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「株価上昇は、投資利益以外で私たちに恩恵はあるの?」と聞かれたので、こう答えてみました。

  国内の株式市場は、引き続き活況が続いています。中国の不動産バブルへの警戒、アメリカのインフレ傾向など、日本と経済的に密接な国々で株価の重しになるような出来事が起きています。しかし、日経平均は3万円前後の推移と強い動きです。そして、下記の記事にもあるように、新しい首相が誕生することで、新しい株価への懸念は浮上しています。株価に強気な投資家はまだまだ多いようです。

 こうした株価上昇の環境が続くと、よく聞かれるのが、

『株価が上がっても投資をしている人にしか好影響はないんですよね?広く多くの人にも好影響はあるんですか?』

 という質問です。株高政策を進めることは、投資家以外にも好影響はあるのかについては、学術研究でも研究が行われています。今回紹介したいのは、株高と雇用の関係についの研究です。

株高政策と雇用創出の関係

 全ての人の関心事として雇用環境があります。下記の論文では、日本銀行による株式ETF購入と株高の因果関係分析と、それによる企業や雇用創出の影響を検証しています。たしかに、日銀による株式ETF買いは株高に繋がっているようです。そして、株高によって、上場企業が株式による資金調達が行いやすくなり、一部の企業では設備投資の増加に寄与しているようです。しかし、企業が雇用を増やすところにまでは至っていないことが記されています。株高は、上場企業のような大きな企業の意思決定には影響はしているものの、直接的な雇用増の後押しはまだのようです。

Ben Charoenwong, Randall Morck, Yupana Wiwattanakantang, "Bank of Japan Equity Purchases: The Final Frontier in Extreme Quantitative Easing" NBER Working Paper No. 25525 Issued in February 2019, Revised in April 2020


株高とベンチャースピリット

 しかし、既に上場しているような大きな企業だけでなく、株高はベンチャー企業のマインドにも影響しているようです。というのも、足元の新規上場件数(IPO)は増加しているのです!2019年は100社無かった上場件数が、コロナ禍の2020年は100件を超えています!

 コロナによる感染拡大が広がった2020年以降、業績悪化した企業が増えました。しかし、国による財政や金融政策もあって株価は反比例するかのように上昇をしてました。株高がベンチャー企業の資金調達や上場に影響することが、先行研究からも指摘されています。つまり、株高は既存の上場企業だけでなく、ベンチャー企業の資金調達などの意思決定には影響を及ぼしたと考えらます。

 しかし、ここにも課題があります。下記のレポートにある通り、日本の上場企業はアメリカに比べて、小規模の成長にとどまる傾向があります。また、先行研究では、アメリカやイギリスのベンチャー企業に比べると、日本のベンチャー企業による雇用の創出能力は低いと指摘する物も存在します。


以上より、株高というのは、上場企業やベンチャー企業の意思決定に影響を及ぼしてはいるものの、雇用の増加にはあと一歩のようです。特にベンチャー企業が上場しても小規模にとどまり、雇用創出能力に乏しくなるのは、海外進出の壁となる、制度やステークホルダーの存在もあるのかもしれません(研究テーマとして指摘するものも存在)。なぜ、そういう傾向になるのかは、個人的には研究テーマとしても関心があるので、進捗次第で発表していきたいと考えています。


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崔真淑(さいますみ)

(*画像は、崔真淑著『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』(大和書房)のイラストです。無断転載はお控えくださいね♪)


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