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「社員の健康のために今後一切揚げ物を食うことは禁止です」と言われたら?

「下着の色は白」みたいなくだらない学校の校則がいまだにあるらしいですが、それを聞いてどう思います?アホじゃないの?って思いますよね、普通。

ところが世の中アホみたいな事例はあるようで…。

在宅勤務でも勤務時間は禁煙とか言い出す企業がいるようです。

百歩譲って、出社時の勤務時間中禁煙は他人への受動喫煙の防止の観点から妥当性はあると考えらます。喫煙者の方もそれなら会社にいるうちは我慢もできるでしょう。

しかし、在宅勤務中の禁煙は行き過ぎではないだろうか。

これが許されるなら、今後在宅勤務においても就業時間中は健康のためにコーヒー禁止、健康のために甘い物禁止、健康のために昼食は揚げ物禁止…とか言い出すことも可能ではないのか?とすら思う。

企業ガバナンスの名の下に、個人の権利や趣味嗜好の自由侵害、ひいては価値観や尊厳の否定にもつながる行き過ぎた就業規則はいかがなものだろうか。

撮り鉄が社会問題化しているので、社員の趣味で撮り鉄は禁止します、といわれてどう思います?というか、そんなの会社の規則で言えるはずもないのだ。

これは、育休の義務化などにも見られるが、場合によっては育児休暇を取らずに済む家庭の状況だってあるかもしれない(祖父母が面倒みるとか)。夫婦だけであっても、「うちは夫に稼いでもらって妻は育児に専念したい」という希望の夫婦だっているかもしれない。そういう個々人の事情や価値観を全く無視して、「決まりなので育休取れ」っていうのはどうなの?と思うわけですよ。

もっと拡大解釈すれば、そのうち「少子化の最大原因は婚姻の減少だ。企業で独身者には昇進させないなどの罰を与えよ」なんてことも言いだしかねない。事実、かつて、金融業など一部の業態では未婚だと管理職にさせないというルールもあった。今もあるかもしれない。

「それは飛躍しすぎだろ。タバコに関しては俺は嫌煙者なので別にいいんじゃないって思うよ」という人もいるかもしれない。

いやいや、決してそうとは断言できない。

この記事に対して疑問を呈したツイートしたところ、以下のようなリプライを頂いた。

ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった。私は共産主義者ではなかったから
社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった。 私は社会民主主義者ではなかったから
彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった 。私は労働組合員ではなかったから
そして、彼らが私を攻撃したとき 私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった


まさに、その通りで、後年になってなんでこんな酷い決まりがあるんだ?と思うようなものは、最初はわかりやすい敵に対して作られる。

今回の件でいえば喫煙という敵だ。その敵がいかに周りに迷惑をかけているかを喧伝し、それは悪なので駆逐しなければならない。だからこのルールは正しいのだという。これはナチスがやってきたやり方そのままです。

いつしか、敵の範囲がどんどん拡大され、敵にされたくないという心理ばかりが膨張し、理不尽な命令にも従わざるを得なくなる。人間の大衆化とはそうして構造付けられるし、全体主義はそこから生まれる。

さらに、このニュースをみて、ジョージ・オーウェルの「1984」のような世界を思い起こさずにはいられない。いったんルールに従順になってしまった人間のなれの果ては、そのルールを無感情に守るだけになってしまう。もはや機械と同じだ。


もちろん、社会生活を行う上でルールを守ることは必要だ。しかし、果たしてそのルールはなんのためにあるもので、本当に必要なのか?という問いは絶えず各個人が頭に置いておくことが大事だろう。


ちなみに、同じニュースを報じる日経の記事では、「就業規則でのルール化は控える」という一文が明記されてあった。

日経の記事が正しいのならそれはまだマシだったといえる。

もし、企業がこんなアホな規定を就業規則に盛り込むようなことがあれば終わりだ。社員の健康を考えるならば、そんな細かいことより、今も多くの大企業で蔓延するパワハラなどをなんとかすべきだ。

パワハラといっても暴力や暴言なんてわかりやすいことはさすがにしない。録音や録画されたら一発アウトだからね。そうじゃなくて、にこやかに笑いながらサービス残業を強要するのもパワハラだ。評価権や人事権を振りかざして従わせようとするのもパワハラだ。もっと酷いのになると、「小学生かよ」とツッコミたくなるような嫌がらせや無視の職場いじめも横行している。訴えようにも、訴えるべき一番上の上司が真っ先にそれをやってたりするもんだから、もみ消される。世に出ていないだけで、実際には相当数ある(僕は職場いじめの取材をずっとやっていますので)。

企業が取り組むべき社員の健康維持はまずそっちの方でしょう。



長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。