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オフィスは「働く場所」ではなく「チームとなる場所」に再定義する【日経COMEMOテーマ企画_遅刻組】

テレワークでオフィスは必要がなくなるか?

テレワークが広まる中、これまで通りの従業員人数分の机と椅子、事務所のスペースが必要なのかという議論が活発だ。入社をすると、予め決められた席があって、決まったところで就業時間中は業務に専念するという働き方が産業革命以降、長年、当たり前の姿だった。しかし、その姿が変化しようとしている。

今回は、日経COMEMOテーマ企画の 「#オフィスは必要ですか」を題材として考えてみたい。 

「オフィス=経費」で単純に考えて良いのか?

コロナによって、オフィスの見直しが盛んになされている。東芝や富士通をはじめとした大企業が、こぞってテレワークの推進とオフィス・スペースの削減、座席のフリーアドレス化に舵を切っている。

全員が出社することがないのであれば、不必要なスペースを残しておいても仕方がない。そのためにオフィス・スペースの最適化を行おうというのは合理的な考え方だと言えるだろう。月刊総務の調査では、オフィスの見直しを検討している企業が7割弱となっている。

その一方で、オフィスはやはり必要だという揺り戻しのような現象もみられる。一見、テレワークと相性の良さそうなTech系ベンチャー企業でも同様の声があがっている。クラウド労務サービス「Welcome HR」を展開するWorkStyleTech社のドリー氏は、自信のyoutubeチャンネルにてリモートワークについての所感を率直に語っている。

同時に、コスト削減に関しても実はそこまでメリットがないのではないかという懐疑的な意見もみられる。

それでは、テレワークが当たり前になった時代でオフィスをどうすべきなのだろうか?

オフィスは作業場か?

そもそもの問題として、なぜオフィスは企業にとって必要なのだろうか。それは、業務を遂行するために最適な環境を整備し、従業員の働きぶりを経営者が管理し、労働生産性を高めることが目的と言えるだろう。

そのため、オフィス用の家具や資材は家庭用のものと比べて、高額であるものの頑丈であり、故障や修理が発生しにくい頑健性を備えている傾向にある。テレワークによって、オフィスで何気なく使っていた椅子が如何に長時間の事務仕事に適した機能を有していたのかを実感した方も多いだろう。

また、立地に関しても、極力従業員が毎日の通勤をするのに交通の便が良かったり、業務上の輸送や物流、顧客などのステークホルダーの動線、必要面積の確保に最適な場所を吟味して決定されることが多い。例えば、大分県には新日鐵の最大規模の製鉄所が存在する。これは、世界最大級の鉄鉱石運搬船の接岸が可能な推進の深い港湾を持っているという地理的な要因が大きい。

つまり、オフィスや働く場所は業務を遂行する上で、多様で複雑な要因を勘案し、最良の立地が決められる。最近では、パソナの淡路島への本社移転が大きな話題となっている。作業効率を重視してオフィスを作業場と考えるならば、東京駅のすぐ隣にある現本社は優れた立地と言えるだろう。

しかし、企業として次のステージに進むために、同社は淡路島への移転を意思決定した。まさしく、オフィスや働く場所の新しい価値観が出来上がろうとしている現在の状況を端的に表している事例だろう。

オフィスで最高のチームを作る

それでは、新しいオフィスの在り方とはどのようなものだろうか。それは、業務遂行のために最適な作業場としてのオフィスからの脱却だ。そして、その兆しは以前からみられていた。

米国のシリコンバレーは、新しいビジネスだけではなく、新しい働き方が世界で最も生まれる場所でもある。そして、近年の傾向として、行き過ぎとも捉えられるような充実した福利厚生がある。バブル崩壊以前の日本企業は充実した福利厚生が特徴だったが、それを上回る歓待ぶりだ。

職場のコーヒーや軽食が無料なのは当たり前で、朝・昼・晩と無料で飲食ができ、ゲームコーナーや動物と触れ合える場所があったり、社内でバーベキューやキャンプができる設備を持っていることもある。オフィスのデザインも、働く場所というよりも、アミューズメント・パークのような遊び心に溢れている。

これらは、作業場としてのオフィスとしては完全にオーバースペックであり、過剰なコストをかけているともいえよう。もちろん、これだけの好待遇ではないと人材獲得競争の激しい米国では優秀な人材を採用することができないという現実的な問題もある。しかし、それだけではない思いがある。

米国の学会などでGoogle等の先進企業で働く研究員と話しをすると、オフィスを作業場ではなく、チーム・ビルディングの場として捉えているような発言を見聞きする。

例えば、なぜ食事が無料かというと、そうすると従業員が皆そこで食事をとることになり、コミュニケーションの場として食堂が使われる。皆が食事をとるようにするには、食事の質を充実させたり、テーブルのレイアウトも話しやすいようにデザインする必要が出てくる。

彼ら彼女らの話から聞かれるオフィス作りのポイントは、どこで働くのかの選択肢を従業員個々人や各部署に与えたうえで、自ら進んでオフィスで働きたくなるような環境を作ることにあるという。

リモートワークでどこでも働けるが、オフィスの居心地を良くすることで、自然と皆が集まるようにする。そうすると、高いモラール(士気/やる気)を持った状態でオフィスに集まることができるので、チームとしての一体感や生産性が高まる。そうやって、従業員が自分の意志で職場に集まることで、やらされ感のない高い当事者意識を持ったチームを作ることができる。

月曜日に憂鬱にならないオフィスを作っているか?

仕事と会社が大好きだという極少数の人々を除いて、働く人々の大多数は週末休みが明けて月曜日に出社するのが憂鬱だ。そして、それを当たり前のこととして受け入れているのではないだろうか。新入社員のときに、社会人の心得として「仕事は嫌なものだから仕事なのだ」と教え込まれた方も多いだろう。

次世代のオフィスの在り方は「誰もが自ら進んで働きたくなる場所」へと変わろうとしている。筆者がパリの大手銀行に調査で訪れた時、当時、新しくできたばかりだというオフィスビルに案内された。そこは、新しい働き方を実践する場所だとして、服装は自由で、コアタイムなしのフレックス制、フリーアドレスという金融機関とは思えない柔軟な働き方を行っていた。

しかし、案内してくれた人事部の方が見せたかったのはそこではなかった。それは、最も使用頻度が高いとされる会議室であり、そこの窓からは荘厳なオペラ・ガルニエを一望することができた。

「私たちは、ガルニエ宮を最も美しく眺めることができるこの職場に来たくて仕方がないんです。それが、パリで働くことの楽しみでしょう。」

その光景を見せてくれたときに、そのように紹介してくれたのを覚えている。

来たくて仕方がないオフィス。その環境で働くことが、自分の誇りとなるオフィス。そういったオフィスを作れるかどうかが、これからの働き方に求められる発想だ。

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