コトラーの『マーケティング5.0』に学ぶ、社内のデジタル議論の進め方
コトラの『マーケティング5.0』が出た
2022年4月30日に、多くのマーケターが待ち望んでいた、『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』(フィリップ・コトラー(著)、ヘルマワン・カルタジャヤ(著)、イワン・セティアワン(著)、音像直人(監訳)、藤井清美(訳))が、書店に並んだ。このコトラー氏のマーケティングの本は、『マーケティング3.0』『マーケティング4.0』に続く、書籍である。
私は、このゴールデンウイークに読みふけり、自分のマーケティングに関する考えを、再度見直す機会をもらった。マーケティングの難しさでもあり、楽しさは、マーケティングが「人」相手の仕事であり、その仕事は絶えず変化に直面する点である。そして、この背景から、私たちの仕事に完成はなく、マーケターは失業しない点も、この仕事の楽しさである。この『マーケティング5.0』も、生活者のデジタル変化、さらに近年はCOVID-19の影響も考察されており、その中でマーケターの道しるべとなる「点」が、丁寧に解説されている。
そして、読後に気が付いたこともある。それは、「世代間ギャップ」の存在と、その理解の難しさである。この世代間ギャップは、マーケティングの領域だけではなく、企業の活動、全てに影響があると思う。
マーケティングの本でもあるが、各世代のデジタル体験の整理が秀逸
『マーケティング5.0』の中で、世代についての記述がある。
「ベビーブーム世代」(1946〜1964誕生)
「X世代」(1965〜1980誕生)
「Y世代」(1981〜2009誕生)
「Z世代」(1997〜2009誕生)
「アルファ世代」(2010〜誕生)
という5つの世代が定義されている。この世代の定義は、多少日米では時間のずれはあるだろうが、大きな差はないだろう。マーケティングでは、この世代別に、ブランドとの関係性が異なる。
例えば、ベビーブーム世代は、経済成長期にティーンエイジャーになる。その結果、大きな経済力を持ち続けている。
一方、Y世代は、ベビーブーム世代の子供である。そして、このY世代は、ソーシャル・メディアの利用と強く関連しており、この世代は所有より、体験を好む。
このように、世代ごとに、消費、所有、体験について、大きな差がある。
問題は、世代間のデジタルの体験の差
この差は、今まで企業の活動の中では、あまり論理的には議論されていなかったと思う。「今年の新入社員は、新人類」と、いつも世代間の違いは感覚的に理解しているが、それが企業の経営にまで影響を与えていると考えていなかっただろう。従来通り、社員研修・社員教育を行うことで、会社のカルチャーに染めれば、世代間の違いは問題ではなくなると考えていたはずある。
この世代間ギャップを、企業の経営でも、きちんと考慮すべき点は、『マーケティング5.0』の別な記述からも気付かされる。それは、人生のライフステージに関する記述である。この『マーケティング5.0』では、人生を4つのステージに分けている。
基礎
第1線
育成
最終
この4つのステージである。それぞれ、約20年の期間である。皆さんは、インターネットをその人生ステージで触れただろうか。この本から気付かされことは、どのライフステージでデジタル技術に触れたかにより、デジタル技術の意味が異なる点である。
例えば、Z世代は、基礎のステージから、デジタル技術に触れており、デジタル技術は、意味や価値を考えたり、理解する前から使っている。つまり、デジタル技術がない世界の方に違和感を覚える。この世代にとって、会社のデジタル技術の取り込みの遅れは、ストレスになり、その企業で働くことに違和感を覚えるかもしれない。
つまり、世代間のギャップは、デジタル体験の違いにつながり、結果「デジタル」との関係性、意味の違いがあるのである。
今、多くの会社の経営者は、「ベビーブーム世代」だろう。この世代は、インターネットに触れたのが、「第1線」のころで、会社のデジタル化は、「育成」の時代に体験している。したがって、デジタルの取り組みには、投資が必要で、会社ごとに取り組みに違いがあると考える。しかし、「Z世代」にとっては、デジタルの取り組みの違い、特に遅さは、その会社が遅れていると思う可能性があるのである。
誰のためのデジタル・トランスフォーメーションか
ここで考えないといけないのでは、今企業で考えているデジタル・トランスフォーメーションは、誰のためのデジタル・トランスフォーメーションかという点である。
もっと明確に述べれば、どの「世代」のためのデジタル・トランスフォーメーションかという点である。この世代の論点を避けて、誰でもが使えるデジタル・トランスフォーメーションを考えて、実行すれば、極端に言えば、誰のためでもないデジタル・トランスフォーメーションになってしまう危険性がある。
デジタル・トランスフォーメーションは、将来に対する投資だろう。その時に、そのメインユーザーの理解なしに、会社の事業のデジタル化や働き方改革の議論を先行させることは、少し危険性があるのだろう。
今まで避けてきた、世代間ギャップをきちんと理解して、将来も使い続けられる、デジタル・トランスフォーメーションを会社で行うヒントに、『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』は、なっている。