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EUが直面する第三の危機~債務・難民・疫病~

内輪揉め、再び
新型コロナウィルス対応を巡り、欧州がいつもの内輪揉めモードに入っています。

コロナ対策のために各国は多額の財政支出が必要なっています。ドイツのように潤沢な原資がある国は良いですが、一番問題になっているイタリアを筆頭として財政基盤がぜい弱な国が少なくありません。そこではEU(言い換えれば加盟国全体)で支えて行く姿勢が求められます。しかし、こうした財政支援を巡って域内不和が生じるのはEUの悪い意味での「お家芸」のようなものであり、我々は欧州債務危機(09~13年)に嫌というほどこれを目にしました。今次危機に対してはESM(欧州安定メカニズム)の利用や、短中期国債の無制限買い入れを可能にするOMT(Outright Monetary Transaction)の稼動、EU共通債の発行など多様な論点が飛び交っています。なお、3月26日にはECBが突然、総額7500億ユーロのパンデミック緊急購入プログラム(PEPP: Pandemic Emergency Purchase Programme)について「issue or issuer limit」と呼ばれる33%ルールの撤廃を発表しました。これで実質的には無制限の国債購入が可能になります。これほど重要な争点が政策理事会ではなく、しかも会見もなく、突然発表されたことはサプライズです。

次は政治の出番
ちなみにESMやEU共通債といった論点はEU首脳会議を頂点とする「政治」の管轄である一方、OMTはECBすなわち「中央銀行」の管轄であり、意思決定主体が異なります。しかし、OMTはESMの支援対象国であることが利用条件となるためESM利用がOMTの必要条件です。ECBの政策ツールでありながらECBの判断だけでは活用に至らないという部分にややこしさがあります。なお、OMTはドラギ前ECB総裁の有名な台詞「ユーロを守るためならばECBは何でもやる用意がある」の結果として出てきた政策であり、債務危機に終止符を打ったと言われる政策です。詳細は省きますが、上述したように、「短・中期国債の無制限買い入れ」が謳い文句です。とはいえ、使用実績がないことから「抜かず宝刀」とも呼ばれてきました。抜刀された結果、本当に使えるのかは謎です。

いずれにせよ独立性が担保されているECBと違って、政治の意思決定は非常に遅いのが欧州の常です。

ESMは欧州債務危機の申し子
現在、最も注目されているのはESMの活用です。ESMは欧州債務危機を契機に設立された総額5000億ユーロ(現在の能力は4100億ユーロ)の恒久的な救済基金です。ここに支援を要請すると、引き換えに財政再建や構造改革といった「宿題」(いわゆるコンディショナリティ)をこなすことが求められます。言い換えれば、被支援国の財政運営はEUの監視下に置かれることになります。しかし、こうした条件だと利用が難しいので「無条件で使わせて欲しい」というのがイタリアからの要望なのですが、EU首脳会議を経た本稿執筆時点でも合意に至っていません。

ESMは「欧州債務危機の申し子」であり、被支援国の財政運営を教育・指導するという思想が根底にあります。しかし、今やドイツですら今財政運営の柔軟化を容認するほどの緊急事態であり、欧州委員会からも財政運営に関して例外条項を容認する方針が示されています。こうした状況下、ESMを利用すると緊縮を含む「宿題」を求められるというのは明らかに矛盾するのですが、「ESMを使うなら話は別」というのがドイツ、オランダ、オーストリアなどの健全国のスタンスと見られます。まさに2009~13年に散々目にした「いつか来た道」です。恐らく最終的には容認姿勢に変わるのでしょうが、この初動の遅れがまさに欧州債務危機の再来を見ているような気持ちさせられます。

健全国の気持ちも分かる
とはいえ、健全国の言い分も分かります。上述したように、既にECBが7500億ユーロ規模のPEPPを展開する中で33%ルールの撤廃に踏み切っています。PEPPは7500億ユーロという枠が設定され、期限も2020年末までとされているものの、正確には「政策理事会が新型コロナウィルスの危機局面が収束した判断すれば、年末前に終了する」というコミットメントで走っています。裏を返せば新型コロナウィルス終息なかりせば、無制限に続く可能性も秘めています。事実、一連のECBの政策決定を受けて域内金利は明らかにピークアウトしており、これ以上、刺激策のアクセルを踏み込む必要はないように見えます。

そもそもOMTという(抜かずの)宝刀があるにもかかわらず、わざわざPEPPを別に作ったのはOMTを使うにはESMを利用して財政監視を受けなければならないという障害があったからではないかと推測されます。現状、金融市場はESM&OMTの利用まで期待しているわけではないので、わざわざ自分から差し出す必要は感じられません。未知の危機です。これから何が起きるか分からないのだから、「カードを温存しておく」という発想も大事にしたいものです

「第三の危機」で思い返す非戦の誓い
これまでEUは沢山の危機を経験してきました。今直面している疫病危機は債務危機、難民危機に続く第三の危機と言って差し支えないでしょう。しかし、多くのEU市民の生命がかかっている今回ほど、統合の真価が問われる危機は過去にはなかったはずです。EUは非戦の誓いから生まれたプロジェクトです。債務危機では財政の出し渋りで揉め、難民危機では流入してくる移民・難民の押し付け合いで揉めました。今回の疫病危機では医療物資の囲い込みを巡って内輪揉めを起こし、これを中国につけ込まれているという見方すら出ています。上で見たように、財政支援を巡る恒例の内輪揉めも健在だ。これではポストコロナの時代を迎えた時に、今よりもさらに反EUの機運が高まるようなことはないでしょうか。第二の離脱国を出さないためにも、加盟国間で禍根を残さない政策対応が今、求められているでしょう。

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04年慶大経卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会(EU本部)などを経て08年10月より現職。著書に『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』。所属学会:日本EU学会。※コメントは個人的見解であり所属組織とは無関係です

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