディングとは縁のなかった人々も活用するようになった。
今月初旬に、日経新聞で「#社会を動かす消費とは」というお題で記事を募集していた。コロナで苦境に陥っていた業界を助けるのは、間違いなく「社会を動かす消費」だった。このように、困窮している人々を援けたり、地球環境や社会に配慮した消費やサービスのことを「エシカル消費」と呼ぶ。2020年は、「エシカル消費」が日本全国に広まった元年とも言える。
確定的な将来の危機に備える「行動様式の事前変化」
コロナ禍は世界中の多くの人々にとって突然の出来事だった。コロナが起きた当初も、SARS や新型インフルエンザの時と同様に、一部地域でのみ影響が治まると考え、世界的に社会変革を迫られるとは想定していなかった。
しかし、リスクマネジメントの分野では、世界的なパンデミックが起きたときに現在の経済構造は脆弱であるとの指摘が以前からなされてきた。最も有名な警鐘は、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏による2015年のTEDでの講演だろう。世界銀行は世界的なインフルエンザウイルスの大流行が起きれば、世界で360兆円以上の資産が失われるだろうと試算を出していた。
歴史を見返すと、世界的な疫病大流行(アウトブレイク)はかなりの確率で起きている。直近では、第1次世界大戦期のスペイン風邪の流行があった。それ以前にも、黒死病は過去の人類史で何度も人類に死の恐怖を振りまいてきた。
同じように、自然災害だけで考えても定期的に人類へ大きな被害を及ぼす事象は多い。津波や地震、台風やハリケーン、竜巻、日照りなど、我々の祖先は何度も苦境に立たされてきた。しかし、私たちがこのような「いつかは来るが、いつくるかわからないリスク」に対して備えていることは少ない。備えの中では、保険に入ったり、建築物や設備の補強などの金銭的な備えは比較的していることが多い。だが、備えで困難なことは、私たちの行動様式を変化させることだ。
自然災害だけではなく、ビジネス環境においても、「いつかは来るが、いつくるかわからない変化」は数多くある。例えば、内燃機関の廃止と電動機への移行は代表例の1つだ。欧州諸国に続き、日本政府も内燃機関で動く乗用車の販売を2030年半ばまでに電気自動車に切り替える方針を打ち出した。しかし、電気自動車への移行という変化は数十年前から課題として認知されていた。そして、欧米中は積極的に投資をし続けてきた。
人口減少と少子高齢化という現代の日本社会が直面している課題も、来ることがわかっていた未来だ。しかし、具体的な対応策を講じることができず、苦境に立たされている企業は多い。そのような企業は、縮小する国内市場から脱却することができず、真綿で首を絞めるような事業環境で疲弊している。例えば、日本自動車工業会によると、国内の自動車登録台数は1990年の510万台をピークに緩やかな減少傾向にあり、2019年は430万台となっている。国内の自動車販売会社は30年間も厳しい事業環境に晒されている。
このような「いつかは来るが、いつくるかわからない変化」を見越して、自分たちの事業構造や行動様式を事前に変化させることがどれだけできているだろうか。電気自動車の例では、IEAの Global EV Outlook2020 は日本の対応の遅れを如実に表している。2019年の電気自動車の販売台数は700万台を突破したが、その市場のほとんどは中国・欧州・米国で占められている。日本の数値は欄外だ。充電器の数も、日本は公共用・私用共に全世界の3~4%程度であり、この値はオランダ以下である。電気自動車販売台数の圧倒的シェアを誇るテスラモーターズの充電器検索機能を使うと、より衝撃的だ。米中欧どころか、韓国・台湾と比べても日本国内にある充電器の整備が行き渡っていないことが一目瞭然だ。
結語
コロナ禍で、日本は困窮した人や事業者をお互いに助け合う互助精神が優れていることが分かった。クラウドファンディングの盛り上がりは、困窮している人々を援けたり、地球環境や社会に配慮した「エシカル消費」の可能性を感じさせた。
一方で、「いつかは来るが、いつくるかわからない変化」のために行動様式を変化させることに課題があることも明らかになっている。顕著なのは、コロナ禍にも関わらず減ることのない満員の通勤電車だ。品川駅の通勤の人だかりは世界で最も密な空間の1つだろう。他の先進諸国どころか新興国と比べても、日本のテレワークの導入率は明らかに低水準だ。そして、テレワークに対する評価も肯定的な国が多い中で日本の評価は著しく悪い。その理由は単純で、来るべきデジタル化に備えて、テレワーク導入の準備をしてこなかったためだ。
コロナ禍の教訓を生かし、私たちは「いつかは来るが、いつくるかわからない変化」に対して、現在の行動様式や事業の在り方を見直し、将来に向けた準備を怠ってはいけない。