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中国で民間企業が報道事業禁止になる件の中国での解釈はちょっと違うかも

最近日本の中国の報道やSNSでは中国の民間企業による報道事業禁止についての投稿や議論が多いですね。

これについて「やっぱり中国...」「もはや政府の広報がメディアの役割に」「新たな恐ろしい時代の到来」などとコメントしている人がたくさんいて日本での報道スタンスも含め正直びっくりしています。

でもこれって本当にそうでしょうか?ボクのフォローしている中華系SNSたちでも少しだけ議論が展開されていました。そこでは主に以下の4つの意見に分類することができます。

・規制がますます厳しくなって言論の自由がない国はキツいよ
・国がアクセス数のためだけのフェイクニュースメーカー対応をようやくしてくれるよ
・不明了の部分が多いからもう少し解釈が必要では?
・今までとそんなに変わらないのに何を騒いでいるの?

日本や欧米のメディアやTwitterとかで多く見かける1番目についての意見も多少はありますが、それ以外の声が多いです。

中国語では「兼听则明,偏信则暗」という言い方があります。訳は「多くの意見を聞けば是非がはっきりするが、一方のみを信じると判断を誤る」です。ということで、今日もあまり日本で報道されてない部分についてを中心に書きたいと思います。

■今回の統制について理解するには前提知識不可欠です

↓今回発表されたものはこちら。6つの項目が示されました。

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公表された文書の内容について説明と同時に、ここに登場しているいくつかの言い方の定義と今までの政策についてを説明します。この知識がないと、報道の内容も中国での議論についても理解できないと思いますので。

・非公有資本について
日本の記事では、民間企業、民間資本、民間、非国有資本などと訳すところが多いでしょう。実はこれは中国語の固有名詞で「私有、集団所有、混合所有などの資本種類」を指します。個人私有の場合もその経営主体のことを指し、個人のことではないです。今回の発表での禁止についても「個人」は対象になりません。

・新聞採編播発業務について
報道に関する業務、記者やカメラマンが行ったジャーナリズム活動とそれに基づいて記事やニュース報道を作ることと、作った内容を掲載・放送すること。これは昔から民間資本や外資には許されていない分野です。

わかりやすく例を出すと、バイトダンスのニュースサービス「頭条」やテンセントニュースのような転載とまとめ的機能のプラットフォームと報道各社とは本質的に区別されているということです。大手IT各社のニュースアプリで読んだ報道記事は結局古来の国有既存メディアが作ったものです。

・新资讯について
公表されたものの対象は「新闻」。中国メディアには「新闻」「资讯」は区別がありますが日本語に訳すとどちらも「情報」かな。政府が注目している「新聞」はハードニュース、時事政治や経済、社会民生に関わる大きな出来事になります。

一方、政府的にほとんど「自由にやれば」状態となっている「资讯」は、簡単に言うと上記の「ハードニュース」以外の情報のこと。企業のプレスリリース、文化、娯楽など今回の「案」の対象外で、それは今まで通りでしょう。日本の報道やSNSではここがほぼ混同されているように感じるんですが。。

・今までの管理体制
いわゆる既存メディアはみんな国有になります。大昔の「事業単位」という非営利的組織から企業化しての管理体制への転身は2002年から着実に進んでいます。今ではメディア企業が上場することが可能になりましたが、企業のコントロール権も国有のままだし、報道事業と剥離した状況が基本です。

また、インターネット時代になってもネットでのメディア機関管理は相変わらず許可制となります。メディアに関わる有名な規定は2つあり「互联网新闻信息服务管理规定(インターネット報道情報サービス管理規定)」と「网络视听服务许可证制度(ネット視聴許可証制度)」です。

このどちらにも「報道機関は国有とすべき」と強調されています。また、いくつかの表現が今後のメディア環境の変化にも配慮してある(政府にある程度の規制の自由度が考えられている)曖昧な表現があります。解釈によっては既存の企業でも引っかかる可能性がある、いわゆるグレーゾーンです。ここは、やらかししなければ大目に見てもらえる⁉︎という解釈が多そうな西洋の考え方から見ればおかしい中国スタイルだと思います。

例をあげると、「ネット視聴許可証」がなければ厳密には中国での動画、音声、ライブ中継のコンテンツを提供することには違法になると解釈できます。そしてこのライセンスを申し込むには、51%の資本が国有であること、つまり国がコントロール権を持つことを意味します。さらに、この規定の対象はいわゆるメディアだけではなく、厳密には販売促進中継や、オンライン授業も含まれてます。なので、こういう点からも今回話題になった「意見」が報道だけに制限されているのは実に優しい。

■今回の統制内容の詳細の解釈

上記の理解があれば、今回の件に関しての理解が少し深まったのではないでしょうか。ここからは気になった内容と各項目について。

まずは日本の多くのメディア報道では書いてない「重申」の一言。これは「再び申す」ということで、今までのことをもう一回強調することとなります。今までと変わらないのは規定そのもの、だが中国政府の行動パターンからすれば、最近良くないことが多いからこれからしばらくこの規定を強めに執行すると受け取ることができるでしょう。

