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中国政府の塾禁止命令により教育産業が激震中。塾、先生、親、子供への甚大な影響

今回は中国政府による教育産業への規制とそれに伴う影響についての話です。最近、中国の学外教育産業はオンライン・オフラインを問わず大きく揺れています。国の政策や規制によるものです。

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↑tiktokの運営会社であるバイトダンスの子供教育事業「瓜瓜龙」が、上半期の大規模求人から一転、今は大規模リストラです。

政策の内容自体は日本でも多少報道されているようなので詳しくは触れません。簡潔に言うと、今回の規制は「教育という国の将来を左右するものに過剰に資本を入れることはよろしくない」という政府の判断です。

教育が巨大なビジネスに成長し過ぎてしまい、本来の目的とは誤った方向に向かっているという危機感は盛んに議論されてきました。中国は出生率の低下、高齢化社会対策として人口政策を調整してましたが依然として国民の生育意欲が弱い状態です。大きな理由の一つは教育コストで、教育熱心な中国では1人の子供を育てるのに相当なお金がかかるのです。

日本の皆さんのイメージとは違うかもしれませんが、受験科目から芸術育成まで幅広くカバーする中国の学外教育は非常に充実しているし、高レベルの塾のコストは相当高いです。たとえ費用が高くても周りのみんながその塾に通ってて、自分の子だけが通わずでは受験戦争にも素養教育にも負けちゃう。日本でもあるあるな構図ですね。

今回の国の方針は“双減”こと「ダブル削減」です。「義務教育段階の宿題の負担を減らす」と「学外教育での負担を減らす」の2つのことについて指導が示されました。また、受験勉強の科目を提供する学外教育の上場も禁止されるという厳しいものです。

中国のネットでは、ゆとり教育に対する不安がある一方、少しでも「内巻」の歯止めになれればとの期待も高まっています。中国の競争社会から生まれた社会問題「内巻」と「鸡娃」について過去に書いているのでこちらも合わせて読むとより理解が深まると思います。

ここからは各方面への影響について考察していきます。

■教育機構への影響

今回の政府の指導の影響で最も影響を受けたのが教育塾産業。「好未来」や「新東方」のような学習塾の老舗から、「猿補導」や「作業帮」といった資本から高く評価され資本を集めていたユニコーンにまで衝撃的なインパクトを与えました。

―資本の面

「好未来」や「新東方」のような、上場している老舗企業は長年の事業多様化によって、株価がちょっと下がる程度で影響を抑えられているようです。しかしユニコーン企業は厳しい現実となっていて、今年の上半期で評価値が170億ドルだった「猿補導」は現在30億ドルまで低下し、関係者は洒落にならない損失です。5年間で220億元の資金を調達した「作業帮」も上場が見送られました。

ー雇用の面
スーパーユニコーンだけではなく、学外教育機関で大規模なリストラが発生しています。とある統計によると、今回の「ダブル削減」指導は教師、技術開発、運営、市場開発などの職種に影響。産業チェーンの上から下まで、もはや正確な影響は測定不能で、関連産業をカウントせずとも仕事を失う人が百万人を超えると予測されています。

しかも急成長していた教育産業は給料も高かったため、他業種に転職するにも待遇が全然比べものにならないと悲鳴があがっています。北京や上海では今回の政策で仕事を失った人たちへの再就職支援を大規模に展開してるようですが、現時点では具体的なことはまだ不明瞭です。

■親御さんの心配

親たちの心配は主に2つに集中しています。

一つは子供のケアについて。共働きの多い中国社会では土日、夏休みや冬休みでの学習塾が禁止され、面倒を見てくれるところが急になくなることへのインパクトは大きいです。たとえ高額だったとはいえ、クラス指導の塾は家庭教師や家政婦よりは安いです。

もう一つは、自分が子供の勉強を見てあげられない、さらに家庭教師を雇用する余裕がない、ということでは子供が将来の競争で負けちゃうのではないかという不安です。

余談ですが、学外の教育が禁止された今、学外教育という“違法行為”についてはポルノや売春を取り締まっている行政機関が取り締まりを行うことになります。例えば、親同士によるグループ購買のように、1人の先生を雇ってどこかで補習するなども違反となります。補習の先生も、まさか自分が「扫黄打非」(ポルノや売春の取締りの言い方)の対象となる日が来ると思わなかったとコメントがありました。

■名対策や予想外の展開

以前から感じていますが、中国はあちこちで規制が多いのに、それに慣れてるたくましい中国の皆さんは対策をすぐに考えて実践してきます。そして、そのずる賢さが最高のエンタメです。今回も期待を裏切らない傑作の数々がたくさん登場してるので紹介しましょう。

