ビジョン型のリーダーシップとは何か。理想のリーダー像に対する自問自答が、個々のリーダーシップを高めていく。
皆さん、こんにちは。今回は「リーダーシップ」について書かせていただきます。
「リーダーシップ」と言うと、「指導する」「統率する」というような意味で発揮される能力のことを指しますが、「組織の目標に向かってメンバーを導く能力」であると解釈ができます。
リーダーシップ理論にはこれまで様々な変遷があり、時代背景やその時の状況などから多様なモデルが提唱されており、今もなお研究され続けています。リーダーシップの在り方として、おそらく絶対的にこれが正しいといった、最も優れたリーダーシップの形が存在するわけではないと思いますが、リーダーシップを発揮することが求められる場面で、私たちは何を意識していけばいいのでしょうか。
それぞれ異なる環境、特定の状況、価値観を持つ中において、今の時代にふさわしいリーダーシップの発揮の仕方とはどのようなものなのでしょうか。具体的に考えていきます。
■今求められるリーダー像とは
理想のリーダー像を、米心理学者のダニエル・ゴールマン氏が提唱するリーダーシップの6分類をもとにアンケート調査したところ、以下の通りの結果となったようです。
「ビジョン型」・・・チームが目指す目標(ビジョン)を明確に提示し、メンバーが進む方向を正しく導いていく
「コーチング型」・・・部下との対話からやる気や行動を促す・チーム一人ひとりの能力を尊重する
「民主型」・・・メンバー全員から意見を聞いて意思決定を行う
「関係重視型」・・・メンバーとの関係性を重視する
「先導型」・・・リーダー自身が高いパフォーマンスを見せる・リーダー自らが成功イメージを示す
「強制型」・・・細かく指示する・強制力を使って目的を果たす
これらのどの型が正解ということではありません。仕事の内容やチームの戦略に対する進捗状況、組織の目的などによって、求められるリーダーシップの在り方は異なることが前提となります。このような“型”の中から一つをピックアップするということでもなく、状況に応じて1人のリーダーが適切に使い分けたり、またはチームの中でリーダーの役割を分散しながら、組織が向かうべき理想の方向に適切に率いていくことが重要です。
記事のアンケート結果からは、企業が目指す目標や、進むべき方向性を明確に示すことでメンバーを導いていく、最も前向きなリーダーシップタイプが求められていることが分かります。ビジョン型のリーダーシップというと、たとえば、アップル社の元CEOスティーブ・ジョブスが「より良い製品、人々があっと驚き世の中が変わるような製品」を作ることをビジョンとして掲げ、会社のトップとして力強いリーダーシップでチームを率いたことが一つの事例として挙げられます。そのビジョンに共感・賛同した優秀な人材が集まり、高い熱量を持って目標に向けて会社全体で一気に突き進んだことが、当時のアップルの成功の要因の一つとも言われています。
このように、自らが目標のビジョンを示し、ポジティブな動機づけによってメンバーのモチベーションを上げていくビジョン型リーダーシップの最大のメリットは、ビジョンに賛同したメンバーが集まりやすいことです。逆に、リーダーの信念や掲げているビジョンに矛盾が生じた時、または何らかの出来事によってそれまでの求心力や信頼がなくなった時などは、組織が機能しなくなるというリスクもあります。
少なくとも今の時代は、細かくトップダウンで指示するよりも、目標や理想とする状態を明確に定め、部下の自主性を引き出しながら目標達成を支援するリーダーシップが求められていて、リーダーは「意思決定の権限を持つ人」ではなく、「信頼関係をベースに組織全体の力を結集させて目標達成へと組織を導く人」であってほしいと考える人が多いのだと思います。
上意下達が当たり前であった時代には、リーダーの統率力が重視され、先頭に立って力強く組織を引っ張っていくタイプのリーダー像が理想とされていました。しかし今は時代の流れとともに価値観も多様化し、理想とされるリーダー像に変化が生まれており、多様性を尊重する中で後方支援型の「サーバント型」リーダーシップも注目されています。様々なリーダーシップの在り方を知り、チームにとって、会社にとって、そして自分自身にとって、最適なリーダー像とは何かを、常に模索し続けていくことが重要だといえるでしょう。
