選ばれる会社にならないと「30代社員」は流出してしまう
日経新聞の記事で、「30代社員が足りない」というテーマで記事が公開されている。日本企業における30代社員の不足は、単なる人数の問題ではなく、企業が抱えるキャリア形成や人材管理の課題を浮き彫りにしている。この世代は、体力と経験のバランスが取れ、リーダーシップを発揮し始める重要な戦力である。それにもかかわらず、多くの企業がこの層の流出に苦しんでいる背景には、キャリアの透明性や成長機会の不足、そして生産性と賃金のバランスの変化がある。
賃金と生産性のバランスが崩れるタイミング
30代はキャリアにおいて「脂が乗る」時期とされるが、賃金と生産性のバランスが徐々に崩れ始める時期でもある。日本の多くの企業では、管理職に昇進しない限り賃金が伸び悩み、加えて現場での業務もルーチン化し、新たな学びが減少しやすい。その結果、現状維持では生産性を向上させる余地が少なくなる。こうした環境が、30代社員にとって「このままで良いのか」という閉塞感をもたらし、社内キャリアへの不安を抱かせている。
キャリアの透明性と労働市場の流動性
管理職を志向する30代社員が昇進の見込みを持てない場合、昇進基準の不透明さが転職を加速させる一因となる。一方で、管理職を目指さない社員にとっても、自身の専門性がより評価される職場を探す動機となる。欧米では、ジョブホッピングがキャリア形成の一般的な手段とされる中、日本においても転職市場の流動性が高まり、同様の傾向が見られるようになった。専門性を磨き、転職で価値を高める選択肢が、社員にとって魅力的になっているのだ。
社内での成長機会を提供する重要性
安定した成果を出す30代社員は、どの企業でも引く手あまたである。しかし、これを維持するだけでは、社員自身の市場価値が停滞し、結果的に流出のリスクを高める。企業が30代社員を引き留めるためには、キャリアの透明性を確保し、成長機会を提供し続けることが重要である。例えば、専門スキルの習得やプロジェクトマネジメントなどの経験を積ませることで、社員が社内にいることのメリットを実感できる仕組みを作る必要がある。
キャリアの流動性を前提とした新たな取り組み
転職が当たり前の選択肢となる中で、企業はアラムナイ(退職者)の活用を検討するべきである。退職後も再雇用やプロジェクト単位での協力を可能にすることで、企業と社員のつながりを保ち続ける。米国では転職者を積極的に受け入れ、再び採用することが一般的であり、これが労働市場の活性化と企業の競争力強化につながっている。
まとめ
30代社員不足は、単なる「人数」の問題にとどまらず、企業が従業員のキャリア形成をどのように支援し、未来への可能性を示すかを問う課題である。人手不足が深刻化する中、社員に選ばれる企業となるためには、従業員の市場価値を高める職務経験を与え続けることが求められる。転職やキャリアアップが前提となる時代において、企業と個人が双方にとって利益を共有できる新たな関係を築くことが、未来の組織を支える鍵となるだろう。