沈んだままの日本経済【完全復活は23年以降か】
「緊急事態宣言の形骸化」を象徴した4~6月期GDP
8月16日、内閣府より発表された2021年4~6月期GDP(速報値)は物価変動の影響を除いた実質ベース(季節調整値)で前期比+0.3%、年率換算では+1.3%でした。日本経済研究センターのまとめる「ESPフォーキャスト」における予想中央値(前期比年率+0.66%)も上回っており、仕上がり自体は「強め」と評価すべきものです(以下特に断らない限り実質ベース、前期比の議論とします):
「強め」となった最大の理由は民間最終消費が+0.9%、その中核をなす家計最終消費が+0.8%と伸びたことです。ちなみに「ESPフォーキャスト」では民間最終消費に関し▲0.1%超の減少が見込まれていました。
消費に何が起きていたのでしょうか。そこで家計最終消費を形態別(耐久財・半耐久財・非耐久財・サービス)に詳しく見ると、サービス消費が+1.5%と大きく伸びたことが分かります。旅行や外食、その他娯楽などが包含されるサービス消費は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による影響を最も受けやすいはずですが、ほぼ緊急事態宣言下にあったはずの4~6月期で大きく伸びました:
宣言対象地域が限定されていることから従前の緊急事態宣言と同様のダメージを想定するのも適切ではないものの、サービス消費の加速は巷で取りざたされる「緊急事態宣言の形骸化」を象徴するような動きと見受けられます。統計発表後の会見において西村経済財政・再生大臣が「正直に言って非常に複雑な思いだ」と述べたことが全てを物語っているように感じました:
また、耐用年数が比較的短く、耐久財(自動車など)に比べて高額ではないものは半耐久財と分類され、衣類、履物、鞄、靴などが対象となりますが、これも+1.9%と大きく伸びています。半耐久財が前期比で増加したのは2019年7~9月期以来、7四半期ぶりです。「自粛せずに外に出る」という消費者行動に伴って、それまで出番の少なかった半耐久財を求める動きが表出したのでしょうか。とはいえ、今回見られた消費の力強さはあくまで抑圧されていた需要(ペントアップディマンド)の結果であり、日本経済の力強さを示すものでは全くないでしょう。雇用者報酬は▲1.4%と昨年4 ~6月期以来、1年ぶりの大幅減少を記録しています。見通せる将来において行動制限が解除される雰囲気はありませんが、仮に行動制限が解除されたとしても消費を焚きつける雇用・賃金情勢は心強いものではありません:
半導体不足によるマイナスは徐々に剥落の想定
片や、内需のもう1本の柱である設備投資の伸び(+1.7%)は概ね予想通りでした。企業部門に関連して今後の動静に注目すべきは民間在庫投資でしょうか。今回、民間在庫投資は実質GDDP成長率全体(前期比+0.3%)に対して▲0.2%ポイントとマイナス寄与を記録しています。再三報じられているように半導体供給に制約がある中で自動車など生産活動にも影響が出ており、在庫取り崩しが先行していることの結果と推測されます。現在報じられる材料を見る限り、半導体の供給制約は来年初頭まで続くとの見方が多そうであり、生産活動が本来の能力を発揮するまでに時間を要すると考えられます。
もっとも、供給制約の度合い自体は徐々に緩和されてくると考えれば、半導体不足という要因が成長率を押し下げる度合いも徐々に小さくなると考えるのが自然でしょう。
内閣府試算、もはや使えず
4~6月期のマイナス成長を回避できたという事実は喜ばしいですが、同期の成長率(前期比)に関し、米国は+1.6%、ユーロ圏は+2.1%でした。この期に及んでも日本は欧米の成長率の半分にも満たない歩みを強いられているという事実は重く、ここまで出遅れたことで「コロナ前を復元」も相当先延ばしになりそうです。7月、内閣府が発表した2021~2022年度の経済見通し(年央試算)はワクチン接種に応じた国内消費の持ち直しや海外経済回復に伴う設備投資および輸出の持ち直しの結果、実質GDP成長率に関して、2021年度が+3.7%、2022年が+2.6%になると試算されています。この試算通りに7~9月期、10~12月期に等速で成長した場合、年末の実質GDPは絶対額で548.7兆円程度まで回復することになります。これは2019年10~12月期の547兆円を超えるので、一応は「コロナ前を復元」ということになります。
しかし、図表を見ても分かりますが、そもそも2019年10~12月期は消費増税や台風19号の影響で当時としては5年半の低成長(前期比▲1.9%)を経験し、大きく落ち込んでいるという経緯があります。名実ともに「コロナ前を復元」と言い張るには2019年7~9月期の水準(557兆円)まで回復することを期待するのが筋です:
内閣府見通しが正しければ、2022年4~6月期にはこの水準を超えてくる予定ですが、変異株の感染拡大やこれに伴う緊急事態宣言の対象地域拡大を踏まえれば、もはやそうした展開にはなりそうにありません。7月見通し策定段階では、現状ほどの事態悪化を織り込んでいないからです。
日本経済がコロナ前に復活するのは2023年以降
2019年7~9月期までの3年間(12四半期)の成長率は平均+0.2%でした。仮に来期(2021年7~9月期)以降、このペースで成長すると仮定した場合、557兆円を超えてくるのは2024年10~12月期になってしまいます。とはいえ、感染終息に伴うペントアップディマンドが発揮されることを思えば、こうした成長軌道は保守的な想定に過ぎるのも事実でしょう。
楽観的な内閣府見通しを①、そうした保守的な想定を②とした場合、その間の③の成長軌道を描くとしたら、2022年10~12月期には557兆円を超えられそうです。とはいえ、上述した通り、①のシナリオがかなり楽観に傾斜している事実を踏まえれば、③のような中間シナリオもやや割り引いて受け止める必要があります。とすれば、日本経済がコロナ以前の水準を名実ともに復元してくるのは2023年に食い込む可能性も見えてきます。
既に復元してしまった中国や米国、年内の復元が確実視される欧州との距離はあまりにも大きいと言わざるを得ません。こうした実体経済の現状と展望に関する格差がそのまま株や為替など、資産価格の見通しに反映される可能性は非常に高く、例えば為替・株式市場では日本の1人負けが鮮烈になっていることは以下のnoteでも論じた通りです。この傾向は今後1年以上続くと筆者は考えています: