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コロナで失われたグローバル人材育成の機会を取り戻す

コロナ禍によって急きょ進められた大学のオンライン授業化も、2年間の混乱の後、今年度から従来の雰囲気を取り戻している。多くの大学で原則対面の講義が中心となり、留学生の受け入れも進んでいる。私の勤務する大分大学でも、ほとんどの講義が対面となり、ほぼすべての留学希望者も入国ができてキャンパスが賑わいを見せている。やっと大学らしい活気のある姿が取り戻せた感じだ。

その一方で、失われた学習機会は多い。1つは、日経の「Think!」でGoogle合同会社の村上臣氏が指摘するように研究室実験だ。学生の教育だけではなく、大学としての研究も大いに影響を受けた。
そして、もう1つがグローバル人材の育成だ。欧米では、コロナのリスクがあってもグローバル人材の育成の重要性から、留学生の受け入れをなんとか行おうという動きがあった。日本は研究者や留学生の受け入れが他の先進諸国と比べて遅れをみせ、教育関連の各種団体や機関から規制緩和の要請がでていた。

日本のグローバル人材の育成に対して負の影響を与えたのは水際対策だけではない。ここに日本の大学の特徴である「4年で卒業して、すぐに就職する」という慣習が加わる。
少し古い資料になるが、文科省のレポートによると、修業年限で大学型高等教育を修了する割合は2004年のOECD各国平均で71%なのに対し、日本は91%と最も高い数値を出している。平均と同じ71%なのはドイツであり、アメリカは54%だ。先進国でも比較的高いイギリスも78%となる。
これは日本の大学と比べて、海外の大学の方が入学は容易で卒業が難しいという傾向を持つことも原因の1つだが、卒業時期を自由に決めるという文化的な要素も大きい。つまり、卒業要件を満たしても大学に籍を置き続けるという学生が一定数いる。
コロナ禍でグローバル人材としての教育を受ける機会を失した学生の中には、そのために卒業を伸ばしているケースもみられる。実際に、私の研究室に留学予定だったドイツの大学院生も、2020年に来日予定だったのを2023年まで引き延ばしている。
日本の「4年で卒業して、すぐに就職する」という慣習の下だと、ドイツの大学院生と同じような意思決定をするのはハードルが高い。そのまま、グローバルな経験を積むことをあきらめて、就職活動をしようという気持ちも大きくなりがちだ。周囲も就活ムードとなる中で、海外留学したいから卒業を伸ばすと言えるのは強い精神力とそれを許してくれる経済力に余裕のある家庭を持った学生くらいだ。
また、グローバル人材の育成に対して、このコロナ禍の中で学生生活を過ごしてきた低学年生への影響も無視できない。現在の大学3年生は1年生からコロナ禍で海外との交流を絶たれた状態で学生生活を過ごしてしまっている。そして、新1年生も高校時代の2年生と3年生という将来の方向性を決める大切な時期で鎖国同然の時間軸を過ごしてしまった。このような彼らが、グローバル人材として成長したいという意欲と志向性を持つことができるのか不安を覚える。
実際に、一昨年と昨年の2年間で、エストニアと香港、ドイツの大学とオンラインでプレゼン大会を主催したが、学生のモチベーションのマネジメントには苦戦した。オンラインだけの交流で学生の意欲を維持するのは、海外大学への訪問という強い誘因を持つオフラインのイベントよりも難しかった。
【動画:今年2月に開催したプレゼン大会の様子】

過ぎてしまったことはどうしようもなく、それでも幸いなことに徐々にグローバルな交流の機会も戻っている。この機会を活かして、教育機関は学生の「グローバルな世界で活躍する」という具体的なイメージを抱いてもらうように力を尽くしていくことが求められている。

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