■ビジョン型リーダーシップを発揮する上で必要な特徴とスキル
変化の激しい今の時代、リーダーのビジョンがなければ軸がぶれ、組織の方向性も曖昧になっていきます。明確なビジョンの有無は組織の一体感を醸成し、目標に対する達成意欲や、個人やチームの成長意欲を高めることにも直結するため、組織の持続的な成功に必要不可欠です。
ビジョン型リーダーシップを発揮する上で必要な特徴・スキルを挙げてみます。
●ビジョンの明確性・・・組織やチームが目指すべき未来像や目標を明確に描き、抽象的ではなく、具体的な目標や方針を示すことができる。
●ブレない信念・・・言葉や行動に責任を持ち、特に正解のない局面で信念をもって矜持を周囲に示すことができる。
●柔軟性・・・変化する環境に適応し、柔軟にビジョンを調整することができる。
●革新性・・・既存の枠組みに捉われない革新的なアイディアや発想を持ち、新しい技術や方法を導入しながら実現に向けて動くことができる。
●戦略的思考・・・長期的な視点で戦略を策定し、段階的に目標に向けての計画を立てることができる。さらに外部環境の変化やリスクを見越し、柔軟に対応しながら戦略を調整する。
●大胆さ・・・内外の圧力などに巧みに抵抗しながら失敗を恐れない不屈の精神を持つことができる。
●リスクテイク・・・あらゆるリスクを想定した上で自分の信念に自信を持ち、不確実性や挑戦を恐れずにリスクを取る姿勢を示すことができる。
●挑戦意欲・・・常に新しいことへの挑戦機会を追求し、進むべき道や方向性を見失わない。
●粘り強さ・・・困難な状況でも強い意志を持ち、レジリエンスを高めながら目標に向けて突き進むことができる。
●人を惹きつける力・・・周囲の人を温かく歓迎し、また歓迎されるオープンな人柄によって人を惹きつけ、チームの能力を最大限引き出すことができる。
●インスピレーションを与える力・・・自らの行動を通じてリーダーが理想とするビジョンを心から信じている姿勢を示すことで、メンバーを鼓舞し、やる気を引き出すことができる。
●チームビルディング能力・・・ビジョンを共有するチームを育成し、一人ひとりの強みを引き出しながら全体のパフォーマンスを最大化することができる。
●共感力・・・感情の持つ力を理解し、心の知能指数を高め、周囲の人に共感力をもって接することができる。
●影響力・・・目標やビジョンに向けて人を動かす力があり、言葉や行動で与える周囲への影響力が大きい。
そしてさらに必要なのは「ビジョンを語る力」。ビジョンを定めてそれをチームに伝えていくには、
世の中の流れを踏まえ、会社の未来を予測し、市場や業界、人や組織を洞察する
その上で自分たちの進む方向性を定め、ストーリーを組み立てる
ビジョンの実現可能性を信じ、チームメンバーがワクワクするようなビジョンとして語る
というようなステップが必要です。単に「ビジョンを説明する」のではなく、組織全体に共感を呼び、一体感を持って前進できるように、ビジョンに対する高い熱量を引き出すことが目的なのです。
上記の通り挙げた能力が現時点でなかったとしても、事業を成功に導くためにリーダーが実践しなければならない行動や信念は、きっかけさえあれば誰でもいつでも持てるものではないかと思います。そしてそれは、どのようなリーダーシップの型やスタイルであったとしても共通して求められる“心構え”でもあります。
自分自身がどのようなリーダーシップの“型”を目指すかということ以上に、事業成果を出すための基盤として、自らが取るべき行動の枠組みをまずは定義していくことも重要ではないでしょうか。
例えを挙げると以下のようなものではないかと思います。
<リーダーとしての心構え>
1、 自らの言動が、組織の文化形成に直結する意識を持つ
2、 組織に必要な変革を率先してリードし、それぞれが果たすべき役割を理解してもらう
3、 失敗があった時は、素直に認めて軌道修正をする
4、 人との信頼関係の構築に手を抜かない
5、 リーダーにとって必要なスキルを理解し、向上させるための努力を怠らない
