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プロダクト開発論:アートとサイエンスとエンジニアリング

プロダクト開発は全てのブランドやメーカーにとって最重要テーマの一つです。なぜプロダクト開発が大事なのかというそもそも論や、どんな考え方や仕組みで行っているかを考えてみたいと思います。 正解提示的なものではななく、これまでの試行錯誤の結果として考えた事をまとめます。

 良いプロダクトは営業を無くす!?

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全ての会社にとって営業活動はすごく大事であると思います。 元々前職でコンサルティングを生業としておりました。目に見えないコンサルティングというサービスに対して値付けが決まっていました。

 コンサルにおいても営業行為はとても大事で、お客さんの課題をヒアリングしながら提案して、年間数千万とか時には一億二億という案件を営業行為により受注します。営業行為自体は私自身も好きなんですけど、だからこそMinimalを始めて一番実感したことは、プロダクトが素晴らしいという前提があると、プロダクトブランディングとブランドマーケティングがきちんとできれば、営業行為って省力化できることがたくさんあることです。

 極論、営業行為がいらなくなる可能性もゼロではないのです。 

 例えば私がプロダクトの魅力を滔々と語らなくても、Minimalのチョコレートを食べてもらったらおいしいと思ってもらえて、ファンになってもらえる人はたくさんいるのかもしれない。 

 プロダクトを研ぎ澄ましていくことによって、もしかしたら営業行為がなくなるかもしれない。 厳密に言うと、売るという狭い限定的な行為だけに限り無くなっていくと言う可能性です。

 企業において広義の意味での営業行為ってすごく大事なことでなくなることはないですが、このプロダクトがお客様に与える価値というものを極大化できれば、企業のやるべき事のリソースの多くをプロダクト開発に投下できるようになります。

 そこに投下することができれば、プロダクトを買うお客様からしたらお客様が享受できる価値を最大化できるはずです。 それは企業にもお客様にもwin-winになりあます。

私はプロダクトにこだわるというのはとても大切なことだと思っています。これが大前提の考え方です。 

あるあるなプロダクト開発の話

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プロダクトを開発する人は研究者だったり 職人だったりします。Minimalでいうと職人にあたりますが、職人だからマーケットや売上をあまり気にしないというのは私は絶対にだめだと思っていて、いいものを作るというのは誰にとっていいものかというのはすごく大事です。

お客さんと商売している以上、お客さんにとっていいものをと考えると、売上というのはお客さんからの共感の総量になるわけです。

売上が上がっていないということは、お客様にとっていい商品じゃなかったという事なので、そこのProduct Market Fitというか、きちんとお客様に受けるものを作るということから逃げたら絶対にダメなはずです。

それがないのに「いいもの」を作るために職人が時間やコストを投資しているんだとかは、ただの自己満足です。それだけは私は避けたいと思っているため、お客様が不在で「時間をかけていいものを作っている」と自分たちで言っているのはそれは職人の驕りです。と伝えています。

一方でマーケティングチームとか販促チームに言うのは「良い企画をしてバズりました」みたいなものだけで自分たちがいいものを作っていると考えるのも仮にプロダクト開発をおろそかにして一時の企画だけならまた驕りです。

いいものを作っていい企画にして、お客さんに届いて売上になって「いいものだ」と言われて初めていいものになるわけです。そこを間違えちゃいけないよというのは会社の中でも徹底しています。

■良くありがちな話例
美談だけを挙げて自分達すごいんです、と言うプロダクト開発にだけはなっていけません。よくあるのが、例えば職人側でいうと、自分達はとても良いと思って労力をかけてつくったプロダクトがあるとします。しかし、それがお客さんが全然欲しいものでなかったり、別に「おいしくない」と思っているものだったら、それにどけだけ労力をかけようが関係ないんです。仮にものすごく短時間で作っても、それがめちゃくちゃ美味しければそちらの方が正義となります。

他の例を挙げると、産地まで行ってエシカルでフェアトレードでやってますという話って、あんまり僕らは最近まで言ってなかったんですよ。それで買ってもらうのが、あるお客さんにとっては良いことというのはあるので悪いことではないです。しかし、よくよく考えるとチョコは食べ物なので、めちゃくちゃエシカルでも、おいしくなければそれは売れないわけですよね。お客さんもエシカルだけどあまり美味しくないものに我慢してお金を払うとなったら、それは本末転倒な気がするんです。

