スポットワーカーの急増は生活苦のためか、はたまた別の理由か?
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
スキマ時間を活かして仕事をする「スポットワーカー」が急増しています。利用者は1000万人を超え、全労働人口の15%ほどの規模となっています(副業による重複があるため、あくまで規模感を示すための数字です)。
学生などのアルバイトやフリーランスの利用が大半かと想像していたら、3~4割は他で正社員として働きながらの副業ワーカーとのこと。働き方改革により副業解禁が進んだり、残業が減り定時に退社できるようになった影響と思われます。柔軟で多様な働き方ができるという点ではポジティブなことなのかもしれません。
一方で生活の足元ではインフレによる物価高がジワジワと体感できるレベルになってきています。残業禁止が意味するところは、裁量労働制ではない大半の方の残業代が減る。つまり、事実上手取りが減っているということなのです。
統計を見てみても、正社員・大卒男性では1970年代生まれのの平均年収は60年代生まれのに比べ、40歳代後半で150万円ほど少なくなっています。それ以降の世代は賃金水準がさらに低くなっています。経済成長をしなかったいわゆる「失われた30年」が賃上げを抑制してきたのに加えて、働き方改革がまず残業抑制に向かったことが原因でしょう。
逆にこの期間に力強い経済成長をとげた米国ではどうでしょう。直近ではリセッションの懸念もあり米国企業の決算は悪いニュースが多いです。しかし、毎回予想を上回っているのが失業率の低さであり、これまでの定石と異なる雇用の強さを見せています。
労働人口が減る中で雇用の中身がサービス業に偏っているという点は、奇しくもスポットワーカーの中身と類似しています。日本の正社員はすぐに解雇されることはないので話は異なるとは思いますが、本業での不足分をスキルの蓄積になりにくいスポットワークに依存することは、長期的にみてリスクになりえます。
ここからはもう少し明るい面も見てみたいと思います。それは「スポットワークなどにより別の居場所を確保することはウェルビーングのためには良いことである」ということです。
どういうことでしょうか? これは、今年の2月のイベントでウェルビーングを研究している医学博士・石川善樹他と対談した際に話題になったことです。
ウェルビーングを測る関連指標である「今の充実感」「自己肯定感」「チャレンジ精神」「社会貢献意欲」などにおいて、居場所の数が多いほどそれらが高まるということがわかったとのことです。
裏を返せば、あまりにも居心地がいい場所が1カ所あるのは危険であるということです。他の居場所に行ったときに居心地悪く感じてしまうから。1つの会社に愛着を持ち定年まで勤め上げることは素晴らしいことですが、定年後に居場所がなくて困ってしまったみたいな話です。意図的に複数の居場所とそこでの認知(人格)をつくることは、幸せを実感するためには不可欠のようです。
なかなか本業の会社以外の世界に触れる機会のない方は、スポットワークをそのツールとして使うのは非常に有用でしょう(お金ももらえますし)。働く先を選ぶ基準として、自分の好奇心が刺激されたり、新たなネットワークができたり、本業に関連するようなスキルが得られそうな場所を選択するというのが重要だと思います。
そういう意味では現在スポットワークをしている方々がどのような理由でしているのかの詳細に興味があります。今後そのような調査があればまた深掘りしてみたいテーマです。
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タイトル画像提供:takeuchi masato / PIXTA(ピクスタ)
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