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平和の祭典の裏で、現代の奴隷制の問題解決ができていない国

五輪はただのスポーツ競技会ではなく、平和な社会を推進することが目的

この記事を執筆している7月27日の時点で、驚くことに国別メダルランキングで日本が金メダルの最多受賞国となっている。国際スポーツ大会では、開催国は良い成績を残す傾向にあり、五輪でも開催国はメダル獲得率が高まる傾向にある。まだ序盤とはいえ、素晴らしい成果だ。

日本代表のアスリートが卓越したパフォーマンスを発揮している一方で、近代オリンピックの理念であり哲学的原理であるオリンピズムの体現を日本社会はできているのだろうか。五輪は世界最大のスポーツ競技大会であるが、それ以上に「平和の祭典」であり、目的は「人間の尊厳保持に重きを置く、平和な社会を推進すること」にある。スポーツはそのための手段であり、達成を目指す目標は、スポーツを人間の調和のとれた発達に役立てることだ。

オリンピズムに照らし合わせるなら、私たちはただ選手の活躍を見て無邪気に一喜一憂するのではなく、この機会に「人間の尊厳保持に重きを置く、平和な社会を推進すること」について考える機会とすべきだ。

人間の尊厳保持で警告を受けている「技能実習生」

長年、国際社会から「現代の奴隷制度」として警告を受けているのが、外国人技能実習制度を悪用した外国人技能実習生を対象とした搾取だ。「技能実習生」は、途上国の開発援助の一種として、報酬を伴う技能実習、或いは研修を行うことを目的としている。技能実習であり、研修であるので、当然ながら受け入れ企業は労働力として扱ってはならない。また、定められた技能取得に関係のない業務への従事も認められていない。

しかし、実態として、技能実習生は安価な労働力として考えられ、制度の趣旨と実態の乖離が構造的な問題となっている。また、技能実習生の管理団体が送り出し機関と違法なマージンの取引が横行し、過剰接待や違法行為である性接待も行われておりその費用は技能実習生が送り出し国への支払いに転嫁されていることも多い。このような状況から、国際社会からは「現代の奴隷制度」と問題視されている。

このような問題は、長年、指摘され続けているが、問題解決のために有効な手段を講じることができていない。長時間労働、最低賃金違反、残業代の不払い、パワハラ、セクハラが横行し、常態化している。2019年に厚生労働省が全国の労働局や労働基準監督署を通じて全国約7,300の事業場を対象に行った監督指示や送検等の状況について取りまとめた結果では、70%以上で労働基準関係法令違反が認められている。このような現状に対して、日経新聞の社説では速やかな制度の廃止を求めている。

技能実習生の違反は中小企業の問題だけではない

技能実習生の受け入れ先の多くを占める繊維・衣服産業と農林水産業は、小規模の事業者が多く、大企業や有名ブランドの下請けや孫請け企業であることも珍しくない。そのため、ブランド棄損のリスクを被る大企業や有名ブランドが法令順守をするように指導をしたくても、業務委託先のマネジメントまで手が回っていない現状もある。

NHK『ノーナレ』で取り上げられた今治タオル組合や、テレビ東京『ガイアの夜明け』で取り上げられたジャパンイマジネーションでの事例では、複雑化しすぎたサプライチェーンで起きたことだった。そのため、両社ともに報道で実態を知ることとなった。

それでは、大企業であれば問題がないかというと、そういうわけではない。2018年には、三菱自動車と日産自動車で技能実習生を計画と異なる作業をさせる不正があったと摘発された。

技能実習生の問題は、企業規模に関係なく、どの企業でも起こり得る問題となっている。そして、問題を解決するための抜本的な取り組みは行われていない。

このような現状を受けて、有志が違反企業を検索できる「外国人技能実習制度 違反企業マップ」を作成、公開している。マップを見ていると、違反企業は日本全国で認められ、特に、企業数の多い7大都市圏を除けば、瀬戸内海を挟んだ山陽地方と四国地方、長野や岐阜などの東山地方、富山を中心とした北陸地方に違反企業が多いことがわかる。

平和の祭典を主宰する国として、国際社会の一員として胸を張れる日本でいあるためにも、技能実習生の問題は放置していられるものではない。華々しい日本人アスリートの活躍と熱狂する国民の陰で、日本企業に搾取されて涙を流している外国人技能実習生の存在があることを忘れてはならない。それが、五輪の哲学であるオリンピズムを体現するということだろう。

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