だからプロダクト開発は職人として開発技術にもマーケットにも両方向き合うことが大事なんです。

ニーズの奧にあるインサイトを知る事が大事

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プロダクト開発の起点がマーケットのニーズか開発者のエゴかという議論は永遠のテーマであると思います。

 それはどちらも大切であるというのが僕の結論ですし、どっちが欠けてもだめであると思います。 その中で考えて知ろうとしないといけない事は、マーケットニーズであり、もっといえばその奥にあるインサイトです。

インサイトには解釈がいくつかあるようですが、ここでは「人を動かす本人も気づいていないような隠れた心理」と考えます。

インサイト事例:大戸屋 
 よく言われる事例ですが、大戸屋の店舗は2階以上か地下の立地を選ぶ出店戦略の事例。一般的に路面店や商業施設内の飲食集積フロアーなど集客が高い立地からすると2階や地下は2等立地です。しかし、そこには「一人で外食したいけど、一人で店舗にはいることを見られたくない」という心理があったと言う話です。一人で外食をしたいと言うニーズの奥底にある、「でも一人で店舗に入るところを見られたくない」というインサイトをついた出店戦略の好例です。

 このインサイトに根差した商品開発と、その検証を含めたマーケティングはプロダクト開発とセットでなくてはならない要素です。

 プロダクト開発はアート✕サイエンス

プロダクトの開発にはアート側面サイエンス側面の二面があると考えています。実はどちらもだけでも成り立つし、かけ算でも成り立ちます

 アート側面は開発者が元来持っているモノや積み上げた経験から来るセンスや閃きに近い部分があります。

 サイエンス側面は開発者が学んできた科学的根拠やそこからくる再現性となります。 

 Minimalはかけ算を志向しており、そのための試行錯誤を繰り返しています。 

アート側面はたくさん打席に立たせる事

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アート側面は正直開発者自身に依存する部分が大きいと思っています。究極はその人のセンスや閃きのみで世界で戦えるプロダクトをつくる事ができる人もいます。ただ、そんな人の割合は全体の1%以下だと思っており、組織内部にこのアート側面を内包させるかがポイントです。 

 そのための手法論は至ってシンプルで、まずは採用による才能の獲得です。

常に目を光らせて才能がある人を探すときに大事な事は、すでに世の中に出ている才能というよりは才能のポテンシャルを見極めたり、ポテンシャルのある人が来てくれる魅力的な組織を作っておくことです。 

 すでに世に出ている才能は高コストになりがちで、かつ組織にとどまる可能性が相対的に低いこともあるため、個人的には才能の原石を採用することをおすすめします。 

 次に才能を磨き上げる育成です。

育成に関しては、何かを教えるということも大事ですが、新規開発の打席にたくさん立たせることが重要だと学びました。

Minimalでは才能の育成の側面も含めて、商品開発チームにシェフをおかず新規商品ごとに開発担当をおきます。

新規商品開発に年間30~40を超えるので、一人当たり複数の新商品を開発して、実際に市場投入まで経験します。

実際の売れた実績はもちろん、商品開発段階から市場調査なども行うので頭と手を動かした経験を高回転で回数をこなし行きます。 

 やはり、才能を磨いていくには実践に優るものはないと思います。

単に打席に立つのでなく、開発前後の調査企画~開発~市場投入~評価までの一連で経験すること、そして打席にたくさん立つこと、最後に立ち続ける事が大事であると思います。 

サイエンス側面はコアをつくり磨く事

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Minimal工房の職人チームがある年に開発したレシピを数えてみると年間3119のレシピを造っていました。 

 まず年間3119のレシピというのがどのようなものかというと、Minimalは当然豆からチョコレートを作りますので、豆からチョコレートを作るときのレシピです。

 焙煎の温度は何度で、何%くらいの濃度にして、副材料の砂糖、その他の副材料をどういうものにするかを決めます。さらにその豆の砕き方をどのくらいの程度にして、どんな機械を使ってやるのか、どんな工程だったら最終的に味が調うのか、みたいなことを決めていく一連の流れをレシピと呼んでいます。 

 この3119は残っているレシピを数えただけなので、もしかしたらもっとやっているかもしれないんです。

なぜそんなに変わるのかというと、基本的にセオリーがあるわけではないんです。洋菓子屋さんやお菓子屋さんは、基本的に一回レシピを決めてしまうとそのレシピをひたすら大量に作るっていう効率生産の考え方で作ることが一般的です。

