「起業家の卵」に贈る、殻を破るための3つの指針と4つの問い
お疲れさまです、uni'que若宮です。
弊社では『Your』というインキュベーション事業をやっているので、毎週のように事業の壁打ちをしています。また先日、WOMBというヘルスケア・ウェルビーイングのインキュベーションプログラムでもメンターとして20人近いチャレンジャーへの壁打ちやメンタリングをしたのですが、その際に改めて感じたポイントを書きたいと思います。
そしてこれは、会社員から起業家になって変化した僕自身の実体験でもあり、過去の自分に贈るアドバイスでもあります。
殻をやぶるための「3つの行動指針」
「起業家の卵」の方々とお話をしてみると、とても賢い方が多く、発想力にもスキルにも満ちていらっしゃいます。むしろ「賢すぎる」と思うくらいです。
Yourで伴走をしていて、この人徐々に起業家っぽくなってきたな、と感じるのは以下の3つのポイントで行動が変わってきた時です。逆にいうと、これらのポイントで体幹が変わらないとどうも「起業家ワナビー」から脱皮できないような気がします。
1)シンプルにやる
2)お行儀悪くなる
3)ヒリヒリする
1)シンプルにやる
「賢すぎる」ということにも近いのですが、多くの方はすごく沢山のことを考えがちです。企画資料のページが多いのが特徴ですが、特に大企業やコンサル出身の人たちは「あらゆるオプションを考えたか?マトリクスで総合評価したか?」みたいな「説明」に会社で時間を取られすぎて、そういう行動様式が染み付いてしまい、どうしても蛇足が多くなりがちです。
そして質問をすると「ああ、それはこうだからこうこうこうで、」とすごく説明が長い。決定的ではない状況証拠をできるだけ多く集めて安心材料にするような、excuse感が漂ってきます。
こういう時には「で、何でやらないんですか?」と聞くのが一番のキラークエスチョンになります。沢山考えているって一見悪いことではないのですが、その実「やれない理由」を増やしてしまっていたりするのです。
外に出たら車に引かれるかもしれない、転んじゃったらどうしよう、あ!そうだ雨が降るかもしれないし、もしかして素敵な人に出会う運命の日かも、なんて色々考えているうちに踏み出せなくなってしまったりして本末転倒です。
以前こちらの記事でも書いたのですが、起業家は世の中を変えようとするので、「風穴」を開けるためにもシンプルで、身軽であったほうがいいんですね。
なのに色々考えて、出発の準備に3時間も4時間もかかってしまい、出かけるときにはリュック4つ分くらいの大荷物になっているケースがとっても多いんですね…。
「エフェクチュエーション」の理論に「bird in hand」というのがありますが、色々資源を求めず手の中にあるものから始める、というのも近い考え方です。
2)お行儀悪くなる。
また、これも賢い人の特徴ですが、失敗したり叱られたりせず「スマートに」やろうとしすぎる人も多いです。
何かをする前に「これやってもいいですか?」ってめっちゃきかれますし、「やってみたらどうですか?」ってこちらから言うと「いや、でもそれやるとこういうリスクがあって…」と反論されたりする。(いや、、、これ僕がやりたいんじゃなくてあなたがやりたいんでは…?)という気持ちになります。
起業家とひと括りに言っていますが、「起業」や「事業」ってほんとは一つ一つ全くちがうので、経験者や先輩であっても正解を知っているわけではないんですよね。それなのに「OK」と誰かに「判子を押して」もらいたがったり、失敗しないようにやろう、というのはそもそも起業家とは真逆のマインドセットなのです。
むしろ死にものぐるいでやっていけば、めっちゃ失敗しますし、叱られたり、嫌われたりもします。僕も「初期」にはとにかく人脈つくろうとか、起業家や投資家にとりあえず「情報交換」に押しかけたりして、ぶっちゃけ何人かには「めんどくせええ。。。」と嫌われてしまった気がします。そして最初にそう思われるとなかなかその印象をひっくり返すことは出来ません。なので「痛い」んですが、それも仕方ない。むしろ擦り傷なしで起業しよう、なんていうのが無理ですよね。
だから、多少人に叱られようと嫌われようと、もっと「お行儀悪く」なった方がよいのです。
3)ヒリヒリする
最後に、「ヒリヒリ感」。起業家になるにあたり、会社員との大きな違いは、「わりと簡単に死ぬ」っていうことです。会社員は利益が下がろうがコロナ禍のような不測の事態が起ころうが、基本的には給料がもらえます。これからの時代はわかりませんが現状ではよほどのことが無い限り、業績で「減給」になることはめったにありません。
しかし、起業家になるとは自分で生き延びねばならない、ということです。漫然と過ごして2ヶ月3ヶ月経ってものほほんと資料を作り直している人って結構多いのですが、漫然と過ごしてお金は一円も入ってきません。3ヶ月も経ったら潰れるし、周りに文句言っても仕方ない。
「動きがちょっと遅いですね」みたいなアドバイスをすると、ムッとして「いや、これでも精一杯やってるんですが」みたいな感じを出されたりもするのですが、サバンナに出ていくわけですから、ヒリヒリ感がないと「即死」します。企業で働くうちに「家畜化」され、死のリスクや食べ物の心配なく暮らしすぎて、「野生」が退化してしまっているんですね。野生で生き延びるには、もっとヒリヒリしないといけません。
3つのwhy?