ではそれぞれの項目はどうなるでしょう。

1つ目の「非公有資本が『新聞採編播発業務』をしちゃいけない」
→はい、今まで通り。

2つ目の「非公有資本が通信社、新聞出版社、テレビ局、『インターネット新聞採編播機構』の報道機関の投資設立と経営をしちゃいけない」
→ほぼ今まで通りですが、『』内の内容は細かい解釈によって、今までグレーゾーンだった一部のところが妙に引っかかるかもしれませんので、ネットでは「もう少し解釈が必要」という声がありました。

例えば、以前は「フィンテックメディア」と自称していた36krは、自分自身のことをメディアだと言わなくなりました。今は「资讯とサービスプラットフォーム」と自称してます。

3番目の「非公有資本が『新聞機構の紙面、チャンネル、公衆アカウントなど』の経営をしちゃいけない」
→どちらから言うと、一部の報道機関の不作為を規制する内容にしか見えないです。既存メディアはニューメディアの波に追いていかれているところもいっぱいあります。規模の小さいローカル新聞や雑誌、テレビ局などが持っているニューメディア資源。それをうまく活用できないから民間資本にレンタルして稼ぐといった行為への警告でしょう。

4番目の「非公有資本が政治、経済、軍事、外交などの事件やイベントの中継をしちゃいけない」
→娯楽や社会系の内容とは一線を画します。例えば、ユニバーサル北京に遊びに行って勝手にライブしてもいいですが、衛星の打ち上げ現場を勝手にライブにしちゃいけない、といったもの。でもどこまで適用されるのかちょっと不明瞭なので、より詳しい解説が欲しいところです。

5番目の「非公有資本が『海外メディアの報道』を輸入しちゃいけない」
→非報道機関が他のルートで何だかんだ自分のことを報道機関だと思わせるようならないようにするため。無断の場合は権利侵害になる。

もちろん非公有資本という前提だから、個人が簡単に「日本のメディアがxxのことについてこう報道しました」と呟いても全然問題ない。

6番目の「非公有資本が報道や世論分野のサミットや勝手な表彰を行わないこと」
→非報道機関がお金の力で報道機関だと思わせることの防止でしょう。

これは有名な皮肉話があります。脱税芸能人のファンビンビンが、「国家精神育成賞」に選ばれたことでネットユーザーが唖然とした事件です。

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結局、海外資本と民間資本による賞で十数年も続けたらしいです。実際こういう賞を見たときに、ほとんどの人はどんな組織で裏側ではどこが発表してるかなんてそんなに調べないですよね。

■中国ネット民のさまざまな意見

ここからは中国ネット民たちの多様な意見について。この統制について賛同する人たちもたくさんいます。

中国に限った話ではないと思いますが、ニュースや記事ではアクセス目的で大げさなタイトルをつけたり、全く捏造の情報を流したりする人が非常に多いのが現状です。中国の場合はインターネット人口が日本より遥かに多く、サービスも日本よりも発達しているのでビジネスチャンス的には10倍以上違うかもしれません。たとえ嘘だらけでも見られなきゃってモチベーションがより高いように思います。

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↑最近も、前日に作ったものを次の日食べると危険って煽った記事が話題に。大事なのは作ってからどのくらい経過したかであろうに、とこの記事のいい加減さへの非難が殺到。

また、メディアが資本にコントロールされちゃいけないよね、とみんなが実感したことも度々あります。

例えば最近印象的なのは「蒋凡」さんというタオバオの総裁レベルの人が不倫していた件。この不倫相手が有名なインフルエンサーで彼女にタオバオ出店や店舗経営に関わる便宜を提供したことを妻にSNSで暴露されました。

相当えらい人と相当有名なインフルエンサーだったので一気にトレンド一位になりました。しかしWeiboにはアリババの資本が入っている。この件の話題が素早く撤去され、アリババ系じゃないSNSでは相変わらずトレンドの上位、という状態が起こりました。このような資本と権力による私用はよろしくないと感じる人が多いです。

そして、今回「いいね」と期待している人たちと「表現の自由がなくなる」と主張する人たちに共通するのは内容をちゃんと解読していないとの意見もあります。

細かく解釈すると、今回の統制の公表は彼らの期待外れになる可能性もかなりあります。ただ、過去にフェイク情報で惑わされたり、資本による理不尽を今までにたくさん経験してきた中国のネットユーザーだからこそ、いいねと思う人が現れるのは理解できますね。

結局、何が変わるか、何が変わらないのか。思うに、中国は国も広く人口も多く人々のリテラシーも格差がすごいため、全て自由となるとデマが溢れSNSで間違いの拡散が多発するでしょう。誰でも自由にという理想は日本人的には良いと思う反面、全く統制しないというのも恐ろしいなと感じています。

ちなみに、アリババはちょっと前に湖南テレビ傘下のマンゴグループの株を売りけっこうな損失でした。上層部からの情報があるからでしょうか気になります。こちらも何か追加情報があったらシェアしたいと思います。


(参考資料)

http://www.zhihu.com/question/491288304


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