中小企業の採用の未来②【会社説明会の前にやるべきこと】
人手不足の問題は、将来的に継続して悪化していくということは多くの人が共有する未来予想だろう。AIによる仕事の代替や外国人労働者の受け入れは解決策の1つではあるが、それで問題が解消されると楽観視できるかというと難しいと言わざるを得ない。
特に、人手不足の問題は、複数の課題が組み合わさって生じているために複雑性が高い。単純に労働力が足りないだけなのか、それとも人材の質の問題なのか、企業が置かれた状況や採用事情によって問題の所在が異なる。
複雑性の高い人手不足の問題に対して、中小企業はどのように対処していくべきだろうか。本稿では、前回とりあげた採用パターンを参考にしつつ、労働市場との関係性から、人手不足問題について検討していく。
パターン1:OLパターンでの量の人手不足「知名度がないと説明会は効果が薄い?」
OLパターンは、採用した人材が組織の一員として日々の業務に貢献し、長期的に安定した成果を出すことを期待する。新卒採用の多くのケースは、OLパターンに当てはまるだろう。特に、地方都市では労働市場に転職希望者が十分にいないため、新卒採用が主な人材獲得の手段となっている企業も多い。
OLパターンにおける人手不足の量の問題は、会社説明会などの学生との接点を持つ場で顕著に表れる。高い出展料を支払って合同説明会や学内説明会に参加したとしても、学生がブースに来ず、そもそもアピールする機会がない。残念ながら、学生が興味のある企業に赴き情報収集するという会社説明会の方法論の特性から、突然、数多くの学生が来るように仕向けることは容易ではないだろう。しかし、会社説明会という方法に捉われないのであれば、実は学生と企業が接点を持つ場はいくつも創り出すことができる。
例えば、コーネル大学のコリンズ准教授の研究チームは、就活生にとって認知度の低い商品やサービスを扱っている企業は、認知度の高い企業と比べて、従業員との座談会や労働条件のアピールのような情報量の多い求人手段を用いても、応募者を増やすことにあまり有用ではないという調査結果を報告している。つまり、優秀な人材を集めるためには、企業の認知度やブランディングと連携していく必要がある。実際に欧米企業の中には、採用ブランディングのチームを企業ブランディングを担当するマーケティングチームの人員から構成している企業もある。
企業の認知度を増やしたり、ブランディングをしたりしていくことはコストが非常にかかるように見えるが、採用ブランドと連携させることを目的とするとそこまで大がかりなことをしなくても良い。自社が欲しいと思っている学校をターゲティングし、ゲスト講師として講演や学園祭での協賛、特定の研究室との共同研究だけでも違ってくる。
先述した、コーネル大学のコリンズ准教授の研究チームによると、企業認知度の低い企業が応募者を増やすには、採用に関する情報量が少なくとも、広告を出して露出を増やすことが有用であると述べている。会社説明会やインターンシップで密度の濃い採用のコミュニケーションを図るのは、まずは学生に自分たちのビジネスを知ってもらい、企業イメージを掴んでもらってから始まる。
パターン2:OLパターンでの質の人手不足「『優秀な人材』で選ぶと内定辞退される」
OLパターンにおける人手不足には質の問題もある。具体的には、内定辞退や入社後の早期離職や不適応という形で現れる。特に、内定辞退は採用担当者にとって大きな問題だ。予算、労力、時間とコストをかけてようやく内定(内々定)を出しても、半数以上に辞退される企業も多い。
それでは、なぜ内定辞退をされてしまうのか。ここに「優秀な人材」という言葉の恐ろしさが隠れている。中小企業の採用担当者とコミュニケーションをとっていて感じる違和感の1つが、欲しい人材のイメージが具体化しきれていないことだ。様々な表現方法があるが、突き詰めると「優秀な人材」という抽象度の高い言葉に集約されることが多い。そして、抽象度の高い「優秀な人材」という言葉でくくってしまうことで、人材のバッティングが生じやすくなっている。
多くの場合、「優秀な人材」という言葉には、誠実性や協調性、前向きな性格、地頭の良さといった要素が含まれるが、これらの要素は多くの企業に共通して求められる。学生にとってみれば、自分が選ばれた基準に差がなく、選考過程でも特別な違いがなければ、規模の大きな企業やBtoCの馴染み深い企業に魅かれる。つまり、学生にとって「なぜ自分が選ばれたのか?」がわからないので、内定をもらった企業がどれも同じように見えてしまう。
同じように見えるのであれば、規模が大きく、馴染み深い商材を扱っている企業を選ぶのは道理だ。また、新卒の学生にとって進路決定に大きな影響を及ぼすのは両親だが、両親に対しても、学生が「なぜこの会社ではないといけないのか」という合理的な説明ができない。
内定辞退される企業は、今一度、欲しい人材像や採用時の要件定義を見直して欲しい。競合と比べて、大きな違いがないのであれば、学生に対して「貴方が欲しい」というメッセージを伝えることが難しい。人材要件は、学生に対して「貴方に入社して欲しいと思った理由」であり、志望度を上げるためのコミュニケーションの軸となる。
まとめ
OLパターンの採用を行う時、会社説明会や求人サイトなどの定型化された手法があるために、どのような企業でも画一的に類似した手法を用いられてきた。しかし、このことは中小企業が大企業と同じ土俵で戦っていることと同じであるため、応募者のプール(母集団)を形成するときや複数企業の内定者の引き留めに課題が生じている。
「採用はマーケティングと同じだ」とよく言われる。「マーケティング」であるならば、中小企業が大企業と競合するとき、正面から戦わず、ニッチ戦略や差別化戦略をとることは定石と言えるだろう。しかし、なぜか新卒採用の現場では、中小企業は大企業と正面から戦うことになってしまっている。就職氷河期や買い手市場のときは、それでも人材が獲得できるが、現在のように売り手市場となると、大企業と同じことをしていると採用の難易度は増すばかりだ。
差別化をするためには、採用のターゲットを明確化し、ターゲットに対してブランディングをすることで認知度を高めることが第一歩となるだろう。そして、内定者を惹きつけるために「なぜ、貴方ではなくてはならないのか?」をメッセージとして届けるストーリーを作ることが重要となる。ストーリーを作るためには、「自社における優秀な人材とは、どのような人材を指すのか」、自社独自の人材要件を明らかにする必要がある。
採用面接にて、「なぜ自社ではなくてはならないのか?」という定番の質問がある。この質問は、雇用する必要性のない企業に対して、被面接者が雇用する必要があるのだとアピールすることが目的だ。しかし、募集段階や内々定から入社までの期間は立場が逆である。なぜ入社して欲しいのか、ストーリーを語ることなく、複数企業の内定者を説得することは難しい。中小企業こそ、採用のためのブランディングと人材要件の明確化が重要だと言える。
次回は、即戦力採用を目的としたTSパターンにおける人手不足問題について考えていきいたい。
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