また、起業家になると人に事業についてプレゼンテーションしたり発信する機会が増えます。これもまた、社内の「説明」ばかりに慣れているとモードチェンジに苦労します。「説明」ではなく、本気でその事業の良さを伝えなければならないからです。
起業家のプレゼンテーションに大事な「3つのwhy?」について、聞いたことがある方も多いかもしれません。
1) Why this/that?(なぜその事業をやるのか?)
2) Why me/us?(なぜ我々がやるのか?なぜ我々なら成功するのか?)
3) Why Now?(なぜ今やるのか?)
アート・シンキング的にいうと、僕はこの中で「why me/us?」という問いが一番大事だと考えています。なぜなら「自分ならでは」というものを起点にしていないと、ユニークさがなく、踏み出すことも、抵抗に負けず続けていくこともできないからです。
逆にいえば「why me/us」が本当に芯を食っていれば、ニーズがあるかうまく説明できなくても(why this/that)、タイミングが少々ずれていようとも(why now)、成功するまで執拗に続けるので失敗しないとすら思っています。
4つ目のwhy?
3つのwhy?は本当に大事なのですが、起業家のプレゼンテーションにはもう一つ、「4つ目のwhy?」も必要ではと最近は思っています。
それは
4) Why you?(なぜ他でもないあなたに伝えるのか?)
という問いです。
以前、ICC summitというスタートアップのカンファレンスでプレゼンテーションをした時のことです。この時のピッチは過去最悪の出来だったのですが、単に出来が悪かった、というだけではなく、そもそものスタンスが間違っていました。「プレゼンテーションの神様」と言われる澤円さんにそのことに気づかせていただいたのです。
その面々を目の前にして、若宮さんは「(ユアネイルの)ターゲットユーザーではないな…」とがっかり。そして、ついつい「皆様がお使いになることはないと思うのですが…」という気持ちがにじみ出るトーンでプレゼンを展開してしまったといいます。
目の前に男性ばかりが並んでいるのですから、そう思う若宮さんの気持ちは痛いほどわかります。しかし、このアプローチは「致命傷」になってしまいました。
プレゼンテーションで最も大事なのは「聞き手の当事者意識」です。聞いている側に「自分には関係ないな」と思われた瞬間に、プレゼンの成功確率はぐっと下がってしまいます。
ビジネスイベントでは男性が9割。ネイルのニーズについて、過去に男性投資家に話しても「ピンとこない」という反応をもらうことが多かったので、「どうせ男性ばかりだから今回も…」という後ろ向きのスタンスになってしまっていた。そんなハナから負けをみとめてふてくされた子供っぽい態度では人を巻き込むことはできません。
澤さんが教えてくれたことは、"相手にとって価値のある機会"を提供する、という姿勢の重要性でした。
「プレゼンテーションはプレゼント」というのが私の持論です。贈り物は、相手のことを思って渡すのが鉄則。相手が喜んで使ってくれたり、身に着けてくれたり、食べてくれたりするのがプレゼントの醍醐味です。
とはいえ、同じものを渡すにしても、相手によってプレゼントの意味を変えることが大切です。つまり、直接プレゼントを渡す相手を喜ばせるのではなく、その先にいる誰かを喜ばせる方法もあるのです。
例えば、花束。あなたが自分の大好きな人に贈って喜んでもらうというのは、分かりやすい例ですね。でも、それほど縁の深くない人に突然、花束を渡すと逆に怪しまれるかもしれません。
その時は「私の家にはちょうどいい花瓶がないので、奥様へのプレゼントとしてお持ち帰りください」とか「職場の受付に飾ってください」といった形で、「その人を介して誰かに喜んでもらう」というアプローチも考えられます。
この気づきをいただいてから、僕はいつもプレゼンテーションや登壇をする時に、「聞いてくださる方に何を持ち帰ってもらえるのか?」「どんな行動をしてもらえるのか?」という、「なぜ他でもなくあなたにこの話を聞いて欲しいのか(why you)」ということをとても意識するようになりました。
この、「他でもないあなた」くらいまで意識できている人は少ない。相手が誰でもおなじ話をしたり、「聴衆」という顔の見えない存在に対してだと、プレゼンテーションが単なる「説明」になってしまっていて、「で、どうして欲しいんですか?」となってしまうもったいないケースが多いのです。せっかくお互いの貴重な時間をつかっているので、「あなたにこそ使ってほしい!」なのか「広めてほしい!」なのか「一緒にやりましょう!」なのか、その人にこそしてほしいアクションも込めるとお互いにとって価値のある機会になります。
まとめ
以上が、僕が経験した「会社員」から「起業家」への変化のポイントです。
3つの行動指針
1)シンプルにやる
2)お行儀悪くなる
3)ヒリヒリする
4つのwhy?
1)Why this/that?(なぜその事業をやるのか?)
2)Why me/us?(なぜ我々がやるのか?なぜ我々なら成功するのか?)
3)Why Now?(なぜ今やるのか?)
4)Why you?(なぜ他でもないあなたに伝えるのか?)
どれも、大学や大企業のように安全で規格化された場所にいると、こうした感覚について気づかないうちに去勢され牙を抜かれてしまっている事が多いので、起業したい!という「起業家の卵」の皆さんはその「殻」を破るために、改めて意識してみることをおすすめします。