拠点・ファンド・VCがあればスタートアップは生まれるだろうか
東京都が25億円をかけて大規模なスタートアップの支援拠点を整備するという。
予算案の詳細を見れていなので何とも言えない部分があり、記事の最後にあるように、拠点整備だけでなく、ファンドの組成や海外VC等の誘致も盛り込まれていようだ。拠点については「24年度の本格開業を目指す」ということなので、予算額からしても新たに建物を建てるのではないのだろう。そうであったとしても、果たしてこうした施設ができることによって、「スタートアップが生まれる東京」になるのであろうか。また、官民連携ファンドの設立や海外のVCやアクセラレーターの誘致がそれを可能にするのだろうか。
まず、施設・拠点について。コロナ禍でオンラインに頼ったミーティングが続いた経験から、対面の重要性を改めて私たちは認識したが、一方で、対面でなくても済む部分があることもわかったのだと思う。むしろ、冷静に見れば、オンラインの役割がはっきりしたことの方が大きかったのではないだろうか。2019年までは、スタートアップ企業を別とすれば、オンライン会議でとお願いしても断られることが少なくなかったが、今ではあたり前に既存の企業の人たちもオンライン会議を開いてくれる。これは、相対的には、リアルな場の重要性がオンラインに浸食された、と理解できるだろう。NTTやYahooなど、東京のオフィスに出社を必要としない勤務体系・人事制度を設ける企業も相次いでいる。
こうした状況において、リアル施設を、しかも土地代・賃料の高い東京都内に整備することが、スタートアップが生まれる環境づくりにとって果たして望ましいものなのだろうか。
大都市で人が多く集まっていることは大きなメリットではあるが、一方でその分、賃料をはじめすべてのコストが高いことが、外部からの調達資金に頼るスタートアップにとっては、バーンレートを高め生存確率を下げる一因になる。これは大都市における起業のデメリットだ。これを税金で補って安くする、というのであれば、支援の予算を恒久化する必要があるだろう。
この拠点はフランスの「ステーションF」を参考に整備するという。なぜか日本人にはステーション F が大人気で、ここを見学したいというお話は後を絶たないのだが、大事なことはステーション F という施設ではなく、そこでどのようなプログラムがあり人々の活動があって、それがスタートアップの成長に繋がっているのか、ということだ。
スタートアップの代名詞のようになっているシリコンバレーには、ステーションFのような施設はないが、スタートアップが生み出され、そして世界から集まっている。他の部分ではシリコンバレーをお手本にしながら、ハコモノはステーションFがお手本ということになるのだが、これはスタートアップが生まれるためのエコシステム全体のデザインが組みあがっていない、ということではないだろうか。
そして、ステーション F は古い貨物駅を改造したものであって、新築したものではないということも、あえて付け加えておきたい。
ファンドについても、地方ならともかく、東京には日本のほとんどのVCが集中していると言っても過言ではない。CVCの設立も近年まで相次いだ。その時、官民連携ファンドは、どんな隙間を埋めることになるのだろうか。
アメリカのように、VCが大きな資金をもつわけではない日本で、スタートアップの成功のために重要になるのは、資金を含め大企業の人材・施設設備などあらゆるリソースであると思うし、そこに賭けるしかないのではないかと思っている。施設面の参考になろうとしているステーションFがあるフランスは、他国にはないスタイルのオープンイノベーションにフォーカスしたイベントVIVA Technologyを開催し、シリコンバレーとは違ったスタートアップの育成を図っており、そこでの主役は、半分はスタートアップだが、半分はLVMHやオレンジといった名だたるフランスの大企業だ。イベントにはCレベルの企業トップが時間をかけて関与しており、中には社長が一日中会場にいる、といったケースもある。
一方で、東京に本社をおく大企業は、比較的安定した経営基盤を持つ分だけ、オープンイノベーションなどスタートアップと新たな事業を取り組むことに対して必ずしも積極的ではない。また、スタートアップなど新興企業の製品やサービスを購入・利用することにも一般に消極的だ。その上、組織が大きい分、アプローチに時間がかかるという問題点がある。時間勝負で生き残りをかけているスタートアップが、大企業のゆっくりとした意思決定を待っていれば資金が尽きてしまう、というのは切実な問題である。この、時間がかかることと購入・利用をしてくれないことは、行政も同じだ。
こうした問題点を解決するために、企業に対して働きかけることに予算を使うことはできないのだろうか。また、東京都のスタートアップの製品・サービスの購買・利用について、金額目標はないのだろうか。
日本でスタートアップが育たないと言われる背景には、施設や資金がないという理由以上に、ソフト面での課題、もっと言えば人々の意識の問題が大きく障害となっているように感じている。また、日本なりの事情を踏まえたスタートアップの成長シナリオが描けていないことも、海外の成功事例の断片的な現象面だけを取り入れることにつながっている。
政治家の皆様には、こうした問題に正面から向き合って頂き、安易なハコモノ整備等に逃げずに、足りないソフト面の問題・意識の問題に向き合って頂きたいと思うし、また選挙民として、私たちはそうした政治家を応援できる有権者でありたいと思う。
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