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株主総会を前に「ESG投資」の話題がますます盛んになってきました。ESG投資にはいくつかの類型がありますが、株主として企業と対話し影響力を行使する中で長期的な成長を促していくエンゲージメントは、ある意味「ESG投資の本流」と言えるでしょう。そのエンゲージメントの手法のなかにもいくつかの分類があり、投資家と投資先企業の直接的対話や、株主としての議決権行使などが挙げられます。後者の議決権に関する制度として、わが国が株主に議題・議案の提案を認める株主提案権を導入したのは1981年のこと。米国などにおいてこの株主提案権はかなり歴史が古く、企業に対して株主が正式に「モノ申す」機会として活用されています。

最近ESGに関してこの株主提案権を行使する事例が増えてきています。E(環境)の中では気候変動問題が本丸ですが、気候変動問題は地球規模かつ長期的な課題で、不確実性の高いテーマです。この問題について株主提案権が活用されることに伴う問題点も指摘されておりまして、今日はその問題のさわりをご紹介したいと思います。

受託者責任の観点からESG投資に対してはこれまであまり積極的でなかった資産運用会社(asset manager)に対しても投資先へのエンゲージメントが求められるようになり、業界最大手のBlackRockをはじめとして、複数の資産運用会社が投資先企業に対して、気候変動関連リスクの情報開示を求める方針に転じたと報じられています。その影響をまともに受けている筆頭がオイルメジャーでしょう。
2017年5月に行われたExxon Mobilの株主総会では、産業革命前からの温度上昇を2℃未満に抑えるいわゆる2℃シナリオの下での同社の経営に関する影響分析を行い、それを開示するよう求める株主提案が賛成多数により可決されました。いわゆる2℃目標に沿って政府が採用する規制やコミットメントによって化石燃料の需要が減少するというシナリオの下で、Exxon Mobilの保有する石油・ガス埋蔵量および資源への影響を分析せよ、というわけですが、そもそも気候変動は地球規模かつ数十年、数百年にもわたる長期的な課題である上、気候感度など科学的な不確実性があります。各国の政策、同業他社の動向の不確実性も高いわけです。巨大な化石燃料事業者であるとは言え、2℃シナリオに沿う形で一企業の事業リスクを分析することが困難であることは容易に想像がつきます。とはいえ、下記の記事でご紹介した通り、この決議案は承認されました。その背景には、BlackRock、Vanguardおよびその2社に続く業界第3位のState Streetが支持に回った可能性が高いことが要因とされています。

ただ、こうした株主提案権が全て適正な権利の行使として認められている訳でもありません。実は米国では、提案の数は株主1人(1グループ)あたり1つ、提案理由の字数は500語以下という制限に加えて、会社側の委任状勧誘資料への記載から排除できる13個の事由が定められています(米国証券取引委員会ルール14a-8 )。さらにその事由に該当するか否かを迅速に確認できるようノー・アクション・レター制度が導入されていて、SECスタッフの見解を事前に得ることができるのです。
長くなるのでここまでにしますが、SECスタッフが排除を認める判断を示す事例も多く出てきており、ESG投資、特に気候変動を巡る株主と会社のより良いコミュニケーションをどう促進するか、これから議論を深めていかねばならないテーマだと考えています。

梅雨、そして株主総会シーズンももうすぐですね。

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