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ついに遠心分離するか―欧州共同体としての命運―

ドイツとフランスが歩調を合わせ、5000億ユーロのEU復興基金設立の支持に合意した。共同で調達した資金を、加盟国に分配して復活を下支えする。返済はEU予算の負担割合に固定して実施する。EU全体で枠組みを作るには、27か国の支持が必要になるが、いかに見せかけであったとしても、ドイツとフランスが欧州の負担を共有しようとしているところにはとりあえず意味がある。しかし……。

欧州共同体は共同体としての危機を再び迎えているのではないか。4月に発表になったユーロ圏の経済対策では、イタリアやスペインが渇望したユーロ共同債の発行がドイツやオランダの強硬姿勢により見送られたことは記憶に新しい。ドイツやオランダがイタリアやスペインの分まで負担するのを拒否したのは国家として当然のことにも見えるが、共同体としては意義が薄れることを印象付ける。

また、5月5日にはドイツ憲法裁判所(the German Constitutional Court、GCC)はECBのQE(量的緩和)の一部がドイツ憲法に違反している恐れがあるという判決を出した。同裁判所の見解では、ECB政策理事会はPSPP(公的部門買入プログラム)のProportionality(比例性)を証明しておらず、ECBは権限を踏み越えたとされたのである。ECB理事会が3カ月以内にPSPPの比例性の証拠を示さなかった場合、ドイツ連銀は、3カ月の移行期間を経てPSPPへの参加を禁止され、プログラムの下で積み立ててきた国債を売却する義務を負うことになる。こうした比例性の原則は、ドイツ憲法およびEU条約に組み込まれている概念であり、ある措置を行う場合に、その必要性のエビデンスと、その費用便益分析を提供することを要求するものである。

これを受け、欧州司法裁判所ECJと欧州委員会は、域内ではEU規律が優先されるとの見解を表明、フォンデアライエン委員長はドイツを提訴する可能性にも言及している。しかもこうした事態に関わらず、ECBは6月4日にパンデミック緊急買入プログラム(PEPP)の規模を拡大すると考えられる。ECBはフォーリンエンジェル債までPEPPの買入対象範囲を拡大し、セーフティネットを拡大せざるを得ないからだ。いかにも“ちぐはぐ”に見える。

マネーの流れに偏重が見られていることも想像に難くない。2019年3月にはイタリアが一対一路に協力する覚書を交わした。それに続き、2020年3月以降のコロナショックで医療崩壊の状態に陥ったと見られたイタリアには中国からの医療物資等が提供されている。辛く苦しいときに手を差し伸べてくれる人こそ恩人。イタリアにしてみれば、恩人はドイツやEUではなく、中国であっても不思議はない。

新型コロナウィルス問題が徐々にピークアウトし、イタリアは6月3日、ギリシャは15日、スペインでも7月から外国からの観光客を受け入れるという明るいニュースが発表になっている。EU復興基金が設立できるかどうかは不透明だが、表層では、復活に向けた努力を共同体として図っていくことになるであろう。しかし、新型コロナウィルス問題によって浮上したポピュリズムと各国の思惑は根底に流れている共同体としての脆弱さを露呈させたことは確かである。いかにこの共同体としての求心力を戻すことができるか、ドイツ・フランスにはその手腕が強く求められている。その意味では、まずはEU復興基金が設立できるかどうか、注目である。

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