その方が絶対効率はいいんですけど、本来カカオ豆という素材が一期一会の農作物であり、豆ごとに味が変わります。

仮に同じ農園から来ても、麻袋ごとで味が変わったりするんですね。 農作物なので、全く同じ木から取っても、たまたまめちゃくちゃ雨が降るときと雨が降らないときで違ったりします。カカオの品種や、土壌のテロワールと、農法や発酵のやり方によっても全然味が変わます。本当の意味でいうと同じものがない。 

20世紀は大量生産で同じような味、同じ品質のクオリティの高い商品をより安く大量に作るということが価値だとすると、素材の個性はフォーカスは当たらない時代でした。

そのため、世界的に見てもカカオ豆の個性に注目してチョコレートを造る技術はまだまだ発展途上であります。

だからこそ、カカオ豆からチョコレートを製造する技術を自社内で徹底的に磨くことをコア技術としました。 

 そして、そのコア技術を徹底的に繰り返す中で、なぜその味が開発されているのかを科学的な根拠に落とし込みながら、再現性を高めていくことがMinimalにおけるプロダクト開発におけるサイエンスの面になります。

 なぜ3119ものレシピをつくったのか?
品質のよいものを安く大量に作るという20世紀から、21世紀はもっとフラジールなものというか、自然回帰していくと考えています。本来的には世の中に本当は同じものなんで無いはず。人間も双子で生まれたとしても、全然違う個性を持つわけで。 個性豊かな生態系の中に僕たちは育っていて、同じものなんて無いっていうものに対して、多分人類は効率を求めて同じものを大量に作ってきたんだと思いますが、21世紀の消費の仕方は、おそらく個人の個性とかダイバーシティみたいなものを尊重した消費に代わっていくと思います。 それぞれ違うものだよっていうことは、私は食品にも当てはまるような気がしていまして。だからサイエンス側面としてカカオ豆の個性を生かしたチョコレートに科学的根拠と再現性を持たせることをコア技術と定義しました。上述したように厳密に言うと、カカオ豆は一個一個の豆で味が違います。その豆の個性に合わせて個性を表現でき、それをある程度再現できるチョコレート技術は確実に差別化できると考え、徹底的にそのコアを磨き上げるプロセスが結果として3119のレシピを開発することにつながりました。

プロダクト開発においてエンジニアリング思考

プロダクト開発論の概念図

マーケットニーズの裏にあるインサイト、開発者のアートサイエンスを行き来して実際にプロダクトを開発していく工程を私はエンジニアリングと呼んでいます。 

 Minimalのプロダクト開発者はチョコレートエンジニアと呼ばれており、そのチーム長はエンジニアリングディレクターという肩書を持っています。 

 私がこの接続をエンジニアリングと呼んでいることはエドワード V.クリックさんという方が書いた「エンジニアリング入門 : 創造的問題解決の技術」という名著が読んだゆえにだ。この本に書いてあったことが私のプロダクト開発の考え方にとても影響を与えています。 

(以下はうる覚えの内容であったため、ネットのブログから引用しました) エンジニアの主たる仕事は、何が望まれているかに関する漠然とした表明を、その望まれている目的が満足に果たせるような手段に関する詳しい明細書に変換することである。明確にされた目的を達成する方法は、殆ど例外なく、数多く存在する。そして、殆どの場合、プロジェクトの開始時点で、エンジニアは、これらの方法について何も知らない。多くの可能性について、その覆いを取り去って探求していくことがエンジニアの義務となる。エンジニアが、教育や経験を通じて得た知識は重要である。しかし、知識は問題を解決する際の唯一の拠りどころではない。というのは同時に自分に備わっている創意工夫の才能を使わねばならない。多くの解決策を考え出すために必要となる創造力と代替案の評価に使われる判断力とは、一般に考えられている以上にエンジニアリングの実務がアートであることを物語っている
 ※引用先はこちら

上記のエンジニアリングという行為の定義はとても腑に落ちたところがあり、それを私なりに解釈すると、プロダクト開発においては、マーケットのインサイト、開発者の感性と科学的根拠(アートとサイエンス)を行き来しながら、開発を行う行為をエンジニアリングと呼んでいます。 

