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伝統社会の引力圏からの脱出:未来を描く

価値観の変化

いま、100年先の時代を描くカンブリアライジングというプロジェクトを模索しているところですが、1番のハードルが、この「伝統社会の引力圏からの脱出」だと感じています。

100年と考えると、1920年代の写真や社会の動きを見ると、そんなに大きく変わらないかな、劇的な変化はないかな、と思われることもあるかもしれません。もしくは、全然別物と感じられることもあるかもしれません。僕自身、どちらの感覚も抱いていました。すごい違いそう、と同時に、そんなに変わらないところもけっこうあるかな、と。

しかし、家族の年齢で考えてみると、100年という時間は、思ったよりも世代を重ねた先と思えてきました。100年先、現在52歳の僕にとって、100歳人生といわれる時代が実際に到来したとしても、多分死んでいると思います。現在25歳の娘や11歳の息子たちが、それぞれ全ての世代で35歳くらいで次世代を産んだとして、ひ孫が現役バリバリで、玄孫の時代となっていそうです。

自分自身、親世代、祖父母世代の価値観だって、隔世の感があります。さらに2世代となると、話が通じないくらいに価値観が違っているかもしれません。

病にかかった人が謝る社会

少し前に、なぜコロナに感染した人が謝罪するのか、と話題になりました。著名な方々が、そうした声をあげ、ネットニュースでもとりあげられていました。『現代思想 2020年5月号 感染/パンデミックー新型コロナウイルスから考える』にも、同様の趣旨の文章が掲載されていました。『なぜ病んだ人達が謝らないといけないの』(p231 チョハン・ジニ/影本剛訳)が、それです。

文章には、韓国で自殺した母娘の残した遺書が引用されていました。申し訳ありませんでしたから始まり、本当に申し訳ありませんでしたで終わるという悲痛なものでした。

自然および生態系をコントロールできるという思想が、健康というものすらも個人の努力で守り得るものであるという幻想を生み、「運の悪さ」ではなく「失敗」と見る姿勢につながる。そして、失敗したのだから謝罪せよ、という圧力を生む。それは、内圧にもなっており、誰から強制されたものでなくとも、自分の中から自分を押しつぶす負の力となっていく。

人が自然を支配しようとしてきた歴史は、輝ける技術と人工物によって覆い尽くしてきた面積が示す通りです。かつて死に直結していた病の多くが、軽症で済む日常的な病となったことは、喜ばしいことです。多くの感染症が、治療可能なものとなり、公衆衛生の発展とともに、多くの人々が安心して交流することができるようになってきました。その交流によって、社会活動は活発なものとなり、文明の発達を後押ししてきたのだと思います。

しかし、その先に、コントロールするための努力が前提となってしまうことが、恐ろしい重圧になってはいないでしょうか。努力によって全てをコントロールしよう、という。WHOは、健康を、心・体・社会との関わりの3つが健全な状態にあること、と定義しています。これを、努力によってコントロールしようとすることには、そもそも無理があります。病も怪我もコントロールできません、人との関わりも個人の責任で対応できるほど簡単なものではありません。自分の外側にあるものとの関わり、様々に変化する関係性を通して、その結果として心や体や社会との関わり方に、変調をきたす場面や時期が生ずる。ただ単に、それだけのことです。今は運が悪いな、とか。潮目が悪いな、とか。だからこそ、そうした状況をケアするための仕組みや道具や手法が生み出され、相互に支え合う関係性をつくってきたのだと思うのです。その責任を、個人に、個人が所属する集団に、求め、押し付けることは厳し過ぎないでしょうか。

今回のコロナに感染した人が謝罪するという状況には、こうした価値観が横たわっているように思えます。そして、こうした価値観もまた、世代を超えて、大きく変化していくのだと思いますし、変えていかねばとも思うのです。

第二宇宙速度

地球の重力圏から脱出するために必要な速度に、第二宇宙速度があります。秒速11.2kmで打ち出すことで、地球の重力圏から脱出できます。そのため、地球脱出速度とも呼ばれるそうです。

未来を描く上で、そのくらいぶっ飛んだ変化を考えることが大切なのかもしれません。日々過ごしている日常の、足下に広がる確固たる大地のように思えている常識的な判断基準。なんとなく当たり前に思っている価値基準。そういったものから、ほんの少しジャンプしてみるくらいではなく、秒速11.2kmで打ち上げられるロケットのように、異なる価値観の世界に突き抜けていく。どうすれば、第二宇宙速度で、未来の価値観を描くことができるのか。僕自身も、模索しています。

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