VRを活用した学習の可能性とは? ーゆっくり熟達者になる

VRを活用した学習の可能性とは何か?数多ある中の一つは、熟達者の身体になれてしまうことです。そしてもう一つは現実の速度を変えられることです。

「あの人のようにできたらいいのになぁ」と考えることがよくあります。人は、熟達者の身振り手振りを自分の身体に敷き移すことで、新しい技を自分の体にインストールしていきます。

大学時代、アドビのイラストレーターの使い方を覚えるのに、グラフィックデザインを得意とする先輩の横でずっと先輩がイラレを操作するのを延々と眺めていたことがありました。その結果、イラレを使えるようになっていました。

「けん玉できた!VR」の衝撃

今、こうした身体的な知の獲得を、VRによって支援する動きに注目があつまっています。たとえば、イマクリエイト株式会社が開発した「けん玉できた!VR」です。

「けん玉できた!VR」とは、以下のようなソフトウェアです。

VR空間で、けん玉のスピードを調整しつつ、プロの動きを真似ることで、5分程度で新技習得を目指せるシステム。現実では再現できない「スローモーションでの練習」が可能です。玉の速度を徐々に現実に近づけていくことで、スムーズに技を習得することができます。

熟達者が目にも止まらぬ速さでけん玉と身体を動かして、技を決める。VR空間では、その速さをゆるめ、ゆっくりと熟達者の身体の動きを自分に馴染ませることができるようです。体験してみたい…!

ゆっくりできないことは早くできない

「人は、ゆっくりできないことは早くできない」と学習領域ではよく言われます。スポーツでも、プログラミングでも、グラフィックデザインでも、いきなり新しく複雑な技をできるようになることはないでしょう。

基礎を積み重ね、ゆっくり着実な学びを重ねることで、次第に素早く成果を出せるようになっていきます。

身体知の領域では、これまで「ゆっくりやる」ことをイメージトレーニングのなかでしかできてきませんでした。しかし、これらVRを活用することで、現実ではありえない速度で「ゆっくりやる」ことが可能になるのです。

ゆっくりと「対話」をシミュレーションする

こうした学習はソーシャルスキルトレーニングにも応用できるでしょう。ある人と意見が対立したとき、つい自分の意見を押し通そうとしたり、あるいは自分の意見を押し殺したりしてしまいます。

VR空間での対話シミュレーションを用いて、相手と意見が対立した際の思考をゆっくりとシミュレーションし、まず相手の立場になって考え、自分の意見をどのように伝えるか、コミュニケーションの熟達者の伝え方を模倣した上で自分の意見を構成し、そのうえで発言する。こうしたプロセスを「ゆっくり」シミュレーションすることができれば、次第に滑らかな対話ができるようになるかもしれません。

こうしたテクノロジーの可能性を探究しながら、新たな学習の可能性を切り開く研究者の方々には、リスペクトが深まります。

各通信会社もXR事業に乗り出し、まだまだ未成熟の市場でありながら活況を極めています。

スマートフォンがもたらしたインパクトに近いものを、XRのデバイスたちがもたらすかもしれません。この変革の過程に、学習領域の専門家として立ち会いたいと感じています。

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