 マーケットでPMFまでの改善を高速で回す

ステップ4豆の摩砕・調合(1)

プロダクトのプロトタイプ開発がおわったら、なるべく早くマーケットに投入してプロダクトがマーケットニーズに合致するかを確かめていくことが重要です。

 そして、プロダクトマーケットフィット(PMF)を達成するまで顧客のフィードバックをもらいながら高速で改善を回します。 

 ここは、多くのプロダクト開発において語られていることなので、詳しく書くことは今回はしませんが、大事なことは、プロダクト開発に終わりはないという認識かもしれません。

 仮にPMFを達成したとしても、そこでプロダクトが完璧になったわけではありません。

PMFとはマーケットニーズに合致したということにすぎず、そのプロダクトがGoodである証明であっても、必ずしもExcellentであるという事のイコールではありませんし、マーケットニーズは変化進化していきますし、競合から類似プロダクトがたくさん出てきます。 

 そのために、PMF後に高速で改善を繰り返していかなければなりませんし、プロダクト開発に終わりはなく、その拡張性を楽しむという観点が大事だと思います。

プロダクト開発とはプロダクトそのものとマーケットニーズの解像度を上げていくプロセス

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プロダクト開発の起点がどこにあっても、マーケットニーズの裏にあるインサイトと、開発のアート側面✕サイエンス側面の全てひっくるめてエンジニアリングしていく事が大事です。

そのどれかを欠いて市場に受け入れられる商品を作れないと思います。

プロダクト開発とは、プロダクトそのものやそれを取り巻くマーケットニーズに対して網の目を細かく持ち自分たちの中で一つ一つを理解していく=解像度を上げていくということなのだと思います。

恐らく私はBean to Barチョコレートを造るというプロダクト開発を高サイクルで回すことで、カカオ豆自体、そこからチョコレートを造る技術、そしてチョコレートを問い巻く市場に対して解像度を高めているのだと思います。

さらにブランドや組織視点で大事な事は、ヒット商品を継続させていくことと、ヒット商品を出し続ける事、そのためにブランド内部にプロダクト開発論を落とし込んで、そのサイクルが回っていく仕組みを作っていくことが大事です。

その仕組みが機能して、組織的に学習サイクルが回ってくると、ブランドやプロダクト・サービスの永続性が担保され始めるのだと思います。

プロダクト開発は10年先を見てフィードバックする

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最後にとても重要な事だけど、プロダクト開発の文脈では割と置き去りにされてしまている事に触れます。

それはプロダクト開発という機会は次のプロダクトの技術的なフィードバックをもらえる場であると言うことです。

プロダクト開発から磨いた要素技術は、10年先に競争優位性を担保するコア技術になり得るという可能性を常に意識しておくことが大事です。

実はMinimalでも、今のコア技術や周辺技術を使ったプロダクト開発を通して10年先を見た技術研究が進んでいます。詳細は書きませんが、その技術がきちんと実装されていけばプロダクト開発力がさらに高まり、次のプロダクトでの競争優位性がきづかれるという好循環が回っていきます。

プロダクト開発は、点で捉えるとそのプロダクト自体のPMFとマーケット競争に終始しがちですが、面で捉えるとすべてのプロダクト開発は未来への投資であり、未来への起点と考えられます。(それはやはり自社で開発機能を持っているというD2Cメーカーのならでは強みであると思います)

記事にあるトヨタ自動車の水素カーはそんな例として、執念すら感じるプロダクト開発ではないかと思います。なぜ水素にこだわるかというとトヨタ自動車が燃料を多様化と環境配慮が実現された未来の水素社会から逆算しているからです。早くても2050年とか話らしいです。そこにはトヨタが一企業でありながら、日本社会や世界の未来を思案し、そこに責任を持とうとしてる圧倒的な目線があるからだと思います。

プロダクト開発とは未来のまだ見ぬプロダクトと線で繋がっているという視点を忘れず、真摯にプロダクトを開発して活きたいと思います。

現状での私の経験からくる雑感ですが、プロダクト開発に関してまとめてみました。

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最後までお読み頂きましてありがとうございます。このnoteは私がブランド経営やモノづくりを行う中で悩み失敗した中からのリアルな学びです。何かお役に立てたら嬉しいです。良い気づきや学びがあれば投げ銭的にサポートして頂ければ喜びます、全てMinimalの活動に使いたいと思います^_^