6、 多様な経験、価値観、発想を大事にし、個人や組織の多様性を尊重する
7、 確固たる信念を持ち、周囲に与える影響を考慮しながら理念を追求していく
8、 次のリーダーが育つ仕組みを作り、成長を支援する
このようなことをまずは心構えとして持っておくことが重要です。
■リーダーの在り方に正解はない
引用した記事には、
とありました。人間関係のストレスを抱えている状態では、いくらビジョンを魅力的に伝えても、響かないことがほとんどです。ビジョン型のリーダーシップが適切に機能するためには、大前提として、上司と部下の信頼関係の構築が必要です。何か問題が発生した時に「上司と部下の相性が悪かった」と相性の問題としてのみ片付けるのではなく、対話の機会をしっかりと作り、対話の内容を効果的にするための工夫や見直しをし続けることが、リーダーとしての役割でもあります。
これまで「ビジョン」「ビジョン」と言ってきましたが、「あなたのビジョンは何?」「チームのビジョンは?」と言われて即答できない人は実は多いのではないでしょうか。「大きなビジョンを掲げてチームを引っ張れ」と言われても、「自分はそういうタイプではない」と思う人や「ビジョンを持てと言われること自体が苦手」という人も少なくないのではないかと思います。
個人が働き方や生き方を自由に選択し、その時々の状況に応じて柔軟に方向性を変えていくことが求められる時代において、「ビジョンが見つからないこと」「ビジョンを明確に決められないこと」「以前決めたビジョンが変わること」に対して、必要以上に不安や焦りを感じる必要はない気がします。
繰り返しになりますが、リーダーシップには様々な型があります。会社や組織が求めていることを踏まえて、自分に合ったリーダーとしての在り方を模索していくしかないのです。
「リーダーとはこういうものだ」「リーダーになったからこそこうすべきだ」という意見は様々あると思いますが、私自身は、リーダーになった瞬間から何か行動を大きく変えるものではないと思っています。
たとえば、学校で「部活の部長になったから、部員に指示を出し始める」とか、社会人になって後輩ができ、「トレーナーという役割ができたから急に後輩に教え始める」とか、「マネージャーになったから急に会社やチームのビジョンを語り出す」ということではなく、常日頃から人のため、チームのために行動していた結果、気づいたらリーダーになっているという方が自然ですし、うまく機能するはずです。
リーダーになるために、またはリーダーになったから行動を変えるよりも、リーダーという役割であってもそうでなくても、自分の果たすべき役割を理解した上で行動に移していれば、自然とフォロワーがついてくるもので、その結果にリーダーという役割を本当に意味で全うできるのではないでしょうか。その過程で、大なり小なり「ビジョンを示すこと」「ビジョンをチームメンバーに伝えて愚直に行動すること」が重要であるというだけではないかと思います。
誰もがイメージする、分かりやすい“リーダーシップ”を発揮することが得意な人もいれば、苦手な人もいます。苦手だったとしたら、それが得意な人とチームを組み、お互いに弱い部分を補いながら、チームとして適切に機能するようなフォーメーションを組めば良いだけです。自分は何ができて何ができないかを理解した上で、自分が貢献できることを明確にし、チームが成果を出すために必要な要素を分解して得意な人に割り当てながら、チーム全体を適切に導くことも、リーダーにとって必要なことではないでしょうか。
最後に、どのようなリーダーシップを発揮することが適切なのかは、それぞれが置かれた環境や状況に応じて異なりますが、大切なのは、「自分に今期待されているリーダーシップとは何か」「自分の強みや特性はどのように生かせるのか」などと自分なりに仮説を立てて、実行に移すことです。
仮にうまくいかなければ何がダメなのかを内省し軌道修正し、進化させていく。その繰り返しが、個々のリーダーシップを高めていくことに確実につながっていくはずです。
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