ークルーズ船による1ヶ月の補習ツアー(案)
今まで観光用のクルーズ船を夏休みや冬休みの時に補習船にして、有名な先生を雇って公海で海の塾を開催。公海なので適用法律が変わるからいい先生がいれば1ヶ月20万元でも売れるでしょう
ー家事と受験補習のできる複合型人材の育成へ(案)
補習機構が家政婦機構と提携して、家政婦によって補習の先生に家事のトレーニングをして、家政婦ではありますが、勉強も見てあげられる複合型人材に転身するというもの。北京や上海などのビッグ都市では普通の家に泊まる家政婦は月に5、6千元はかかりますが、両方ともできる人は簡単にその倍の金額になるでしょう。おまけに住むところが提供されていて食事代もいらないから今までのいわゆる普通の補習先生より稼ぐと予測される
ー「学生に教える」から「親に教える」にシフトチェンジ(老舗の新東方が実際にやってるそう)。塾で教わった親が子供を教育するというもの

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↑ただ親の不満が爆発してるそうです。「十数年前に塾に行かされていたのが自分で、それから十数年後に子供ではなく、まさか自分が塾で勉強するとはあまりにもひどい」と笑

さらに予想外のケースや影響も出ています。

ー自分の家庭教師を告発して補習代を全額戻すひどい件
今回の「ダブル削減」政策に関する補習の決まりでは学外教育機関中心ですが、公立学校の先生への内職補習はかなり前から禁止されてました。先日話題になったのは、知り合いに何回もお願いしてすごくいい先生の課外補習を頼んだけど、1年間の補習を終えいい点数をとって希望の学校への進学も決まったところで、「先生が内職として補習をやってる」ことを告発して高い補習代を全額払い戻しされて、先生が処罰されたケースがありました。この件が話題になって、先生たちは「いくら高収入でも禁止されることは絶対やらないほうが良い」、と売り手側の事情も変わったよう。
ー補習が禁じされてから一部のショッピングモールが絶不調

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↑とあるモールでは、3階の塾が営業停止に。そして2階の美容店や1階の洋服屋、レストランも次々と閉まりました。

中国の場合、多くの学生(特に低年齢層の)で塾への出迎えが必要です。遅い時間まで1人で通うことへの安全面の心配もありますが、サボらずちゃんと行ったかどうかも含めて、親がついて行くことが多いのです。平日だと授業時間が短いからみんな大体外で待っていて、そこに消費のニーズが生まれます。学生が来なければ、親も来ない、お店にも寄らない、ということで相当な経済の負の連鎖が発生しているとのこと。

■政府の意図

実は「学生の負担を減らす」という政策調整は長年にわたって行われていました。近年だと、2018年8月に教育部が「学外教育機構の発展規範に関する意見」という政府指導・規制意見を公布してから、2021年6月に学外教育機構監督管理部門の設立まで、「ダブル削減」に関する管理姿勢を終始示しています。「フェアな教育環境を整える」の背景には、他の意図も見え隠れしています。

―市場への監督管理
教育熱心で有名な中国の親御の焦りを利用するビジネスがとにかく儲かっていて、運営では様々な問題が現れています。例えば教員の資格の不備や、広告法違反の過剰宣伝、不合理な費用徴収など、ビジネスが盛り上がれば盛り上がるほど問題が次々と現れ、トラブルも頻発しているのです。
ー家庭関係をはじめとする社会問題
課外教育とは実は特殊なサービスであり、サービスを購入する人(親)とサービスを受ける人(学生)が一致しないため、感覚のずれが生じてます。親としては課外教育というサービスを購入し、子供の勉強を指導しない・できない焦りや不安が緩和されるが、成績が上がらなければ子供を怒ります。一方、子供は勉強させること自体にも抵抗がある(のが多いと思いますが)、クラスメイトみんなが塾に通うなら成績が上がっても限度がある。大変な勉強を経て成績が上がらなければまた怒られます。勉強が大変や成績がうまくいかなくて、親の期待に応えられず、最悪プレッシャーから自殺してしまった件も度々報道されています。

僕の周りもそうですが、今の中国では特に研究者志望じゃなくても、大学ではマスターに進学する学生が多いです。大卒だけでは社会競争では有利でなくなっている証の一つにもなると思います。さらに時間が経てば経つほど社会全体の教育レベルが上がりますが、さすがに限度はあります。いわゆる学歴価値の下落をとても実感しています。

その中で、進学高校への入学枠を制限したり、専門人材を育つ高校の建設を強化するなどの政策動向から、政府が長い目で教育が育つ人材を如何に将来の中国の発展動向に適用できるかの配慮も感じられます。

そして近年の競争社会の激化への問題意識の高まりと人々の不満も今回の決定を後押ししたと思っています。今回の政策でポジティブに変化することを期待したいです。

(参考資料)

http://finance.sina.com.cn/chanjing/cyxw/2021-08-23/doc-ikqciyzm3086164.shtml

https://xiongbingqi.blog.caixin.com/archives/248993

https://nulishehui.blog.caixin.com/archives/249193


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