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心を繋ぐ触感の力。

「ぷにるんず」というおもちゃをしっているだろうか。「ぷしぎなあな」に指を入れると、ぷにぷにのキャラクターを押しているかなりリアルな触感が味わえる。一斉を風靡した育成ゲーム「たまごっち」の触感進化版といって良いと思う。日本おもちゃ大賞2021、おもちゃ大賞ネクスト・トイ部門で優秀賞、そしてクリスマスおもちゃ2021ではバラエティ部門で1位を獲得した。いまや簡単には手に入らないレアものになっている。タカラトミーの業績は、売上高、利益ともに絶好調だ。

おもちゃのみならず、車、医療、メタバースなど様々なところでハプティクス技術が活用されている。微細な超音波や磁場などを活用することで、様々なデバイスを通じ、手触りから体に受ける衝撃まで幅広い触覚を体験できる技術だ。これまでは、五感のうち、視覚と聴覚の二感での演出が多くみられたが、いよいよ触覚を加えた三感での演出が本格化していく。

実は、意識せずに色々なところで使われている。一番身近なのはiPhoneだろう。ホームボタンを指で押すと、まるで「カチッ」とボタンを押していると錯覚する。センサーが指の圧力を感知すると、磁石とコイルによって振動が生じる仕組みだ。一方、京セラは、一層の普及を目指して、触覚デバイスを薄型化する新技術を開発したと発表した。電気信号を振動にかえる圧電素子というiPhoneとは別の技術を高度化したものだ。まずは産業機器の操作パネル、そして自動車への展開を狙っている。

医療の世界では、空気圧でロボットの腕を動かし触感を伝える手術支援ロボットの量産化が進んでいる。業界では有名な「ダビンチ」は電動駆動で操作は視覚に頼る。触った力が分からないという欠点がある。それに対して、リバーフィールドの空気圧の技術は、触った感覚がわかる。東レエンジニアリングとタッグを組み、軽量化や利用のしやすさ、さらにはデザインの美しさにも手が入ったという。2022年度内には発売される見込みだという。これは楽しみだ。

英国のスタートアップ、ウルトラリープは、少し変わり種の技術を使った触感づくりを進めている。非接触の操作に触感を与える技術で、センサーで認識した手などに超音波を当てて触感をつくり出す。空中での操作にも関わらず、ボタンを押したかのようなフィードバックが掛かるというわけだ。コロナ禍で非接触型の端末も増えてきたが、操作に違和感があった。この技術があれば、これまでと同様に操作が機能したと直感的に感じることができる。車内など視覚でいちいち確認したくない操作や、VRなどの仮想世界での体験などに応用できそうだ。日本のピクシーダストテクノロジーズもこの分野の先駆けだ。日本初のアプリケーションが量産されるのが待ち遠しい。

触感の技術を探していたら、とても奥深い記事を見つけた。「触ることがはばかられる今だからこそ、触覚の不思議な力と楽しさを見つめ直してみたい」という内容だ。「日本の文化は、肌で感じることを大切にしてきた。その感性はものづくりや日本語の語彙にも表れている」という前置きにも、凄く納得した。

触感のスペシャリストによる伝統工芸の磨き上げでは、目の先入観にとらわれず、肌感覚を頼りにした。手で触り、頬ずりし、唇にあてて器の触り心地を確かめながら、作品を完成させたという。視覚障害者の感覚は、漆器職人をも唸らせた感覚だったようだ。記事には「LINKAGE」というゲームの話もあった。めくったカードで指示された自分の指と相手の指で長さ20cmほどの細い棒を支えていく。共に支えあった連帯感を実感できるという。言葉を超えるコミュニケーションだ。

これまでデジタルの世界には、正直、手触りのない「少し冷たいもの」といった感覚があった。でも、ハプティクス技術の進化と共に、デジタルの世界にも温かみのある日常を生み出せる可能性が出てきたと思う。心を繋ぐ道具としての触覚デバイス、ハプティクス。腰を据えて活かし方を考えていきたいと思う。あ、触覚のスペシャリストならではの感覚も学びにいきたい。


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