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人事の欧米化は日本企業に何をもたらすか?ージョブ型雇用編ー

長らく、日本企業の競争力の源泉として「日本型経営」と呼ばれる人材マネジメントの独自性を維持することが重視されてきた。しかし、グローバル化とデジタル化の流れの中で、日本型人材マネジメントの欧米化が本格化されている。前回の記事では採用におけるインターンシップの推進を取り上げた。今回はジョブ型雇用についてみてみたい。

政府主導のジョブ型雇用の推進

ジョブ型雇用について、先月、人事界隈をざわつかせるニュースが流れた。厚生労働省が企業に対して、勤務地や仕事の内容を従業員に明示するように求めるというのだ。

勤務地や仕事の内容を雇用時に明示し、変更がある度に変更するというのは欧米をはじめとした海外では標準的にみられるプロセスではある。このときに明示化された書類が、一般的に職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)と呼ばれる。

職務記述書が浸透しなかった2つの理由

職務記述書を取り入れようという動きは30年以上前から試行錯誤がされてきたが、なかなか定着しなかった。それには大きく2つの理由がある。
1つは、日本企業の特徴として「ヒトに仕事を付ける」方式をとってきたためだ。従業員を職務遂行能力の高さで評価し、職務遂行能力の優れた従業員に難易度の高い仕事を任せてきた。そして、従業員の成長に応じて、任せる仕事内容も柔軟に変化させてきた。そのため、予め仕事内容を決める職務記述書の作成は無理だとされてきた。
もう1つは、会社都合の異動だ。「総合職は部署と勤務地が日本全国・全世界どこになるのかは決まっていない」という考え方は、テレワークの推進で見直されてきているものの、今でもよく見られる。欧米をはじめとした諸外国では、異動は会社から提案はできるものの、多くの場合で従業員にも拒否権や交渉権がある。どの部署で働くのか、どこの勤務地で働くのかは個人のキャリア開発において重要な影響力を持つためだ。
既存の日本型人材マネジメントを維持したまま、厚生労働省の要望を叶えようとすると人事部の業務負担が膨大なものとなってしまう。そうではなくても、要望に応えようとすると大掛かりな業務プロセスの改善に取り組まなくてはならない。そして、多くの企業にとって、職務記述書を丁寧に作るように取り組んだとしても売り上げが伸びるわけでもなく、ただただ事務処理の負担が大きくなるためなので積極的に取り組むインセンティブが乏しい。

停滞している30年を打開するために変化に挑戦しよう

ジョブ型を企業が積極的に推進するインセンティブが働くのは、海外での事業展開が進んでいるグローバル企業と、海外から人材の採用を積極的に行っている企業だ。外国籍の従業員を多く抱えると、日本本社でも人材マネジメントをグローバルスタンダードに合わせる必要が出て来る。前者では、ソニーや富士通、日立が代表例だ。後者では、Zホールディングスや楽天などのIT企業によくみられる。

それでは、政府がなぜジョブ型を進めるように勤務地や仕事の内容の明示化を企業に求めるのか。狙いが名言されているわけではないので推察するしかないが、おそらくは一億総活躍社会の実現にむけた労働人口の増加が背景にあると思われる。
政府の方針として、人口減少と人手不足の解消に向けて、働き方の多様性を認めることで、主婦や高齢者などの働いていない、もしくは働くことに制限をかけている人にフルタイムで働くことを推進したい狙いがある。併せて、特定技能による外国人労働者の拡充によって、現場レベルでの外国籍従業員の拡充によって人手不足問題への対策ともしたい。
これらの人々は、既存の日本型人材マネジメントでは働きにくい人々だ。小さい子供がいるために思うように働くことができずにキャリアをあきらめる女性。親族の介護のために働き盛りの時期なのにフルタイムで働くことができないミドル層。外国人にとってはナンセンスな日本の商慣習によって離職や逃亡が相次ぐ外国籍従業員。既存の仕組みではキャリアをあきらめざる得ない状況に陥る人々が数多くいる。そして、それらの人々が低所得者層となることが政府にとっては問題視される。

政府による規制でジョブ型を推進することが正しい方法なのかは議論の余地があるだろう。しかし、既存の日本の労働市場には課題が数多くあり、これらは企業の利益を重視してみて見ぬふりをしてきた課題でもある。これらの手を付けられてこなかった課題を解決するために、まずは変化を起こしてみるという意味では、今回の厚生労働省の取組みも意義があると言えるだろう。

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