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日米金利差逆転という未来はあるのか?~「あり得ないことはあり得ない」

次々と実現化してしまったリスクシナリオ
市場参加者、とりわけアナリスト稼業の人々はリスクシナリオを常に抱え、示す習慣があると思います。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大によって「まさかないだろう」、「あり得ない」と考えられてきたことが次々と現実化しています。


例えばトランプ政権による巨額の財政出動は2020年のアップサイドリスクの1つだと言われてきました。しかし、これは既にコロナショックに乗じて決定されようとしています。本稿執筆時点では米議会の通過が難航しているものの、この混乱状況で野党・民主党が反対を続けるのは容易ではないでしょう。大統領選挙を控えていることを思えば尚のこと、です。今後、停滞が長引いてくれば、トランプ政権の象徴とも言える保護主義政策が後退に向かい、対中関税の取り下げなども検討される可能性すらあるでしょう。政策対応に伴うアップサイドリスクとして警戒してきた論点(以上のこと)が一気に実現しているのが現状です


まだ起きていないことの中でも恐らく起きるだろうということはあります。例えば、英国とEUは今年6月末までに英国のEU離脱(ブレグジット)にまつわる移行期間延長可否を決断する必要があります。この決断有無は市場参加者にとって1つの注目点となっていました。ジョンソン首相が再びあのキャラクターを全面に押し出し、宣言通り延長を拒否した上で通商交渉も頓挫し、今年12月末に実質的なノーディール離脱になってしまう展開は2020年のブラックスワンの1つと考えられてきました。しかし、現状を踏まえれば、移行期間は有無を言わさず延長される可能性が非常に高いのではないでしょうか。ただでさえ経済・社会が混乱しているところにわざわざ不確定要素を持ち込む必要はありません。五輪ですら延期されたのですから、元より延長可能な移行期間を「延長しない」ことは考えにくいでしょう。済し崩し的に移行期間は2021年に及ぶ可能性が高まっています

FRBのマイナス金利導入というリスクシナリオ
この状態からさらに「あり得ない」ことを想定するのは容易ではないでしょう。最悪のリスクシナリオはこのまま年単位で新型コロナウィルスの恐怖に怯えながら経済活動が萎縮する状態が続くことです。逆に、最善のリスクシナリオはウィルスの感染拡大が早期に終息し、自粛対応で抑制されていた消費・投資意欲が実体経済を押し上げことでしょう。

前者のシナリオであれば、株を筆頭とするリスク資産は徹底的に手放されるはずです。後者のシナリオであれば、リスク許容度の改善に応じて2月初旬の株価水準などを目指すことになるのではないでしょうか。中国当局の情報発信が真実とすれば震源地となった武漢における感染拡大が終息しているので、欧米も夏頃までには落ち着きを取り戻す...と期待する向きが多いのではないかと思います(希望的観測は承知の上です)。これより長引くのか、それとも短期終息するのか、でリスクシナリオは上下に分岐するでしょう。


現状、それ以上の事は論じようがありませんが、金融市場の参加者として現実的に気にしなければならないのは(言い換えれば関心が高いのは)やはりFRBの挙動でしょう。3月だけで150bpsの利下げと無制限の量的緩和(QE)を決めてしまった今、いよいよ残された手札はマイナス金利政策しかありません。もちろん、緊急利下げの直後も含め、これまでパウエルFRB議長を筆頭にFRBは終始マイナス金利に反対する立場を表明してきました。しかし、ECBも日銀も否定しつつ、マイナス金利導入はある日突然でした。予断は許しません。一連の踏み込んだ政策対応はウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁の「残された政策余地が小さいのであれば一気呵成に緩和を強化して片をつけるべき」という思想に基づいたものだと言われています。その思想が引きずられるのだとしたら、マイナス金利政策の可能性は払拭できないでしょう。

結果として想起される日米金利差逆転という事態
万が一、FRBがマイナス金利を採用した場合、今度はその「深掘り余地」に焦点が当たるはずです。ドル/円相場は目下、「金利差なき世界」で道標を失っておりますが、円金利が日銀によるイールドカーブコントロールで概ねゼロ金利にペッグされていることを思えば、「FF金利の深掘り余地」に焦点が当たる世界では日米金利差の逆転という未曽有の事態も目にするかもしれません。もちろん、円高リスクです。ここまでくれば「あり得ないことはあり得ない」のであり、リスクシナリオの1つとしては注視すべきものでしょう

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04年慶大経卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会(EU本部)などを経て08年10月より現職。著書に『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』。所属学会:日本EU学会。※コメントは個人的見解であり所属組織とは無関係です