見出し画像

【レポート③】デザイン・マネジメントの国際学会に初めて参加してみた:イノベーションの種は外部から見つけ出すか、内部から見つけ出すか

「4D_Conference」に参加し、新たに得た気付きとして、イノベーションの種を見つけ出すのに2つのアプローチがあることがわかった。1つは個人や組織の外部(市場や顧客)から見つけ出すアプローチであり、もう1つは個人や組織の内部(ビジョンや信念)から見つけ出すアプローチだ。


デザイン思考の3つの段階

ミラノ工科大に留学している日本人学生の発表報告にて、デザイン思考を3つの段階に整理した概念図が紹介されていた。そこでは、プレ・デザイン思考とデザイン思考、ポスト・デザイン思考という3段階に分け、それぞれの立場におけるプロダクト開発における思考プロセスの違いについて語られた。

プレ・デザイン思考では、新商品開発やデザインの基となる情報を個人や組織の外部から獲得する。例えば、市場分析や顧客調査などの手法を用いて、市場ニーズや顧客の抱える課題を明らかにする。顧客の抱える課題がイノベーションの種であり、新たに生み出される商品やサービスのデザインも課題解決のために最適化される。

デザイン思考では、イノベーションの種は製品開発のプロセスにある。スタンフォード大学のd.schoolやIDEO社などのデザイン思考のコンサルティングや研究を行う機関が推奨するデザイン思考のプロセスを通して、市場や社会に価値のある成果物が生み出される。例えば、あるプロセスでは、プロトタイプを開発し、顧客や市場からのフィードバックと修正・改善のサイクルを短時間で何度も繰り返すことで、成果物をブラッシュアップしていくことを特徴とする。エンジニアとデザイナーが顧客も巻き込んで、より良い成果物を生み出すことを志向する。つまり、デザイン思考において重要なことは、イノベーションの源泉は定型化された思考プロセスにある。

ポスト・デザイン思考では、イノベーションの種は個人や組織の内部から発せられる。重要なことは、新商品やサービスの開発を通して自分が社会に対してどのような変化を起こしたいのかと言う、コンセプトやビジョンだ。デザインやエンジニアリングのプロセスは、コンセプトやビジョンを達成するための手段だ。例えば、ダイソン社の創業者ジェームズ・ダイソン氏が若い時から強いこだわりを持っていたボール型の駆動装置(ボール・エンジニアリング)、任天堂の企業文化となっている家族で楽しめる新しい遊び方の探求など、まだ市場に存在しない新しい価値を生み出そうという挑戦が大きなイノベーションに繋がったという例は多い。


ポスト・デザイン思考の世界観

ポスト・デザイン思考の世界観では、これまでの常識では考えられないようなアプローチがイノベーションの種になることもある。富山国際大学の重本博士の発表では、敢えて「不便さ」を強調することで生み出されるイノベーションの可能性について語られた。一般的に、新製品やサービスは顧客に「従来品よりも便利である」ことが前提として作られることが多い。しかし、ユーザーに魅力的な新しい価値として「不便さ」が好まれることもある。

例えば、アウトドア用品のメーカーである「パタゴニア」は、今月、ショッピングバッグを全廃し、エコバッグのシェアリング・サービスを始めると発表した。各家庭で使用されていないエコバッグを回収し、購入者にショッピングバッグとして貸し出す「エコバッグ・シェアリング」を2020年4月1日から開始する。

ショッピングバッグの全廃は、当然、顧客に対して「不便さ」を強要することになる。買い物時のストレスを高め、顧客体験を損ねるリスクが高い。しかし、同社は「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」ことをミッション・ステートメントとして定めており、「どうやって企業理念を実現していこうか」ということを突き詰めた結果の決断として、敢えて「不便さ」を選択した。

ポスト・デザイン思考では、商品開発のプロセスや考え方に最適解はなくなるだろう。商品開発のプロセスや考え方は、自分たちが市場や顧客に対してどのような価値を提供したいのかというビジョンや目的によって変化する。そこでは、敢えて顧客の声を聴かないという選択をとることもあれば、スピード感が遅いことが価値となることもある。重要なことは、新商品やサービスの開発を通して商品やサービスの持つ意味(Meaning)を変革し、新たな価値を創造することにあると言えるだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?